1998年4月20日

検尿の想い出


タイトルからして、下品で汚い話を想像されることでしょう。

その通りです。心して読むように。


この時期に健康診断を行う会社は多いのではないかと思います。うちの会社も そうです。

健康診断が好き、という人はあまりいないと思います。私も決して好きでは ありません。バリウムと発泡剤を飲まされて、ゲップを我慢させられて、 撮影台に乗せられて、グルグル回されて、電動孫の手みたいなやつで 腹を押されて、なんてのは、どう考えても楽しい経験ではないですね。

おまけにバリウムを排泄するのが、また辛かったりします。あの、白くて固くて 太いやつは、なかなかに難物です。肛門が切れてしまう人もいるように 聞き及びます。

バリウムも嫌ですが、検尿、検便もなかなかに情けない。特に検便つうのは、 自らの排泄物をつつきまわして、適量の便を採取するわけですが、その姿が たまらなく情けないですね。もっと簡単で情けなくない検査方法はないの でしょうかね?

それで、今年もまた健康診断の季節です。私もまた、検尿、検便を行わなくては なりません。

検尿といえば、私には忌まわしい想い出があります。「想い出」なんてきれいな 言葉を使っちゃならんのですが、想い出です。

あれはまだ、私が高校生の時でした。当時の検尿は、自宅で採尿して、それを 学校に持ってきて提出する、というやりかたでした。

私はその日の朝、トイレで採尿し、それをビニールの容器(とんかつ弁当 なんかについている、ソースを入れておくような容器です)につめて、 それを氏名を書いた紙の袋に入れ、あとは学校に持って行って提出するのみ。

家を出る前、私はしばし悩みました。この紙袋の持ち運び方法に関してです。

私は自転車通学をしていました。学生カバンは、自転車の後ろの荷台にゴム紐でくくり つけてました。

つまり、私の悩みというのは、学生カバンの中に尿入りの紙袋を入れるか、それとも 学生服のポケットにでも入れて行くか、ということです。カバンの中に入れると、 押しつぶされてしまうかもしれないし、かといって、ポケットに入れて万一つぶれたら、 もっと悲惨だし・・・

結局、私はカバンの中に入れることにしました。教科書に押し潰されないような 位置を選び、ゴム紐をかけるときにも、その位置や強さに気を使いました。

そして、いつもよりゆっくりと自転車をこぎ、学校へ向いました。

いつもは車道と歩道との段差など、気にも留めずに乗り越えるのですが、 その時ばかりは慎重です。また、信号で止まるたびに、ゴム紐が弛んでないか チェックもしました。学校への道程は順調でした。そう、彼に会うまでは。

彼、同級生のK林です。彼は悪い奴じゃありません。いい奴なんです。

私が乗る自転車が、校門のすぐ近くまで来たときです。どこからか、私を 呼ぶ声が。

「おーい、高樹ぃーーー!」

声のする方向を振り返った私は、K林がこちらに向ってダッシュしてくるのを 見つけました。K林は徒歩で通学していましたが、私の姿を見かけて、追い掛けて きたということです。

「おお、K林」

と私は答えました。その直後の悲劇など知るよしもなく。

私は既に校門の中に入ってましたが、そこに追い付いてきたK林は、何を思ったか、 走ってきた勢いをころすことなく、

自転車の荷台にくくりつけてあるカバンの上に、ドンと飛び乗った
のでした。

その後、どうなったのかは、ご想像の通りです。私はその日、検尿を提出することが できませんでした。

K林は悪い奴じゃありません。いい奴なんです。

ほんとにいい奴です。彼はこの事件を「二人だけの秘密」にしておいてくれた のですから。






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