誓いの夜から幾日かが過ぎた。
伝えるにもその術を知らず、
言葉にするにもできないことが、
女の胸に秘められていた。
それは、『自分が何者であるか…』
どういう月日を経て、どういう経緯でここにいるのか。
一度も訊ねられることなく、今に至ったのである。
しかし、
夜を越えるたびに憂いは大きくなり、
気がつけば抑えがたいものになっていた。
「あのかたに知られたら…わたしはここに…いられない」
プラチナの指輪が視線をくぐる度に、
女は自分を責め、葛藤し、悔いた。
寒さの厳しい夜。
女は窓辺に立ち、愛しい人−軍務尚書の帰りを待っていた。
開け放たれた窓からは、
ときおり雪が舞いこんでくる。
女の手が氷のように冷たくなった頃、
ようやくオーベルシュタインは姿をあらわした。
「…そんなところで何をしている」
何も応えぬ女の背後に立つと、
ゆっくりと窓をしめ、女の肩に手を添えた。
「お話しなければならないことがあります」
女は双眸を閉じて、静かに語りはじめた。
心に秘めていた、すべてを…。
わたしは、あなたの失脚を望むものの手先でした。
わたしは、あなたを謀殺することを命じられました。
わたしは…。
辛く苦しい過去を吐き出すうちに、
女の頬を冷たい雫がつたい、ぽとりぽとりとこぼれ落ちていた。
「…わたしは、貴方を愛しています」
弱々しい声色で、最後にそう呟いた女は
肩を震わせ…泣いた。
嗚咽が静寂の中に響いた。
「ごめんなさい…ごめんなさい…」
何度も何度も、詫びの言葉を繰り返していた。
女の左手をぬくもりが包んだ。
オーベルシュタインはその手を離さなかった。
女が落ち着きを取り戻すまで、
いつまでもやさしく撫でた。
そして、静かに言う。
「謝る必要など、ない…あなたは、あなたの何者でもない…」
心のつかえに開放された女は、崩れるようにしてたおれた。
その身をしっかりと受け止めたオーベルシュタインは、
女をそっと横たえると、
朝が来るまでずっと傍らで見守った…。
太古の昔、人類が地球にしがみついて生きていた頃。
人々が救世主の誕生を祝う日が存在した。
女が懺悔し、許しを乞うたこの晩こそ、
聖なる日−クリスマスの夜であった。
そうだったんですね。