セックスしたい?


「ねえねえ高樹センセ、セックスしたい?」

私はもう少しで、飲み掛けのコーヒーを盛大に吹き出すところだった。 やっとのことでこらえたのだが、そのむくいとして、たっぷり30秒ほど ゲホゲホ、ガハガハとむせかえることとなった。このセリフの主は 高樹メンタル・クリニックの美人看護婦(週刊誌の見出しみたいな形容 だが、事実セックス・アピール過剰である)の美貴である。ここは 高樹メンタル・クリニックの診察室。私と美貴しかいない。言葉を換えれば、 うちの全スタッフが揃っている、とも言えるのだが。

「あのなあ、ゲホッ、いきなり何を言い出すかと思えば、ゲホゲホッ」

私は涙目をこすりながら言った。美貴は笑いをこらえている。

「だってセンセ、さっきのクランケに言ってたでしょ? セックスしたいのが 当たり前で、したくないことの方がずっと問題だって。だから、センセも セックスしたいのかなぁ、って思って」

美貴は推定Fカップのバストを突き出すようにして言った。美貴は何をする にもセクシーすぎるのが美点でもあり、欠点でもある。ナースとしては一流 なのだが、男性クランケおよび私に不要な刺激を与えることと、女性クランケ に、本能的に敵愾心を惹起させることが問題である。1ヶ月前に美貴がうちに 来てから、美貴目当ての男性のクランケが増えたのは良いのだが、私は仕事に 集中できなくなってきている。

さっきのクランケというのは、自分の性欲が異常に強いのではないか、 という悩みを相談にきた25才の男性である。話を聞いてみると、妻との コミュニケーションに若干の問題はあるものの、特に性欲が異常に強い ということはなく、健全な成人男性として正常な範囲にあったが、彼自身は、 自分の性欲が異常に強いと思い込んでいたのだった。それに対して 私が言ったのが、セックスしたいのが当たり前、という言葉である。

本来であれば、「セックス? そりゃしたいよ。特に美貴とならね」などと 余裕をかましたいところだったのだが、カルテの整理をしている美貴の ピップラインを見ながら、よからぬ想像をしていたときに、不意打ちを 食らったので、あたふたとしてしまったのだ。これでまた、ポイント 下げてしまったに違いない。「美貴と仲良くなれたらいいな計画」の成就が、 また一歩遠のいたことになる。

ま、それはさておき・・・

「そうだねぇ、そりゃまあ・・・」

「ねえ、オトコの人ってどんなときにセックスしたいと思うの?」

「基本的にいつでもだよ。もちろん溜っていればなおさらだし、 セクシャルな刺激を受ければますますだな」

「ふ〜〜ん、センセらしくない当たり前の答ね。その位は私にも想像できるわ」

美貴は私のことをセンセと呼ぶ。いくら「せんせい」と言いなさいと言っても 直らない。それはこの際どうでもいいのだが、依然として旗色悪し、である。 完全に主導権を握られている。

「ああ、それから、さみしいとき、人恋しいとき、心に傷を負ったとき ってのもセックスしたくなるなあ」

「え、心に傷を負ったとき?」

「そう、慰謝としてのセックスを求めるのさ」

「イシャって慰謝料のイシャ?」

やや怪訝そうな表情。このあたりで形勢逆転といけるか??

「そうだよ、慰めたり癒したりという意味合いだよ」

「セックスって慰謝になるものなの?」

「そりゃ、なるさ。状況によっては最高の慰謝かもしれないよ」

「ねねね、何で何で? 何で慰謝になるの?」

?の連発である。おまけに目が輝いてきた。これはいける。

「傷付くときってのは、大体において自分の価値を認めてもらえないとき だろう? 例えば、振られたりとか左遷されたりとか。そういうときに その代償として、セックスによって自分が認められることで慰謝になる んだよ」

「セックスで自分が認められるってどういうこと?」

「こういう言い方をすると、女性としては面白くないかもしれないけど、 男性にとってセックスはある種の征服欲を満たしてくれるものなんだ」

「ええ、それは分かるわ。バックから激しく突かれているときなんかは、 私はあなたのものよ、好きにしていいのよ、なんて気分になるし、フェラ してるときだって、征服されているように感じることもあるわ。もちろん、 愛してる人なら、そういうの全然いやじゃない。もっともっと征服して、 って思うわ」

ほうほう、もっともっと征服してか。うーーん、いいこと言うなあ。ただし、 愛してる人なら、ということですか。ま、そりゃそうだ。

「うん、そういう状況って、女性が男性の価値とか存在とかを認めているってこと になるだろう? それが慰謝になるんだよ。誰でも言えるような慰めの言葉 じゃなくて、特別な関係の特別な人に、特別な方法で認めてもらうんだから、 これは素晴らしい慰謝になるんだ」

