妄想 MO-SO-

私はアンジェリーク。
何の因果か栄えあるこの宇宙の次期女王を決める女王候補生に選ばれ
空の上にぽっかり浮かぶ楽園のような飛空都市に来ています。
ここで私とロザリア(あ、もう一人の女王候補生さんですけど)の試験を助けてくれるのは
いずれ劣らぬハンサム揃いの九人の守護聖さまたち。
この方々や優しい女王補佐官のディアさまに囲まれ、忙しくもとっても楽しい毎日を送っています。
そして、どこをどう間違ったのか・・・
その中でも一等素敵な長身黒髪、秀麗な美神である闇の守護聖さまに気に入られ
さらにさらに毎日はバラ色。
(それはどうも私の髪の色のお陰みたいだけど・・・)
ふふっ。

「クラヴィスさま、こんにちは!お約束通り今日はお誘いにまいりました」
「よく来たな。今日はお前と約束をしていたな」
「はいっ!それに例のことも」
「例のこと?」
「先日のお返しに今日は24時間私の思い通りにさせてくださると、お約束してくださいましたよね」
「あ、ああ、そう言えば・・・確かにそのような約束もしていたようだ」
「うふふっ」
私、アンジェリークは実はゼフェルさまも真っ青のメカフリーク。
木の上に登ってみたいというクラヴィスさまの願いを叶えるために、
先日、特性リフトを作って差し上げたのです。
一緒に木の上から見る飛空都市の美しさといったら・・・ふふっ。

「では、まず最初にこの椅子に座ってくださいな」
鏡の前に大きな椅子を運んでクラヴィスさまを誘います。
「はい、目をつぶって・・・少し動かないでいてくださいね」
しゃりしゃりとはさみを動かして前髪を少し切る。
ほおら素敵。
今日のデートにぴったり、前髪ハラリの黒髪の貴公子の誕生!
「ああ、少しスッキリしたようだな」と、クラヴィスさまもまんざら悪くはないみたい。

さあ、次はこれ。お衣装の着替えですよ。
今日はさわやかに行きます。
まず、衣装棚を開けさせていただきますね。
ふ〜む。
こんなにたくさんお持ちなのに、執務の時はあの正装しかなさらないんですね。
もちろん、あの正装もアンジェリークは大好きですけど・・・。
はい、これとこれとこれ。
最初は、この白い綿の衣装を素肌の上に着ていただきましょう。
そして、その上にはこの紺色の薄ものを。上着代わりにまとっていただきましょうか。
そして・・・はい。この腰のところは軽くこのサッシュで締めていただきます。
ほらなんて素敵。
初々しい青年守護神の出来上がり。
足元は今日はサンダルにしてくださいね。お衣装と合わたいから。
それに今日は、美しい素足を足元だけでもみなさまに見せてあげましょう。
アンジェリークは着替えのお手伝いも一つ一つさせていただきました。
ただ、一番下の衣装をお着替えになるときだけ部屋から追い出されましたけど・・・うふふ。

サラサラと髪をなびかせて歩くクラヴィスさまに飛空都市の人たちが驚きの表情で振り返る。
あれが、あの闇の守護聖さま?
滅多にお出歩きにならないのに、今日は正装以外の身軽なお姿で
しかも公園をお散歩なさっている・・・。
そんな声が聞こえてきそう。

噴水のそばで立ち止まると、私は水面をのぞき込みます。
「クラヴィスさま、見てくださいな。あなたと私が映っています」
噴水のしぶきのせいで、二人の姿が仲良く揺れています。
その情景に少し見とれたら、花園へ向かいます。
辺りに人がいるので、あまりクラヴィスさまに近づいたりできないけど、
花の中に座っているあの方はまるで王子さまのよう。
「花よりも輝いて見える」ふと、そう聞こえたのは気のせいでしょうか?

