2000年5月17日 J のテーマ


家に帰ると CD の棚を探し、目的の CD をセットする。

しばらく聞いていなかったあの曲が流れだし、耳も脳も経由せずに胸に届く。

J のテーマ。この曲はそう呼ばれていた。

J は Jumbo の J 。ジャンボ鶴田の入場テーマだった。

最強のプロレスラーだったと思う。間違いなく、日本人レスラーとしては最強だった だろう。おそらく、世界でも。

彼と対戦したレスラーは、彼を「怪物」とか「化け物」とか形容した。

スピード、パワー、テクニック、スタミナ。どれをとっても超一流。そして、 それらが全て一人の人間に宿っていることの奇跡。

彼の凄さを実感したのは、お恥ずかしいことに、彼がデビューして 随分と経ってからである。

とある若手レスラーが、彼にえげつない攻めを仕掛けた。彼は怒った。 彼が試合中に怒るのを見たのは初めてだった。

若手レスラーは 10 倍返しの目に遭った。普段の彼の技を全て 10 倍の威力で 繰り出していったようなものだ。

その時に彼の凄さが実感出来たのだ。その試合を覚えているファンは多いはずだ。

その若手レスラーは、試合後のインタビューで「鶴田さんが、あんな攻めをして くれるなんて」とコメントした。もちろん、嬉しかったのである。

かくして、その若手レスラーには「ジャンボ鶴田を怒らせた男」という勲章が 付くことになった。

ジャンボ鶴田が負けた試合はいくらでも見たことがある。でも、彼が苦しそうだったり、 本当にヘロヘロになった試合は見たことがない。負け試合でも、試合後は勝者よりも 元気そうに見えたりもした。

プロレスもプロスポーツであり、お客さんを楽しませるために、 ある種の「演技力」が必要だとすると、彼の演技力はなかなかに微笑ましいものだった。

ロープに飛ばして、帰って来るところをショルダースルー、 という古典的な技があるが、彼はその技を出すときに時々、「キックで返しななさい」 とばかりに、早すぎるタイミングで上体をかがめて隙を見せるのである。

こんな彼だから、当初は、その凄さが伝わりにくかったのだ。

彼を知らない人は、サッカーの中田を思い出して欲しい。

中田の強靭な筋力、絶妙のボディ・バランス、瞬発的なスピード、芸術的なテクニックを そのまま受け継いだ、身長 196 cm、体重 126 Kg の男を想像出来るだろうか?

ジャンボ鶴田はナチュラルな筋力の強さを持っていた。文字通り、桁外れのスタミナも 持っていた。でも、彼のもっとも優れた点は、ボディ・バランスだろう。

いついかなるときも、ボディ・バランスが保たれているため、全身の筋肉を極めて 有効に使って、技を繰り出すことが出来るのだ。

あれだけの巨体で、あれだけのボディ・バランスを持っているレスラーを、 他に知らない。

そんな彼でも、病魔には勝てなかったということだ。

J のテーマを聞きながら、こんなことを考えた昨日であった。

冥福をお祈りする。







                        
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