| 焼肉屋の惨劇 |
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仕事を終えた私は、同僚のNと焼肉を食いに行くことにした、近くにいた何人か にも声をかけて、総勢6人で会社の近所にある焼肉屋さんに繰り出した。 まずは生ビール、そして、すぐに出てくるキムチとナムルをたのみ、肉はタン塩、 カルビ、ロース、そして奮発して骨付きカルビも。 と、おきまりのコースだが、何故かNはビールを頼まずにウーロン茶である。 「なんで飲まないんだ? また会社に戻って仕事か?」 と聞くと、 「いや、飲みたいことは飲みたいんだけど、さっき親不知を抜いて来たんで、 今日は酒はダメだって言われてるんだ」 という答え。そういえば、夕方からしばらく彼の姿が見えなかった。 「焼肉は大丈夫なのか?」 「うん、食べ物は特に気を付けなくてもいいんだって。さっきかなり出血したから、 栄養のあるもの食わないとな」 「そうか、それじゃレバーを食わなきゃ。レバー刺もたのもうぜ」 ということで、レバー刺を追加注文。 生ビールとNのためのウーロン茶が運ばれてきて、みんなで「おつかれー!」 おやじばかりのグループなので、それぞれが「ぷはぁー!」「くぅーー!」 とうるさい。 Nはウーロン茶なので「ぷはぁー!」は無し。 「まだ麻酔が効いているから、飲みにくいなぁ」 とN。確かに飲みにくいと思う。下手すると、口に含んだウーロン茶がだらだら こぼれてしまうかもしれない。 この時、既に惨劇の幕は上がっていたのだが、誰もそれには気付かなかった。 ウーロン茶をこぼすくらいなら、かわいいものなのだが・・・・ しばらくすると、タン塩が運ばれてきて、6人のおやじは一斉に食べ始める。 それぞれ好みの焼き具合いがあるので、自分の肉を確保している。 ほどなくレバー刺も運ばれてきた。6人の箸が一斉にのびる。旨い。 ところが、である。 「このレバー硬くないか?」 とNがつぶやくように言った。 「いや、全然。柔かくて旨いぜ」 誰かが答えた。同感である。このレバーが硬いというなら、柔かいレバーなんて 世の中にはない、というくらい柔かい。 「でも、なかなか噛みきれないぜ」 「おまえ、歯が不自由だからじゃないのか?」 「いや、そんなことないよ。噛むための奥歯はちゃんと残ってるんだから」 その時点でも、誰も惨劇には気付いていなかった。Nの言葉を真剣に考える者は いなかったのだ。それよりも自分が食うのに忙しいということだ。 最初にそれに気付いたのは私である。たまたま、Nの正面に座っていたからだろう。 「おい、N、おい、ちょっとストップ、ストップ!」 レバーを噛みきろうとして悪戦苦闘しているNに、私はストップをかけた。 「ん?」 「ちょっと、あーんしてみろよ」 「ん? 何で?」 「いいから、あーんしてみろよ!」 「あーーーん」 やはり思った通りだ。Nの口の中を覗き込んだ者は皆、「ゲッ!」という顔を している。 「おまえ、口の中、血だらけだぞ。レバーじゃなくて、ほっぺたの肉を 噛んでるんじゃないのか?」 静寂。誰も喋らない。Nは舌で口の中を探っている様子。数秒後、 「あ・・・、そうだ・・・」 とNののんびりしたセリフが。 恐るべき麻酔の威力! 自分の頬肉を食っても気付かないとは! その後、一同は一挙に食欲を失い、次々と運ばれてくる肉を前にしながら、 半分以上を残してしまったのは言うまでもない。 因みに私は平気で、骨付きカルビをほぼ独占出来たことを付け加えておく。 さらに付け加えると、勘定はNも含めてきれいにワリカンであった。
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