もっと二人きりになりたい私はクラヴィスさまを飛空都市の丘にある草原へ誘います。
「少し、歩き疲れたな、アンジェリーク」
クラヴィスさまの言葉に、草原の中で一休み。
クラヴィスさま、日頃の運動不足がたたってか、
少し横になると言って木陰に歩いていこうとなさるので、それをお引き留めします。
「クラヴィスさま、ここでお休みください」
私の膝枕は小さいけれど、よろしければどうぞ。
少し、てれたような顔をなさったけど、大丈夫。
しばらくするとスヤスヤと安らかなお顔で寝息をたてるクラヴィスさま。
草原を吹き渡るやわらかな風が衣装と髪に遊んで、とても心地よいひととき。
私は、クラヴィスさまの髪にそっと触れてみます。
さっきの床屋さんとは気持ちが違います。
思ったよりも柔らかくて、さらさら。
風で乱れ額にかかった髪を手ぐしにして掻き上げます。
長いまつげが陰を落として、神のように端正なクラヴィスさまのお顔。
ほれぼれと見つめます。
なんて幸せなんでしょう。
心なしかクラヴィスさまもお幸せそうな寝顔をなさっています。

風がざわめいてきたので、目を覚ますクラヴィスさま。
「そろそろ帰ったほうがよいのか」
風に乱れるクラヴィスさまの髪を私は自分のリボンをほどいて後で軽く結びます。
これも素敵。
「その前に森の湖に寄っていきましょう」とお誘いすると
「・・・ならば、行くか」
決していやそうではなくうなずいてくれるクラヴィスさま。
お約束の24時間にはまだまだ・・・。
それに、このまま帰ったのではさみしいですよね。

森の湖の近くに小川があって、
そこを渡るとき、クラヴィスさまは私に手を差し出してくださいます。
「どうした、つかまらぬのか?」
思わず私、アンジェリークの方が赤くなってしまいました。
クラヴィスさまの手のぬくもりが・・・。

そのまま手を握っていたかったけど、そうはいきません。
森の湖に入ると人影は見あたらず、二人だけ。
滝の水音が神秘的な調べを奏でます。

湖のそばにたたずんで何時間かたったころ。
「クラヴィスさま」
アンジェリークはもうがまんできません。
横に並んで黙ったまま湖を眺めるクラヴィスさまの袖を引きます。
「なんだ」
思いのほか真剣な様子のクラヴィスさまが振り返ります。
「ご存じと思いますが、このまま進むと私の大陸はあと一日で中央の島まで発展します」
「ああ、よく知っている」と再び黙り込むクラヴィスさま。

今日だけは私の望みのままにしてくださる・・・。
そのお言葉に甘えていいですよね。
アンジェリークはクラヴィスさまの衣装を握りしめたままそっとその胸に顔を埋めました。
「アンジェリーク」
動揺するクラヴィスさまの様子がアンジェリークの全身に伝わります。
しかし、しばらくの後クラヴィスさまがゆっくりと私の背中に手を回されました。
『クラヴィスさま』
かすれて声にならないほどアンジェは驚きました。
ゆっくりと抱き寄せられる感覚に私の心臓は壊れそうに・・・。
クラヴィスさまのぬくもりが伝わって、アンジェリークの胸の鼓動はこんなに、こんなに高まっています。
「私は・・・」
クラヴィスさまの搾り取るようなささやきが・・・耳元に下りてきます。
「私は・・・お前を・・・。愛している。お前なしでは生きて行けぬほど。・・・失うことなど・・・決してできない」
風が舞い上がり、雲が飛んで
気を失うほどの果てしない時間が、二人の上を過ぎていくようでした。
もう何も分からない、自分が見えない。これが真実?
恐いほどの幸福ってあるんですね。
クラヴィスさまの身体から私が離れたとき、すでに辺りには夕闇が迫っていました。

あなたのために何かしたい。
あなたの喜ぶ笑顔が見たい。
私は、女王への道は辞退しました。
宇宙の女王となって傅かれるより、衣装を選び、お茶をいれて差し上げたいのです。
その胸に身体を預けて、優しいお声をずっと聴いていたいのです。
夢ならさめないように・・・。
私のすべてはあなたのために。

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