発作の見分け方
 はじめに

 発作のことを患者さんやご家族が説明される時には、よく「大発作」とか「小発作」とかいう言葉がでてきます。しかし、Aさんにとっての「大」発作は、Bさんの「小」発作だったりすることはよくあることで、そういう説明だけでは発作について主治医は良く知ることはできません。治療を始める上で一番の頼りは、まず第一に患者さんご自身や患者さんのご家族の発作についての説明です。
 では実際には発作はどんな風に観察したらいいのでしょうか。発作の観察のポイントを、1.意識の有無2.発作に伴う運動3.患者本人の体験4.その他の注意点の4つに別けて考えてみたいと思います。

 発作を観察する4つのチェック・ポイント   

 次に説明する発作の4つのチェック・ポイントを短い発作の間に一度に全部観察しようとしてもどんな専門医にもできることではありません。ご家族の方は発作を何度も見る機会があると思いますので、1つの発作では1つの項目に特に絞って観察し、次の発作では別の項目を観察するというように焦点を絞った観察を行う必要があります。
 1.発作の時に意識があるかどうか
 
 発作が起こるとご家族はびっくりしてしまって本人を冷静に観察することなどできなくなるものですが、まずは観察の手始めは意識があるかどうかを確認することです。意識があるかどうかを確認する一番確実な方法は、たとえば「1、2、4」とか「りんご、みかん」とか2つか3つの単語を発作の最中に言っておいて、発作が終わってから発作中に言った言葉を思い出すことができたかどうかを確かめる方法です。ただし、赤ちゃんやもともと発作のない時でもこうした数字や言葉を覚えるのが苦手な人の場合にはこの方法は使えないので、話しかけて応答があるかどうかとかで意識があるかどうかを推測するしかない場合もあります。話しかけて応答があるかどうかを確かめるのが意識の有無を確認する上で不十分なのは、話しかけて応答があってもそれを後からは覚えていないことはてんかん発作ではそう珍しいことではないからです。

   意識だけがなくなり他の症状をあまり伴わない発作
  典型的には小学校低学年の子が特に午前中に授業中の集中力が妙になくなり、話しかけても数秒から数十秒の間ボーッとしているのに気づかれるといった症状で出現します。こうした発作は小児欠神てんかんに伴う『定型欠神発作』に典型的ですが、欠神発作にはこれ以外にも、時に数時間とか十数時間続くこともある『非定型欠神発作』があります。非定型欠神発作は知恵遅れのある児童に多く出現する発作です。側頭葉由来の『複雑部分発作』も時に意識の消失をその主な症状とすることがあります。

  2.発作の時にどんな運動をしているか 

 次に発作の時にどんな運動をしているかを確かめて下さい。発作の時の運動は大きくは2つにまず分けることができます。1つはけいれんで、もう1つは自動症です。
  けいれんというのは手や足がかなり機械的にピクピクしたり硬直したりするもので、いま流行りの低周波治療器を当てた時に起こるピクつきのように、生理的には起こらない運動が起こるものを言います。
 これに対して自動症というのは、たとえば「走る」とか「私は理香です」という言葉を喋るとか、こういった普通の運動が自分の意志とは無関係に発作中に勝手に出現してしまうことを言います。発作になると柏手を打つ患者さんがいましたが、これなどは腕がかなり規則的に動くので、患者さんのお母さんはこの発作のことを「けいれん」と表現していましたが、実際には自動症と表現するのが適当だったわけです。

   a) けいれん
   さてそれではけいれんにはどんな種類があるのでしょうか。けいれんは、1の項で説明した意識の有無と、けいれんがピクつきなのか硬直なのか、体の何処にどんな発作が出てきたかに基づいて見分けることができます。全般てんかんに主にみられる発作と局在関連てんかんに主にみられる発作に別けて説明します。
   全般てんかんに主に見られる発作型
   
   意識がなくて両腕を固く突っ張る場合
  急にウーッと唸り声を発してほぼ同時に両腕を固く突っ張るのが典型(図1)。意識は普通は最初からありません。このような発作のことを『全般性強直発作』と呼びます。突っ張りがとれるとバタバタと泳ぐような自動症が後続したり、口をムニャムニャしたりすることもあります。特に大人になってもまだこの発作が続いている場合にはこうした自動症が良くみられます。レノックス症候群に典型的に見られますが、類似した発作で時に意識が保たれている場合には前頭葉てんかんでもこのような発作が観察されることがあります。
   両腕を突然ピクつかせる場合
  瞬間的に両腕がピクピクッとするのが典型(図2)。朝起きて数時間以内に限局して両腕のピクつきはヤンツ症候群に典型的ですが、こうしたピクつきはその他にも様々のてんかんで認められます。瞬間的なので意識の有無を確認することは困難です。こうした発作は『全般性ミオクローヌス発作』と呼ばれます。
   b) 自動症
 
