おそらくほとんどの方がそうだと思うのですが、私は電車で座る時にシートの端の席を好みます。
両隣りから侵略されることがないし、座席の構造にもよるのですが、
どこかに肘を置いて頬杖をつくことが出来るから、というのがその理由です。
始発駅での車両の様子を見ると、シートの端の席から埋まっていきますから、
私と同じように考える人が多いのでしょう。
ある日、シートの端の席に座って頬杖をついて居眠りしている、
20 代と思われるおにいちゃんを発見しました。
実はその車両の座席の構造は、頬杖をつくには適しておりません。肘を置くためには、
横に渡された手すりかそれに代わるようなものがなければなりませんが、
その座席は手すりの位置が高いため、肘が置きにくいのです。
無理に置いても、掌の位置が高くなりすぎて、頬を乗せてくつろぐことが出来ません。
私も端の席に座っていましたから、それが良く分かるのです。
にもかかわらず、そのおにいちゃんは右手で頬杖をついて居眠りをしているのです。でも、
肘を高い位置に無理矢理置いているわけではありません。快適な居眠りのために、
頬を乗せる掌の高さを優先しているのです。
適切な掌の高さを実現するためには、手すりよりも低い位置に肘を置かなければなりません。
でも、その位置には肘を置けるようなものは何もないのです。では、
その彼はどうしていたのでしょう?
答えは「何もしていない」ということになるんでしょうね、きっと。
彼の右肘はどこにも置かれていません。宙に浮いているんですよ。
そういう状態を果たして「頬杖」と呼んで良いものなのかどうなのか分かりませんが、
肘が宙に浮いていることを除けば、確かに頬杖の体勢ですし、
彼は気持ち良さそうに居眠りしています。
私はその光景を見ながら、「何であんな不自然な体勢で居眠りが出来るんだろう?」
と考えていました。私にはとても出来そうにありません。肘を宙に浮かせたままで掌に頬を乗せたら、
頭の重さを支えるために腕や肩に力を入れなければなりません。でも、そんなことをしたら、
とても快適な居眠りは出来ません。
じばらく観察していると、彼の頬杖の秘密が分かったような気がしました。
彼は推定身長 175cm で、推定体重は 120Kg 以上です。ブクブクポチャポチャしています。
彼は頬杖の体勢で体を右側に預けるようにしています。右肘は浮いていますが、
上腕部と下腕部は手すりに押し付けられています。
これらの事実から導かれる結論としては、彼は肘をどこかに乗せることではなく、
その体重を利して腕を手すりに押し付けることで、頬杖の基点を作っていた、
ということになります。
それに思い至った私は、彼と同じように頬杖をついてみました。ダメです。
もちろん、それが出来ないわけじゃありませんが、居眠り出来るほどにはくつろげません。
腕を手すりに押し付けただけでは、頬杖の基点としては不十分で、
やはり腕に力を入れて頭の重さを支えるか、
頭の重さを掌にあまり預けないようにしないとなりません。
あの特異な頬杖は、彼の体重があってはじめて成立するのでしょう。また、
ポチャポチャした腕が手すり棒を包み込むようになるのも効いているのかもしれません。
見過ごしがちな日常の光景ではありますが、私はもしかしたら超絶の技を目撃したのかもしれません。