20 代の方だと、「真空飛び膝蹴り」なんて知らないかもしれませんね。
日本におけるキックボクシングの黎明期に、沢村忠選手のフィニッシュ技として、
一世を風靡しました。
飛び膝蹴りですから、ジャンプして相手の顔面を膝で蹴るわけです。
では、何故「真空」なのか?
当時、沢村忠を主人公とした漫画がいくつかあり、最も有名なものでは、
アニメにもなった「キックの鬼」というのがありました。そして、
それらの漫画の中では「真空飛び膝蹴り」の意味は次のように解説されていました。
飛び膝蹴りは大きな動作(ジャンプ)を伴う技なので、
相手はよけたりガードしたりしやすい。そこで、
ジャンプした後空中で停止して相手を観察し、ガードの空いているところを狙って、
そこに膝蹴りを入れる。これが「真空飛び膝蹴り」である、と。
空中で停止なんてことは、本当に出来るはずもありませんので、
これは野球の川上哲治氏の「ボールが止まって見える」と同じような意味なんでしょう。
実際には空中で停止はしていないけど、あたかも停止したかのごとく、
余裕を持って相手の動きや構えを観察する、ということです。
で、空中に停止していることからの連想として、「真空」が頭について、
「真空飛び膝蹴り」になったのだそうです。
単なる飛び膝蹴りではなく、「真空飛び膝蹴り」という名前を冠したことは、
結果的に大成功だったと思います。当時のキックボクシングには、
ある種プロレス的な部分がありましたので、技の名前に対する演出もあったのです。
「飛燕まわし蹴り」というのもありましたね。
さて、当時小学生だった私ですが、「真空飛び膝蹴り」というネーミングには
納得していませんでした。
賢明なる読者諸氏にはお分かりかと思いますが、「空中に停止する」
と「真空」には、何の関係も見いだせません。真空状態だからと言って、
空中で停止出来るものではありませんから。
あえて言うなら、「無重力飛び膝蹴り」でなければなりません。無重力状態ならば、
落ちてくることがなく、空中に停止出来そうに思えます。
しかしながら、実際に無重力状態で飛び膝蹴りを行おうとすると、
ジャンプするとどこまでも上昇を続けてしまいます。
厳密には空気抵抗で徐々に減速していくでしょうが、それはそれとして、
少なくとも、ほどよい位置で停止して相手を観察することなど出来ません。
観察は出来ても、自分がどんどん上に行ってしまいますから、
膝蹴りが届かなくなってしまいます。
ですから、空中で停止するためには、普通の状態でジャンプして、
最も高い位置で上昇速度がゼロになった瞬間に無重力にならなければなりません。
そして、そのままではずっと浮いたままになってしまいますから、
すぐに普通の状態に戻らなければなりません。
つまり、空中に停止して相手を観察し・・・という技を正しく表現するならば、
「頂点瞬間無重力飛び膝蹴り」ということになります。しかしこれは語呂が悪いです。
マーケティング手法としては、科学的正確さに目をつぶっても
「真空飛び膝蹴り」のほうが優れていると言わざるを得ません。
真空で思い出しましたが、「柔道一直線」というドラマの中で、
主人公の使う技のひとつに「真空投げ」というのがありました。
何がどう「真空」なのかさっぱり分からないのですが、
この技は他の技に見られない大きな特徴があります。
主人公が必殺技を繰り出すときには、技の名前を叫ぶことに決まっています。
格闘技であっても球技であってもロボットであっても。そして、
通常は技を繰り出すと同時、またはその直前に叫ぶことになっています。
ところが、「真空投げ」というのは変わった技でして、
お互いに組み合っていない状態から、主人公が「真空投げ」と静かに言って、
「真空投げ」の構えに入るのです。そして、不思議なことに相手は、
その構えに向かって突進していって、見事投げられてしまうのです。
つまり、実際の「真空投げ」の準備段階から「真空投げ」と言ってしまっていて、
でも相手はそれを知らんぷりすることなく、律儀に技にかかってくれるわけです。
私の記憶では、「真空投げ」を無視したのは、近藤正臣ただ一人です。
因みに、「柔道一直線」の中の究極の必殺技である「地獄車」ですが、
あれはどう考えても、最初の半回転の段階で「一本!」になるはずなので、
何回転もしているのは明らかにおかしいのでありました。