「でも私、受け身のセックスだけじゃなくて、自分から主導権を取るのも 好きなんだけど、それでも征服欲が満たされて慰謝になるの?」

おお、結構積極的なんだ。それもまた悪くないけど。

「なるさ。そもそもセックス出来る関係というのは特別の関係だよね。 自分が相手の女性にとって特別の存在なんだから、それだけでも自分が 認められていることになるだろ? それに、女性が主導権を取ったとしても、 感じてくれればそれは自分の価値になるんだ。自分の愛撫なりペニスなり が女性に快感を与えているんだからね。だから、騎乗位で女性が腰を使って いても、それで女性が快感を感じていれば、それはそれで征服感はあるし、 充分に慰謝になるよ。セックスの快感ていうのは、男性にとっては単なる 肉体的快感だけじゃないんだ。女性が自分に感じてくれてイッテくれる 快感もある。私なんかは、むしろイッテくれる快感のほうがずっと大きいよ。 肉体的快感だけなら、オナニーと似たようなもので、セックスの良さってのは 女性の反応にあるといっても過言ではないよ。だから、自分だけ先にイッテ しまって、女性がちっとも気持ち良くないセックスは、私にとっても最低の セックスなんだ」

「そうよね、お互いに気持ち良くなければつまらないものね。センセって 優しいのね。私が昔付き合ってたオトコなんて・・・、あ、やめやめ。内緒、 内緒」

そうか、美貴はこれまで、以外と男に恵まれてないのかもしれない。それよりも、 心なしか美貴の瞳が潤んでいるような・・・

「でもね、センセ。ということは、女性を満足させられなければ、慰謝には ならないってこと?」

「全然ならないわけじゃないけど、満足してくれたほうが、より効果的な 慰謝になるのは間違いないよ。フェラとかバックとかで征服感を得て、かつ 女性がすごく感じてイキまくってくれれば、こんなにいいセックスはないし、 男としての自信を取り戻せるんだ」

「で、最後は顔射?」

「あの・・・、いや顔射もいいけどね、問題はそういうことじゃなくって・・・」

「分かってるわよ。ちょっとからかっただけ。センセは顔射好き?」

おいおい、そんな目で見るんじゃない! からかっただけだと? からかうのは いいけど、ネタ振りが凄すぎるんだよ。それよりも、目が「顔射してして」って 言ってるような。いやいや、そんなに世の中甘くない。すぐにその気になると、 足元見透かされるに違いない。自重自重。

「特に好きってわけじゃないよ。でも、女性がそれで喜ぶならいくらでも しますよ。美貴は好きなのかい?」

逆襲だぁー!!

「うん、だぁ〜い好き! 男の人の情熱のほとばしりって感じ。でも、もちろん 愛している人ならね」

全然逆襲になってな〜い。その上、付け入る隙もな〜い。「愛している人」が なければ、「どう、試してみる?」とかなんとか言えるんだけど。いやいや、 こんな口説き方は最低だ。ペースを乱されちゃいかん、いかん。

「話がそれちゃったけど、慰謝としてのセックスって分かったような気がするわ」

私は「顔射よりも口内発射のほうが・・・」と言いかけたのをのみこんで (のみこんだのは言葉である、念の為)、

「この慰謝としてのセックスってのは男女を逆にしても成立すると 思わないかい?」

うーん、平常心を装うのも疲れる。

「そうそう、私もそれを言おうと思ってたの。女も落ち込んでいるときなんかは、 ギューっと抱きしめて、キスして、そして情熱的なセックスで別世界に連れて 行って欲しい、って思うもの」

「男性が情熱的に女性を求めることで、女性は自分が必要とされている、という 実感が得られるんだろうね。もちろん、愛情や信頼関係があればこそ、だけど」

「そうね。それとやっぱりあの時の快感はなにものにも代えがたいわよ。 男の人には分からないでしょうけど」

ええ、ええ、どーせ男には分かりませんよ。くっそー、こんなに挑発されて、 どうしてくれよう。

「ところで、最近色々とあってね、ちょっと自信をなくしているんだ・・・」

もちろん嘘である。職権濫用だろうとセクハラだろうと、かまうもんか。さあ、 どうする美貴?

「あらセンセ、次のクランケが見えてるわ。こんなお話してる場合じゃないわよ。 お仕事お仕事!」

美貴はさっさと受付窓口に向かった。お見事としか言いようがない。しばし 呆然自失の私。

しばらくすると、受付を済ませた美貴がつかつかと歩み寄り、私の耳に色っぽい 唇を近づけて、

「次の方をお呼びしますよ。女性の方ですから、そんなふうにテント張った ままじゃ失礼ですよ。さあ、落ち着いて落ち着いて」

かくして、私のプライドはずたずたになったのである。ほんとに自信なくしそう。

せめて一矢報いなくてはと思いつつも、「美貴のパンツの中も濡れてるんだろう?」 とはどうしても言えなかった私であった。





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