2002年3月27日


ジョンの悲劇


10 年程前の話になります。

その日、私はコンピュータ関連の某イベントへの出展準備のため、 休日出勤をしていました。そして、そのイベントの目玉となる出展物の開発元 (アメリカ)から、一人のエンジニアが来日しておりまして、 彼もまたオフィスに来ていました。

その彼をジョンとしましょう。当時で既に 40 歳を超えていたと思います。 ジョンは身長 180cm 弱位ですが、体重は 100Kg 以上あったでしょう。 アメリカ人的に太っていました。顔は赤ら顔の童顔、悪い言葉だと 「とっつぁん坊や」です。

これまたアメリカ人にはしばしば見られる傾向なのですが、良く言えば天真爛漫、 悪く言えばガキっぽい、というのでしょうか、準備作業の合間に、 ジョンはイベントに展示するマシンを使って、フライト・シミュレーションのゲームを 嬉々としてやっておりました。いつの間にインストールしたのやら。でも、 その様子は本気で本当に楽しんでおりまして、なかなか憎めないところがあります。

さて、私はセコセコと準備作業をしておりました。その時はたまたま、 オフィスには私とジョンしかいない時間帯になっていましたが、しばらく前から、 ジョンの姿が見えないなあ、などと思っていたら、ジョンがドタドタとオフィスに 駆け込んで来まして、

「Takagi-san, *(^%&(&%^LJH)_=*&^%%I 」

と、尋常でない表情でまくしたてるのです。もちろん英語です。 何やら非常事態のようなのですが、ゆっくり話してもらっても充分に理解できないのに、 早口でまくしたてられたら、分かるはずがありません。

で、色々と聞き返すと、トイレで水がどうのこうのと言っているようです。 そして、とにかく来てくれ、と私をトイレに引っ張っていくのです。

どしたどした、とジョンに連れられてトイレに行った私が見たものは、 無人の個室にある便器から、噴水のように吹き出している水流でありました。

ウォシュレットです。

ジョンは個室に入りくつろいでいる時に、何やら見慣れないものを見つけて、 ボタンを押してしまったのでしょう。当然、水が出てきますが、 不幸な事にボタンには「お尻」「ビデ」「止」といった日本語の文字しか 書いてありませんでしたので、彼にはその水を止めることが出来なかったのでしょう。

私は爆笑しながら噴水を避けて便器に近づき、「止」ボタンを押した後、 ヒクヒクとしながら、ジョンに各ボタンの機能の説明をしてあげました。 それより先に床と便座を拭け、って感じですけどね。

しかしまあ、ジョンも焦ったことでしょう。当時、アメリカにはウォシュレットは ほとんどなかったと思われますので、水が出て来て肛門を直撃した時も ビックリしたでしょうが、それを止められないと分かった時に彼が感じた絶望感は、 想像するだに大爆笑ものです。

このままじゃいけない、何とかしなければ。そうだ、Takagi-san に助けを求めよう。 でも、このまま立ち上がると G パンやパンツが濡れてしまうし・・・

などと考えなから、腰を浮かせては腰掛け直しという逡巡を 5 回位はしたはずです。

ここから先は想像です。ちょっと腰を浮かせてから手のひらで水流をさえぎり、 そのまま立ち上がり、G パンを足元にまとわりつかせたまま、 水流の届かない個室外まで素早く移動し、隣の個室のトイレット・ペーパーで 手とお尻を拭いて、それからパンツと G パンを上げて、それからやっとオフィスに ドタドタと駆け込んで来たのでしょう。そうそう、 自分の排泄物を流しておくことも忘れちゃいけません。もちろん、噴水を避けながら。

さて、イベントの準備もつつがなく終了し、イベント当日のことです。 ジョンも説明員として参加しています。 スーツを着て真面目な顔で立っているジョンです。

その日、グフグフと笑いながら私に近づいてきて、こっそりとジョンを指差しながら 「彼がトイレを水浸しにした奴?」と尋ねる同僚が何人いたことか。 あっと言う間に、話は社内中に広まっていたのでした。

それは私が口をつぐんでいなかったことの証拠でもあります。




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