久遠の烈日

「ふふ、いよいよ始まったか。女王試験が・・」
「閣下」
「守護聖がすべてあの宇宙からいなくなる。私はこのときを待っていたのだ」

「のどかでいいねえ、飛空都市の気候は最高だよ」
「ふん、のんびりしてると背負い投げをくらうぞ」
「何よ、オスカー」
「我々の老い先短い宇宙のことさ」
「まあね、このままじゃね。だけど、みてご覧よ。あの女王候補二人ともよくやってるじゃないか」
「オスカー、あなたらしくもない。何故そのように不安な表情をなさるのです」
「俺のどこが不安そうだって?リュミエール」

「なに?」
クラヴィスの執務室で・・・。
水晶球が不吉な予兆を示した。

「次元回廊が開かぬ?」
執務室でパスハの緊急報告に光の守護聖は驚愕の色を隠せなかった。

「次元回廊が開かぬとは、どういうことだ。ルヴァ」
「ありえないことが起こったようですね」
「我々は、この飛空都市に孤立させられた・・・というのか?」
「そんなことが・・・」

宮殿内にある闇の執務室で。
「クラヴィスさま」
揺すられてクラヴィスは目を覚ます。

「夢・・・か」
「クラヴィスさま。ジュリアスさまからのお呼び出しでございます」
クラヴィスは聖地の宮殿にある執務室の椅子から身を起こした。
横から布が差し出される。
差し出したのは闇の執務室付きの若者だった。
人が近寄ることを好まぬ闇の守護聖の執務室に入室を許されている数少ない者の一人であった。
「すまない」クラヴィスは受け取ると額に浮かんだ汗を拭いた。

「クラヴィス、そなたの言いたいことは分かった。しかし、これは女王陛下のご意志なのだ。どうしても女王試験は飛空都市で行わなければならぬのだ」
「そうか・・・。ならばしかたがない」
光の執務室を立ち去ろうとする闇の守護聖にジュリアスは声をかける。
「クラヴィス、心配するな。次元回廊は女王陛下のお力で直に管理されているものの一つ。たとえ飛空都市が消え果てても次元回廊だけは残るだろう」
「フッ、だとよいが」

明日はすべての守護聖が飛空都市に出立する日。
内密となっているが、宇宙の新女王を決める女王試験が始まるのだ。
闇の執務室付きの若者は闇の守護聖のために最後の準備を整えた。
すでに飛空都市では聖殿の環境も整えられている。
それぞれ守護聖の従者が何度か行き来し、守護聖にとって快適な環境を用意しているはずだった。

光の執務室から戻ってきたクラヴィスはしばらく、なにごとか考えにふけり、その後、その若者を呼んだ。
若者は驚いた。
闇の守護聖はめったなことでは、自ら従者を呼び用事を言いつけるようなことはなかったからだ。

「女王陛下、では行って参ります」
「ディア、よろしく頼みます」

こうして飛空都市へ主だった人々が移動してしばらくはこともなく順調に日々が過ぎていった。
しかし、女王試験も中盤を過ぎたころ、次元回廊にその異変は起こった。

宮殿の次元回廊入り口の前には王立研究院係員を筆頭として数名の者が集まっていた。
誰がみても異変は明らかだった。
次元回廊の扉の前には夏の陽炎のような気の乱れが大きく広がっていた。
怪しんだ者の一人が手元の剣を近づけてみた。
するとそれはあっという間に粉々にくだけ、亜空間へと引き込まれるように跡形もなく消えた。
当人は周りの者によってかろうじて引き込まれるのをまぬがれたが、瞬間吹き飛ばされけがを負った。
「こ、これでは次元回廊に近づくことができぬ」

そのころ飛空都市でも、ことの異常は報告されていた。
「次元回廊がおかしい、とは?」
ジュリアスはさっそくパスハとともに飛空都市にぽっかり口を開ける洞穴へと出かけた。
「特に変わったところはなさそうだが」
「いえ、明らかに異常です。なぜなら、今朝から主星よりの通信が完全に途絶えております。これは次元回廊の異常としか考えられません。こちらからの通信も届いていないと考えられます」
遠く離れた別宇宙間の通信にも次元回廊は利用されていた。
今日は28日ごとの女王謁見の日。二人の女王候補たちが主星へ出かける予定であった。

「パスハ、次元回廊の安全性が確認できるまでは使用を禁ずる。女王候補たちに本日の女王謁見は中止と伝えよ」
「は」
「それから集いの間に、全守護聖を」
「承知しました、ジュリアスさま」

事情を知った守護聖たちの間にざわめきが広がった。
その緊迫した空気の中、パスハが集いの間に現れた。
ジュリアスが待ちかねたように口を開く。
「パスハ、報告を頼む」
「はい。ジュリアスさま。ご指示のように次元回廊を通して主星に発信機器装備の探査機を送り追跡した結果、主星側出口付近での消滅を確認しました。異常は主星側にあるようです」
「次元回廊は女王陛下のお力で直に管理されているはずです。そのようなことは考えられません」ルヴァが断言する。
「ルヴァ、女王陛下の身に何事か起こった、まさか、そんなことはないよね」震える声でオリヴィエが言った。
「オリヴィエ・・・」リュミエールが珍しくオリヴィエの手を握る。
「こんなことが起こるなんて」
「いやな感じがするぜ」ゼフェルがつぶやいた。
集いの間を沈黙が支配した。
「もし・・・
女王に何事かあったとしても・・・」
このような場でめったに意見を述べぬ闇の守護聖の声に皆振り返った。
「何だ、クラヴィス」
「次元回廊が存在しているうちは、まだ、大丈夫だ。しかし、次元回廊が完全に消失したら・・・そのときは」
語尾は消え失せた。

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