| 猫の悲喜劇 |
|
猫好きの女性というのは少なくないようで、日記猿人のリストを見ても、 日記名やハンドル名に猫系入っている人が何人も存在します。 そうでなくとも、愛猫の写真なんかを掲載している人もいたりして、 この女性の猫好き現象というのは、男にとっては「いもくりかぼちゃ」 と同様、女性の神秘とも言えるものでございます。 ということで、今回は猫好き女性の受けを狙ったネタかというと、そうでも ないでしょう。 単なる前振りでした。
電車が駅に停車しました。私は吊革に掴まって、窓の外の光景を見るともなく 見ていました。 猫が一匹いました。線路脇のちょっとした空き地です。白い猫です。野良猫 のようです。 その猫は前肢を使って地面を掘っています。どうやら、準備をしているようです。 もちろん、排便の準備です。せっせこせっせこと掘っています。 その猫の目には、大きな鉄の固まり、つまり電車は映っていました。でも、 その中に何十、何百というヒトの目があることには気付いていませんでした。 せっせこせっせこと掘っています。やがて猫は自分の掘った穴を跨ぎます。 腰を落としています。神経を集中させています。ややプルプルとふるえて いるような気もします。 排便の姿勢というのは、全ての動物に共通して情けないものなのでしょうか。 いや、ハトはそんなことはなさそうです。でも、大便と小便の区別のある動物に おいては、大便排泄時の情けなさというのは共通のような気がします。 30 秒ほどで排便は終わりました。猫は自分の排泄物をクンクンしています。 そして、丁寧に土をかけます。さらに丁寧に土をかけます。 そして、猫は顔を上げました。私と目が合いました。そして、猫は理解しました。 巨大な鉄の固まりの中には、驚くべき多数のヒトがいて、自分の排便を見ていた ことを。 猫は固まりました。一瞬ですが確かに固まりました。とりかえしのつかない 失敗をしてしまったかのごとく固まりました。 しかし、猫はすぐに決めました。「何もなかったことにしよう」と。 再び、猫は自らの排泄物に土をかける作業にもどりました。丁寧に丁寧に。 ほどなく、猫は現場を立ち去ることにしました。「何もなかったことにしよう」 と決めたはずなのですが、多少の記憶は残っていました。そそくさと立ち去るに こしたことはない、と判断したのです。 猫は早足で歩き始めました。ヒトの目からのがれるように。排便時の情けない 格好ではなく、野生の孤高を感じさせる歩き方です。 しかし、猫は逆方向に歩くべきでした。もちろん、猫にはそんな知恵はないこと でしょう。単に 1/2 の確率の問題です。 猫が歩き出したのは、電車と平行に進行方向に向ってでした。 猫の理解の範囲外だったことは、駅に停った電車はいずれ発車するということです。 猫が歩き出すのとほぼ同時に電車も発車し、猫はしばし、我々にその姿を晒し 続けたのでした。
|