| マウント・ポジション |
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「センセ、高田延彦がヒクソン・グレイシーと再戦するんですって!」 美貴が格闘技通信を読みながら言った。今日の高樹メンタル・クリニックは 開店休業状態で、私も美貴も暇をもてあましている。 「ああ、知ってるよ」 私は格闘技マニアである。当然、それくらいは知っている。格闘技通信は、 私が買ったものだ。美貴は高田延彦のファンである。とは言え、彼のルックスを 「かっこいーーー!」と言っている程度で、格闘技者としての高田延彦について、 詳しいわけではない。 「ねえ、ヒクソン・グレイシーって強いの?」 「うん、強いと思うよ。バーリトゥード・ルールの中では圧倒的に強いね」 バーリトゥード・ルールとは、目に対する攻撃や噛み付きなどを除いて、 あらゆる攻撃を認めるルールである。殴る、蹴る、投げる、関節を極める、 絞めるといった技は、ほとんど制限なく使える。また、倒れた相手や、 グランド状態の相手に対する打撃技もOKである。バーリトゥードとは、 何でもあり、といった意味だ。 ヒクソン・グレイシーはバーリトゥード・ルールでの戦いにおける第一人者で、 400 戦無敗といわれている。 「どうして、彼には誰も勝てないのかしら?」 「他の格闘技の人が彼とやって勝てないのは、ルールが違うからってことだろうね。 極端な話、ボクシングのヘビー級チャンピオンが貴の花と相撲をとっても、 絶対に勝てないだろ? それと同じようなものさ」 「でも、ルールってそんなに違うものなのかしら?」 「一番の違いは、グランド状態で相手を殴れるということだね。彼の勝ちパターン は知ってるだろ?」 彼に限らず、グレイシー柔術あるいはブラジリアン柔術の典型的な勝ちパターンと いうのは、タックルで相手を仰向けに倒し、馬乗りになり、相手の顔面にパンチ、 それを嫌った相手がうつぶせになったところを、スリーパー・ホールド(裸絞め) で極めるという展開である。この馬乗りの状態をマウント・ポジションという。 「マウント・ポジションを取らせない技術、とられた時の防御の技術は、 他の格闘技にはほとんど見られないんだよ。もちろん、馬乗りから顔面パンチ なんてのは反則だからさ。反則攻撃に対する防御技術なんて考えないだろ?」 「ふーん、そうか。マウント・ポジションを取られたら、もう逆転出来ない のかしら?」 「絶対に逆転出来ないことはないけど、非常に不利だということは間違いないよ」 などと言いながら、私は全然別のことを考えていた。 「話は変わるけど、私、マウント・ポジションは大好きよ」 美貴がいきなり身を乗り出して来た。驚いたことに、美貴は私と同じことを 考えていたようだ。 「それは、騎乗位が好きってことかい?」 「さすがセンセ、ついてきてくれて嬉しいわ。そういうこと。自分が上になるのが 好きなの。センセは?」 「嫌いじゃないけど、良くないこともあるなぁ・・・・」 「良くないって、感じないってこと?」 「いや、そうじゃなくて、女性に主導権を取られると早漏気味になったりもするん だけど、良くないことってのは、危いっ! て瞬間に自由に動けないってことさ」 「何それ???」 「うーん、つまり、生でやっていて、中出ししちゃまずいときに、予定より早く 盛り上がっちゃって、もう出そうってときに抜くことができないだろ?」 「ああーーー、そうねぇ」 「バックとか正常位なら、自分が動いているわけだから、加減してペース配分 できるし、もし暴発しそうになってもスッと抜けるから大丈夫だけど、女性が 上に乗ってガンガン責められていると、そういう訳にもいかないからね」 「で、そういう時はどうするの?」 「出来るだけそういうことにならないようにするけど、本当に危いときは、 申し訳ないけど、強引にどけてしまうよ。巴投げのように・・・」 「・・・・・、そんなのいや!」 「いやって言われても、赤ちゃん出来たらまずいこともあるんだし」 「それは分かるけど、もっとやさしく出来ないのかしら。巴投げなんて最低よ」 「切羽詰まっていると、なかなかそうもいかないんだよ。火事場のバカ力じゃ ないけど、つい力が入りすぎて、投げ飛ばすようになっちゃうんだよ」 「ああああ! センセ、それよ、それ!!」 「何が?」 「マウント・ポジションの返し方よ! 出そう、危いっていう瞬間をイメージ すれば、火事場のバカ力の巴投げで返せるんじゃないかしら、ね、どう?」 私は、高田延彦が向井亜紀を練習相手にして、マウント・ポジションの返し方を 練習している光景を思い浮かべてしまい、大爆笑してしまった。 高田さん向井さん、ごめんなさい。高田さんなら、ヒクソンに勝てると信じてます。
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