1998年3月27日

トヨタ・プリウス


トヨタのプリウスという車に乗った。去年、プリウスが発表されてから、 いつか乗ってみたいものだと思っていたのだが、近所のディーラーで 試乗会があるから、ということで出掛けてきた。

ご存じのかたも多いとは思うが、プリウスというのはハイブリッド・カーである。 ハイブリッド・カーというのは、ガソリン・エンジンと電気モーターを併用して 走る車である。一定の速度で走るときや、ゆるやかな加速のときはモーターを 使い、急加速のときやバッテリーの残量が少なくなったときにはエンジンを 使う。信号や渋滞などで停車しているときは、エンジンが止るので無駄なガソリン を使わずにすみ、燃費が良く、環境にもやさしいというのがウリである。

トヨタの凄いところは、この新しい技術を持った車を 215 万円という低価格で 売り出したということだ。他のメーカーも同じような技術は持っているのだろうが、 この価格で売ることは、トヨタにしか出来なかったのではないかと思う。

それはさておき、乗ってみての感想だが、予想以上に良くできていると思った。 エンジンとモーターの切り替えが、もっと不自然に感じられるのではないか、 と考えていたのだが、注意していないとエンジンが停止してモーターだけで 走り始めるのに気付かないくらいだった。

唯一、不自然に感じたのは回生ブレーキの効き具合いである。回生ブレーキ というのは、電車でも使われているが、減速時に発電器を回してあげて、 充電を行うしくみである。発電器を回すには力が要るので、ブレーキとして 働くのである。車の運動エネルギーを電気エネルギーに変換するしくみだ。 プリウスの場合、普通のブレーキの他に回生ブレーキを備え、バッテリーの消費を 出来るだけ抑えようとしている。

ブレーキ・ペダルを踏むと、まず通常のブレーキが効き、その一瞬後に回生 ブレーキが効き始めるのだが、ブレーキの踏力を変化させていないのに、 減速力が増すために不自然な感覚は否めない。また、ブレーキを放したあとも、 わずかな時間だが回生ブレーキの効きが残り、これまた不自然である。

この欠点はトヨタも分かっているだろうから、おそらく近いうちに改善 されることだろう。また、この欠点があるとしても、我慢できないほどの ことではなく、全体的には素晴らしい車だと思う。

ただ、プリウスの一番の美点はハイブリッドであること、とは思えない。 将来的に重要な技術であることに異論はないが、現時点において、 省燃費とか環境保護をトヨタが本気で考えるなら、全車種の燃費を 5% 向上させることのほうが、プリウスを月に 10,000 台売ることよりも ずっと効果的であるからだ。そして、それは不可能なことではないだろうし、 販売戦略上もプラスに働くと思う。

私の思うプリウスの一番の美点は、そのパッケージングだ。乗員をどのような 空間にどのように座らせ、エンジンルームやトランクルームはどう配置すべきか、 ということを、トヨタ車のなかではもっとも真面目に考えた車だと思う。 真面目さという観点では、アバロンも真面目だが、いかんせん保守的な大きな セダンという範疇からは一歩も出ていない。プリウスのパッケージングには、 未来への提言も含まれている。

聞くところによると、プリウスの開発にあたっては、ディーラーや営業サイド からの意見は全く入れず、エンジニアの思いを最優先させて作ったということだ。

これは重要なことだ。ディーラーから上がってくるユーザの好みなんてのは、 ろくなもんじゃないことが多い。ディーラーの営業マンと話してみると、それが 良くわかる。曰く、

「スポーティーなイメージがないと売れない」

ここで言うスポーティーというのは、要するに背が低くてフロント・ウィンドウの 傾斜がきつい、という程度の非常に浅薄なものである。これを真に受けて、 窮屈極まり無いセダンを作ってきたのが、ここ 10 数年間の日本の自動車業界 である。一時はそれでも売れていたのだから、驚きとしか言いようがないが、 最近は窮屈なセダンに愛想をつかしたユーザが、室内の広い RV に流れて しまっている。

要するに、「ユーザの嗜好」を無視せよ、とは言わないが、本当に車を良く 知っているエンジニアが、「これがいいんだ!」と作ったもののほうが、 結果的には良いものが出来て、ユーザにも受け入れられるのではないか、 ということだ。そもそも、日本のユーザは少なくとも車に関しては、 あまり賢くはないので、メーカーは「こういう車こそが良い車だ」と 示してあげるべきなのに、賢くない意見を聞いて良くない車を作ってきた、 ということだ。

話をプリウスに戻すと、プリウスはその「賢くない意見」は一切聞かない、 という態度で開発したのだろう。拍手である。大拍手である。日本のメーカー (車に限らないが・・・)に最も欠ている姿勢である。どんなに理不尽でも 「お客様は神様」というのが、日本のメーカーだからだ。「真に良い製品」 によってユーザの支持を得るのではなく、あやふやな、あるいは間違った 「ユーザの嗜好」に合わせた製品開発をして、儲け至上主義におちいるのだ。 企業理念がない、と言い換えてもいいかもしれない。

理想主義的ともいえる開発の結果、プリウスのパッケージングは、日本の FF セダンの中でベストと言っても過言ではない出来になっている。単に ベストというだけでなく、将来の FF セダンのありかたを、パッケージング の面でも示唆し、今後開発される多くの車に、多大な影響を与えるものだとも思う。

おそらく他メーカーのエンジニア達は、プリウスのハイブリッド・システム ではなく、そのパッケージングに驚異を感じているのではないだろうか。 私のような素人でも分かるのだから、プロの目から見て、その凄さが 分からない訳がない。

次世代のカローラやコロナは、プリウスのパッケージングに倣うべきだ。 いや、本来であれば、プリウスより先にカローラやコロナで、あのパッケージング を採用すべきだったと思う。GOA だエアバッグだと騒ぐのもいいが、 真面目なパッケージングを採用することは、それ以前の問題なのだ。

とはいえ、プリウスが出たことで、今後のトヨタ車のパッケージングが、 どう変化していくのか、興味津々ではある。また、他のメーカーが、 どのような車を出してくるのかも注目である。

トヨタであれ他のメーカーであれ、まともに座れない車は、もう作らないで 欲しいものだ。






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