電車で通勤・通学している方ならば日常的に経験していると思いますが、朝夕のラッシュ時など、
電車が駅と駅の間で停車してしまい、「先行列車が詰まっているため、一時停止しております」
なんていう車掌さんのアナウンスが車内に流れることがあります。
確かに、「先行列車が詰まっているため」というのに間違いはないのでしょう。
そして、「先行列車が詰まっている」なら停車せざるをえないのも当然のことであります。
今停車した電車(仮に n で表わしましょう)にとって、上記の事情はその通りであり、
疑問をさしはさむ余地はございません。ただし、後に続く電車(n - 1 で表わします)にとっても、
おそらくはこの一時停車の影響を受けて停車せざるをえない事態に立ち至ることと予想され、
つまりは事情は同じでして、やはり「先行列車が詰まっているため、一時停止しております」
ということになってしまうのです。
n にとっては、先行電車(n + 1)のせいで一時停車なのですが、n - 1 にとっては、
n のせいで一時停車なのです。当たり前といえば当たり前です。
n は「先行列車が詰まっているため」というように、責任を先行列車に転嫁しているのですが、
n - 1 から見たら、自分だって「先行列車」になってしまい、責任を転嫁されてしまう立場なのです。
また、n + 1 の立場で言うなら、n からは責任を転嫁されてしまっていますが、
実際は n + 2 のせいで停車せざるをえなかったのですから、安易に責任転嫁してくれるな、
ということにもなります。
ということで、「先行列車が詰まっているため」という理由は、
体の良い責任転嫁であるばかりではなく、責任転嫁の連鎖を生んでしまう、
はなはだ無責任な理由付けなのです。
真相を想像するに、例えば、ある駅で n + 5 位の電車に駆け込み乗車した山本欽一(仮名、56 歳、
サラリーマン、東京都葛飾区在住)のバッグが扉に挟まってしまい、n + 5 の発車が遅れたため、
それがこの渋滞を引き起こした、というようなことだと思われるのです。
ですから、「先行列車が詰まっているため、一時停止しております」
というのは必ずしも真相を突いているわけではなく、本来であれば、n + 5 の後続電車においては、
次のようにアナウンスしなければならないのです。
「先行列車において山本欽一(仮名、56 歳、中間管理職、妻と娘三人)
が駆け込み乗車をしたため発車が遅れ、その影響で通常運行のダイヤに乱れが生じ、
この電車も一時停車せざるをえなくなりました。
我々の運行管理のショボさからこのような事態を招いたわけではなく、
悪いのは山本欽一(仮名、56 歳、窓際管理職、退職金の目減りが心配)です。
お客様のご理解とご協力をお願いいたします」
「ご理解」はともかく「ご協力」って何だろう、というのは置いといて、日本人的なナアナアで、
責任のたらいまわしはいけません。原因と責任の所在、
つまり山本欽一(仮名、56 歳、社史編纂室長、三女の援交疑惑が悩みのタネ)
の所業は明らかにしなければならないのです。
もっとも、「先行列車が詰まっているため、一時停止しております」
というアナウンスを聞いただけで、ミスター・スポックなら「論理的でない」
などとつぶやくかもしれませんが、人類でここまで考える奴もあまりいないこととは思います。