1998年3月26日

まわる男


まわる男は実在する。「まわす男」ではない。もちろん、「まわされる女」 でもない。ついでに言うと「まぐわう男」でもない(←かなり無理がある)。 まわる男である。

まわる女も実在するが、統計的には、まわる男の方が圧倒的に多いと思う。また、 年齢層としては、40 台以上が多いと思われる。少なくとも、5 才のまわる男は 見たことがない。

まわる男が棲息するのは電車やバスの中だ。彼らの活動時間帯は、概ね午後9時頃 から終電、終バスの時間までである。

まわる男は毎日まわっているとは限らない。それぞれ頻度は異なる。ほとんどに 共通して言えるのは、まわる男になるときには、酔っているということだ。 もちろん、酔い方の程度にもよるが、酔っていてもまわる男にならない人も多い。 まわる男になるための、資質のようなものはあるのだろう。

まわるというからには、回転運動の中心と半径が存在する。まわる男の場合、 中心は吊革の取付け位置になり、半径は彼らの酩酊状態に依存するが、およそ 20cm から 40cm と推定される。また、回転運動であるから、慣性モーメント、 角運動量、角加速度などに関しての考察も必要であるが、難しいのでパス。

以上をまとめて分かりやすく言うと、まわる男とは、酔って電車やバスに乗り、 吊革に掴まったまま寝てしまい、真っ直ぐ立っていられずに、吊革を中心に グルグルとまわってしまう男のことである。

我々一般の乗客にとって、彼らの存在は迷惑である。ただでさえ酒臭くて 閉口するのに、その上グルグルまわって体当たりされるのだからたまらない。 しかし、若くてきれいなお嬢さんがまわる女になった場合は、よろこんで体当たり を受けたいと思うことは、言うまでもない。彼女の後ろに立って、腰の動きを シンクロさせて、ランバダでも踊ろうかと思うくらいである。

まわる男は鈍感である。自分がまわっていることも、体当たりしていることも、 気付かないことが多い。仮に気付いても改めようとはしない。

比較的良心的なまわる男でも、体当たりしたことに気付き、

「ふぁ、しゅみましぇん」

などと言って、頭をカクカクと縦に 2 - 3 回振るのだが、その 5 秒後には、 また体当たりしてきたりする。

まわる男の被害を避けるには、遠ざかることが一番であるが、混んでいる車内では、 なかなかそうもいかない。ホームで待っているときに「私はまわります」という ゼッケンでも付けていてくれれば、そいつらの隣りにならないように出来るが、 それもまた無理な相談だ。

先日目撃したのはかなり悲惨な状況であった。

被害者は若い OL。午後 10 時を回った電車の車内はかなり混んでいた。彼女はなんと、 3人のまわる男に囲まれ、かわるがわる体当たり攻撃を受けていたのだ。 さらに悪いことには、3人が3人とも 180cm を超える長身で、うち1人は 100Kg を超えると思われるデブであった。彼女は完全に押しくら饅頭の中に埋もれてしまって、 逃げ出すことも出来ない状態。

もちろん、3人はお互いに体当たりをすることもあるのだが、まわる男同士の 連帯感からか、お互いに全然気にしていない。それどころが、お互いの体当たり のエネルギーをお互いに増幅しあって、体当たりの威力は時間とともに強力に なっていくようだ。

彼女には、お気の毒としか言いようがない。およそ 10 分間にわたり、体当たり 攻撃を受け続けたのだ。3人の輪の外側にいた男性が、わざと咳払いをして、 3人に注意を促しているのだが、もちろん何の効果もない。

ようやく電車が乗り換え駅に着き、多くの乗客が降り、車内が空き、彼女は 3人の輪から抜け出すことが出来た。彼女は私が立っているほうに歩いてきて、

「フーーーー!」

という大きな溜め息をついた。

もし彼女が日記猿人に登録している日記書きなら、必ずこの出来事を書くに 違いないが、多分そうではないだろうから、私が代りに書いて、彼女の無念を 晴らしてあげよう、ということで、筆をとった次第である。






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