俗に言う「一九分け」という髪型があります。また、「一九分け」の場合、バーコード状態に
なっていることも多々あります。
あの髪型はしばしば揶揄の対象となっています。私も決してかっこいいとは思えません。
私の場合、髪の毛の量が多くて困ることはあっても、絶対にハゲないと床屋さんに断言されている
人なので、「そんな奴にハゲの気持ちがわかるか!」と言われると返す言葉もないのですが、
仮に私がハゲたとしても、「一九分け」にはせずに素直にハゲを晒すような気がします。
さて、「一九分け」というのは言うまでもなく、側頭部の髪を長く伸ばし、その髪を反対側に
向かってなでつけて、頭頂部および前頭部のハゲを隠す髪型です。「一九」というのは、
分け目が 1 : 9 の位置にあるということです。
最近、朝の電車でよく見かけるおじさんに、この「一九分け」の方がいらっしゃいます。しかし、
そのおじさんの「一九分け」は普通の「一九分け」ではありません。
普通の「一九分け」はいわば「横一九分け」あるいは「左右一九分け」ですが、彼の場合、
「縦一九分け」あるいは「前後一九分け」なのです。
側頭部の髪の量が充分ではなく、バーコード状態になることを嫌った結果と推定されますが、
彼は後頭部の髪を伸ばして、頭頂を通って(仮想的な)生え際まで持ってきているのです。
はっきり言って奇妙な髪型です。
しかしながら、会社では誰もそれを指摘していないことでしょう。
奇妙といえば、分け目も奇妙です。「前後一九分け」ですから、分け目は後頭部の
かなり低い位置にあるのですが、彼の頭を後ろから見ると、分け目の線は水平な
線ではなく、V字型になっているのです。もちろん、角度はVよりも鈍角ですけど、
明らかに 90 度よりは鋭い角度です。
V字の分け目は「一糸乱れぬ」という形容がピッタリの、きれいなラインを描いています。
なんとなく、剃り込みを連想させる鋭さがあります。
「前後一九分け」は「左右一九分け」に比べて、セットには時間がかかり、さらに
特殊な技術が必要だと想像されます。
自分の後頭部に完璧なV字の分け目を作ることを想像してみてください。本当に
完璧なきれいなV字なのです。
合わせ鏡とか三面鏡を使ったとしても、それは至難の業であろうと思われます。
彼が毎朝、セットに何分を要しているのかはわかりませんが、その様子を見学してみたい
と思うのは私だけでしょうか?
そして、彼が感動的な高等テクニックでV字の分け目を形成したとして、そのテクニックが
高等であればあるほど、そのテクニックを身につけるための努力と、毎日そのテクニックを
駆使していることに対して、もの哀しさを感じずにはいられないことでしょう。