| ファースト・キス |
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またまたご無沙汰してしまいました、高樹です。慢性ネタ切れに悩む今日この頃、 であります。 前回書いた、第2話の 「無理やりは、いや〜ん!」の空メールがいまだに届く、という謎ですが、 まだ何の情報も得られていません。 それどころか、最近は 1 日に 2 通位のペースで頂くようになってしまいました。 五ヶ月近く前に書いたものなのに、1 日 2 通というのは偶然では済まされません。 うーーん、気になる。誰がどこでどんな風にリンクしてるのでしょう。どなたか、 教えて下さい、お願いします。 第2話の空メールと言えば、ちょっと勘違いされているメールも頂いてしまい ました。多分、IE & Outlook Express を使われているのでしょう、空メール・ ボタンを押して、メーラーが立ち上がり、そこでちょこっとメッセージを書いた ようなのですが・・・ 「美貴ちゃんの金沢時代からのファンより」なんて書かれていて、美貴が映画に 出ていた、なんて言っています。もちろん、このナース美貴のお話では、美貴が 金沢にいた、なんてことは書いていませんし、まして映画に出ていたということ もありません。 ナース美貴のモデル(?)の Miki ちゃんに、心当たりがあるかどうか尋ねた ところ、「知らーん」とのこと。 このメールには差出人のシグネチャが入っていて、そこには携帯電話の番号が 書いてあったので、電話してみようか、と思ったのですが、やめときました。 ということで、このメールを書いた M さん、何か勘違いされていると思いますよ。 さて、今回は真面目にナース美貴のお話を書きます。といっても今日の主人公は 美貴ではありません。またまた、センセは他の女性に浮気しそうであります。 それでは、はじまりはじまり。
「○○さん、どうぞ診察室にお入り下さい」 美貴が患者さんを呼んだ。カルテを手元に引き寄せて見る。新患である。 入ってきたのは、若くて小柄な女性だ。 顔を見た瞬間、私の心臓はビクンとはねあがった。美女だったからではない。 セクシーだったからでもない。美女でセクシーというのは当たっているのだが、 それだけでは、下半身がピクンとすることはあっても、心臓がビクンとしたりは しない。 私の記憶の中から、甘酸っぱい想い出とともによみがえってくる顔があったが、 その顔は、まだ幼さをのこす少女の顔であった。 私は思わずカルテを見直した。そこには見覚えのある名前が。 「こちらにお掛け下さい」 美貴の言葉に従って、彼女は私の前の椅子に腰掛けた。 「か、かず・・・・・?」 私の声は引っくり返っていたかもしれない。 「はい。高樹先生、お久しぶりです。ご無沙汰してました」 間違いなく、目の前にいるのはかずだ。 「どうしてここに・・・」 愚問である、お買い物をするために医院を訪れる人はいない。 「10 年振り位ですね、お会いするのは」 かずは言った。そうか、もう 10 年も経ったのだ。 私がまだ学生だったころ、かずは私の教え子だったのだ。当時中学生だった かずの家庭教師を私がしていた、ということだ。 「あら、お知り合いだったの?」 美貴が言ったが、私にはほとんど聞こえていなかった。 「その後、どうしていたんだい?」 「おかげさまで、無事志望校に入学出来まして、その後は大学を出て就職しました が、去年結婚しまして、この近くに引っ越して来たんです」 「結婚」という言葉が、私の心の奥の方にチクリと刺さった。確かにカルテの 苗字は変わっていた。 私は素早くかずの年齢を計算した。今は 24 歳のはずだ。 「ここの前も何回か通ったことがあるんですよ。だから、高樹先生がこちらに いらっしゃることは知っていたんです。最初はびっくりしました。あの 高樹先生が・・・、って思って」 当時、かずは私が医学部の学生であることは知っていたし、うちの看板には 私の名前が書いてあるので、そうと分かっても不思議ではない。不思議、という より偶然は、かずがこの近所に引っ越してきたことである。 「そうか、それなら電話でもくれればよかったのに」 「ええ・・・・」 かずは言葉を濁した。 「色々と積もる話もしたいところだけど、今日ここに来たのは、患者さんとして なんだろう? どうしたんだい?」 「・・・・」 かずは目を伏せた。 私はかずが話し始めるのを待った。しかし、かずは目を伏せたままだ。 「精神科医の高樹じゃなくて、昔の高樹先生になら話せるのかな?」 私はさしたる確証もなく言ってしまった。これはプロの精神科医のテクニック などでは断じてないだろう。心の奥にささった棘がそう言わせたのだ。 かずは、はっとしたように顔を上げた。 「ええ、高樹先生にお話したいんです。精神科の先生に相談すべきことなのかどうか、 分からないので・・・」 「じゃあ、私は 10 年前に英語と数学を教えていて、いろんなことを語り合った、 高樹先生になろう」 「ここで?」 かずは、ここで話すならそれは医師と患者の関係になってしまう、と言って いるのだ。 「昔のように、チョコパフェを食べながらでもいいよ」 かずの顔が輝いた。当時、家庭教師の時間が終ったあと、かずの家の近所の喫茶店で、 チョコパフェをごちそうするのが恒例だった。そこで、私たちは先生と生徒、 というよりも仲の良い兄と妹のように、友達のこと、恋愛のこと、将来のこと、 音楽や映画のことを語り合ったのだった。 「今日はこれからまだ診察があるので、今すぐというわけにはいかないけれど、 明日は休診日だから、明日なら時間がとれるよ」 「私も明日は空いています。どうすればいいですか?」 私たちは待ち合わせの場所と時間を決めた。 「どうも済みませんでした。いきなり来て、わけのわからないこと言って・・・」 「気にすることはないよ。10 年振りの同窓会のつもりでいてくれればいいんだよ」 「ええ。じゃあ、明日楽しみにしています」 かずは微笑むと立ち上がった。明るい笑顔に翳が見えたのは、気のせいだろうか? 診察料を請求するの、という目でこちらを見ている美貴に首を振りながら、私は かずが出ていくのを見ていた。 その時、ふとあることを思い出した。何故、今まで思い出さなかったのか不思議 なのだが・・・ それは、かずのファースト・キスの相手は私だったということだ。 そして、その事実が、私の心に刺さった棘を生んだことは言うまでもない。
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