1998年9月30日

裕実と夏樹


突然ですが、第一回「高樹センセを囲む会」のお知らせです。 こちらをどうぞ。


例えば、例えばですよ。高樹が裕実(仮名、23 歳、OL )とデートの約束をしたと しましょう。

「じゃあ、○月×日の 19:00 に△△駅の改札で待ち合わせということで」

「うん分かった、○×寿司に連れてってね。一度行ってみたかったの。 その後は、私の知っているショット・バーでね」

「で、ショット・バーを出たらラブラブだね?」

「うん、ラブラブね!」

こんな会話があったとしましょう。くどいようですが、例えばの話ですよ。

実は二人のデートは 2 回目なのですが、妙に気の合った二人は、「ラブラブ」の 約束までしてしまったのです。最初のデートは、普通に飲んで食って、別れ際には チュッがありました。くどいようですが、本当に例えばの話です。

さてデート当日、高樹は鼻の下を伸ばして待ち合わせの場所に向かいます。

裕実は待ち合わせ時間にちょっとだけ遅れて、姿を現わしました。

「ねね、悪いんだけどぉ、お寿司はやめて、居酒屋にしようよ」

「ん? 別にいいけど、何で?」

「今日はすぐに別の場所に行かなきゃならないのよ」

「そんな話、聞いてないぞ」

「うん、急に決まったから」

お寿司はどうでもいいのですが、「ラブラブ」の約束を反故にされた高樹は、 かなりムッとしました。昨日の夜の電話では、そんなこと何も言っていません でしたから。

事情を問いただすと、以下のようなことでした。

昨日の夜、私との電話の後、高校時代の友人(♀)から電話があり、今日、 当時の友人一同で集まることになったので、裕実も参加して、との話。 その友人は遠くに住んでいるため、いつでも会えるわけではない。この機会を 逃すと今度はいつ会えるかわからない。だから、高樹との約束がありながらも、 そちらに参加すると言った。

「普通、先約優先だろ?」

「でも、彼女と会うのは久しぶりだし、今日会わないと、もうずっと会えないから。 高樹さんとはいつでも会えるし・・・」

「もっと早く決まらなかったのか?」

「本当は明日の予定だったのよ。でも、明日は私、仕事の都合で出れないんだけど、 昨日の夜、今日に変更になったって言うから・・・」

「仕事の都合なら出れないけど、俺との約束を反故にすることは出来るんだ?」

「だって大切な仕事だから・・・」

「そういう問題じゃないだろう。せめて、今日の昼のうちに、これこれ こういう事情で、と電話すればいいだろ?」

「だって、忙しかったんだもん」

「電話の一本も出来ないほど忙しいわけないだろ」

「本当に忙しかったのよ、電話も出来ないほど」

このへんになると、裕実も逆ギレしてます。

「彼女と会うことを優先したい気持ちはわかるけど、事前に俺に連絡するのが 礼儀ってもんだろ。そういう事情なら、こちらは日を改めてでもいいんだから」

「別にいいじゃない、今日は楽しく居酒屋でちょっと飲んで、また今度ってことに すれば」

「あのなあ、俺だって仕事の都合付けてここに来ているんだぜ。こんなのドタキャン と一緒だ。何の連絡もなく、いきなりそういうことを言い出すなんて信じられない。 それに、全然悪いことをしたと思ってないだろ?」

「別に大したことじゃないじゃない。また会えるんだから」

とまあ、こんな調子でして、結局、高樹はその場で裕実と別れました。裕実の 口からは、最後まで「ごめんなさい」とか「すみません」とかいう言葉は聞かれ ませんでした。

それ以来、高樹は裕実に連絡していませんし、裕実からも何の連絡もありません。

さて、以上の話は、事実に基づくフィクションなのですが、どう思いますか?

私の価値観としては、守れない約束はしないし、約束したら滅多なことではキャンセル しないし、何かの事情で直前になってキャンセルするときは、必ず連絡して 「本当に申し訳ないけど、これこれこういう事情で行けなくなった。ついては、 ○月○日に改めて、ということでどうだろうか?」などと言います。

一言で言えば、約束は大切にする、ということです。

ところが、裕実に限らず最近の若者達の間では、どこかに出かけるとか飲みに 行くとかいう約束は、非常に軽いもののように感じられます。もちろん、そういう 人が全てではないでしょうが、約束を軽く考えている人が、我々の年代よりも 多く存在するように思います。

これは私だけの思いではないようで、先日、夏樹(仮名、28 歳、接客業)に この話をしたときに、彼女も「最近の若者は約束を軽視している」と憤慨して いまして、意気投合したのでありました。彼女は彼女で、そういう若者達を 見ていて、「私のほうがおかしいのかしら」なんて心配していたようで、 ナイスな話題だったようです。

上記のフィクションに関しても、「信じられない。逆ギレなんて出来る立場じゃ ないのに」とのコメント。二人で「我々の価値観がおかしいわけじゃないよな、 よかったよかった」と握手して、水割りで乾杯したのでした。

ということで気をよくした私は、夏樹ちゃんをデートに誘ったのですが、

「私は約束を大切にするけど、出来ない約束はしないから・・・、ごめん」

とのお答え。

ま、そんなもんです。






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