大部分が青い海でおおわれた海と島のリゾート惑星スコラ。メインランドの浜辺を望むホテルのテラスで物思いにふけるレオナルド。波の音が心地よいリズムを刻む。
「蒼い空、青い海。リゾート惑星スコラか。噂通りの美しさだな」
波の音に耳を澄ませる。
「ここへ来てもう2ヶ月。いまごろアスカテックはどうなっているだろうな。・・・。いかんいかん。これじゃただのワーカホリックのおやじだ。・・・ん。そういえば、確か依頼していた新聞が届いていたはずだよな」
ガサガとテーブルに置かれた雑誌類の中から新聞を取り上げ開く。
「ふーむ」
「ハイ、こんにちは。また会ったね、黒髪のミスターダンディ」
真剣にレオナルドが読んでいる新聞を指で押さえて、顔をのぞかせたのは、アルバートという20歳前後の若者だ。
「な、なんだ、また君か」
「君か、はないでしょ。つれないなあ。そんなことよりさ、いまどき、そんな紙の雑誌や新聞読んでるのあなたくらいのものだよ」
そう言うとアルバートは隣の椅子にドスンと音をたてて腰掛ける。
「まあ、人の趣味にけちをつける気はないけどね。あなたのビデオホンにだってスコラのニュース・メール配信センターから逐次最新情報が送り込まれてるだろうに」
「ビデオホンのニュースは持ち歩けないさ。それにこれは、ほれ、こうやって」
新聞紙のがさつく音。
「丸めると武器になる」
レオナルドはそう言うと軽くウインクしてすかさず、アルバートの頭をポカポカとこづいた。
「ほれほれ。こんなに役に立つんだぜ。ハハハ」
「いたいよ」
椅子に座ったまま避けようと身をそらせるアルバート。
「まったく。顔に似合わぬ暴力おやじだなあ」
「ふん。おやじ、おやじ、と気安く呼ぶな。きみのお陰で、だんだんおやじの気分になってきている今日この頃だぜ」
そう言うとレオナルドはくしゃくしゃになった新聞を再び開いた。
「ところで、今日は娘さんから電話はなかったの?」
おどけた仕草で受話器を持ってプッシュするまねをする。
(やれやれ、余計な身の上話をしてしまったお陰で、あれから毎日のようにここへ来て、なんやかやと世話を焼いてくれるよ。この金髪の坊やは)
「ああ、まだないね」
「あれ、ごきげん斜め?そんなに娘さんが気になるのなら離婚なんてしなけりゃよかったのにさ」
「・・・」
「あ、無口になった。せっかくいい情報を教えてあげようと思ったのになぁ」
アルバートをじろりと横目で見て
「いい情報・・・?リタイアしたわたしには、もはや『いい情報』なんてのは必要ないさ」
と、言いながらふんと横を向く。
「機嫌悪いなあ。宇宙花火のことを教えてあげようと思ったのに」
「宇宙花火?」
(なんだ、そんなことか。宇宙花火・・・。新年を迎える夜に打ち上げられるという花火。リゾート惑星のあちこちで同時に打ち上げられるのだそうだ。メイアードが言っていた)
「知ってる?ここの花火はひと味違うんだよ。何たってあのラマント鉱石をふんだんに使うんだからね。あの貴重なラマント鉱石をさ」
「あ、ああ」
「ラマント鉱石を使った花火は実際は打ち上げられるのではなく、空から落下しながら炸裂する・・・。きっと壮観だよ」
「もう新年までそう日もないからな。そういえば、きみはどうするんだい。このまま、ここで新年を迎えるのかい?」
「・・・。不本意だけどそうするしかないだろうね、それに」
そう言うとアルバートは少し憤然とした表情になった。
「それに、狙った獲物はまだ手に入れていないし」
「狙った獲物ぉ?きみには似合わんセリフだなあ。何を狙っているというんだ。金か女か。どっちもここにはないぞ。ここは観光とラマント鉱石だけが産業のリゾート惑星だからな。歩いているのはほとんどが年寄りかホテルの従業員だ」
「ふん、あなたとボクを一緒にしないでほしいね。お金がほしくないとは言わないけれど、不自由はしていないよ。それにこう見えてもボクにはちゃんと婚約者だっているんだ」
「ほお、それはそれは。じゃ何をご所望ですか。素敵なブルーアイのミスターブロンド。よければ、わたくしめがご相談にのりますよ。あいにく金と力はありませんがね」
「だからあ、お金じゃないって言って・・・」
「はいはい。今日はここまで。わたしはゆっくりと過ごすためにここにこうしているワケで、こうするためにここにいるんじゃないっ」と新聞紙で再びポカリとアルバートをたたく。レオナルドは反撃される前に素早く椅子から立ち上がった。
「ほおれほおれ」
「やめろ」
「それ、よけて見ろ。きみの運動神経はEクラスか?ははは。今日はこのくらいにしてやろう。あ、そうだ。獲物を狙う前に身体を鍛えたほうがいいぞ。獲物が何かは知らないがね。これがわたしのアドバイスだ、参考にしろよ、ハハハ」
「こらあ、逃げるな。話はまだ終わっていないぞ」
「ああ、よければ新年の夜はわたしの友だちの家で一緒に過ごさないか。そこからは花火もよく見えるらしいぞ」
すでに反撃範囲を離脱した、レオナルドがこう叫んでいた。