 自分の意志とは無関係に勝手に色々な運動をすることを自動症と言います。自動症には大きく分けると3つの種類があります。
   意識消失発作終了後に出現する自動症
  意識がなくなってけいれんする発作やけいれんしなくても意識がなくなる発作が終わった後に制止をふりきって歩きだしたり暴れたりすることがあります。この時には本人はまだ意識がなく周囲で何が起こっているのかも良く分からないので、痛みや自分の進行方向にある障害物などに対してかなり乱暴な反応をしてしまうことがあります。こういう自動症は、『発作後もうろう状態』の中で出現します。
   口や手先の比較的小さな動きの自動症
  最初に動作が停止し、一点を見つめ、次いで口をムニャムニャしたり手悪さを始めたりといった比較的小さな動きが出現し、その後フッと我に返ったようにして周囲をキョロキョロと見回して発作後もうろう状態に移行するのは(図6)、側頭葉内側に起源を持つ『複雑部分発作』にかなり特徴的な症状です。動作停止と同時にチアノーゼが出たりするのもこの発作の特徴です。口をムニャムニャしたり手悪さをしたりといった動きの小さな時期には、意識は深く障害されていて外界に対する反応はほとんどないのが典型的ですが、それに続く発作後もうろう状態の時期には短絡的ではありますが外界への反応性はかなり回復してきます。
   突然激しく体躯を動かす自動症
  凝視や動作停止の時期を伴わずに突然足を踏みならしたり走り出したり、ベットからはねおきて飛び跳ねたりするのが特徴的です(図7)。時に睡眠中だけにこうした症状が連日何回も起きることがあります。この種の自動症のもう一つの特徴は発作中必ずしも意識が障害されているわけではないということです。このような発作は、前頭葉内側面起源の『複雑部分発作』にかなり特徴的です。

  3.発作の時の患者さんの主観的な体験  
   前兆は患者さん本人にしか分からない主観的な体験です。これについてはかなり以前に1度この「波」でも詳しく紹介しましたが、これらは全て脳の一部が興奮して出現する局在関連てんかんの症状と考えることができます。前兆体験については大脳の部位別に簡単にまとめておきます。

   大脳新皮質
赤や青の玉や楕円などが見えるのは後頭葉由来の放電である可能性があります。一側の視野にのみ見える場合には反対側の後頭葉に由来していると考えられます。ブンブンとかピーとかという耳鳴りが発作の前兆として出現する時には側頭葉の上葉のヘーシェル回という部分に起源が推定されます。目眩がてんかん発作の症状である時には、このヘーシェル回かそうでなければ頭頂葉に起源がある可能性が示唆されます。言葉が喋れず人の言うことも理解できないようなことが発作性に出現し、てんかん性である場合には左側の前頭葉か側頭葉に発作の起源がある可能性が考えられます。
   大脳辺縁系
  一番頻度が高いのはムカムカやお腹から何かがこみ上げてくるような感じからなる上腹部不快感です。次いで多いのは以前の光景が目に浮かんだり、前にもこういう同じことがあったという感じからなる既知感です。そして誰かの存在をありありと感じる不安発作もかなり頻度の高い前兆です。
  4.その他の注意点

発作を観察する上でのその他の注意点としては、一つは特にけいれんする発作があった後、麻痺がどちらかの手足に残っていないかどうかを確かめるということがあります。麻痺は短い時では発作後10〜20秒しか確認できないこともありますからご家族の観察は重要です。発作が終わった後、片方の手や足をほとんど動かさず、別の側の手足ばかりを動かしている時には要チェックです。それから、1〜3の各論の中でも触れましたが、発作が好んで起こる時間帯があればこれを記録しておくことも発作の種類を理解する上ではとても重要な情報になります。

 おわりに


 てんかんという病気は患者さんやご家族の観察からどんな風にその発作とつきあっていけば良いか、その発作は治るのか治らないのか、どの薬が一番良いのか、手術はできるのかできないのかなどの予測がかなりの症例でできる病気です。しかも他の病気と違って難しいのは病気の症状を治療する医者は大抵の場合直接見ることができないという点です。てんかん発作は沢山の種類がありますが、てんかんというのは脳の病気ですから、専門家が見たことがないような発作はそう簡単に出るものではありません。てんかんに似た発作が心の悩みから出ることもありますが、上に挙げた4つのチェックポイントをきちんとおさえて相談すれば専門家がてんかんの種類を診断する上で大きな手助けになります。それでもどうしても分からない場合には入院して精査することになるわけです。
 いずれにしても発作を良く見て良く記録することこそてんかん発作を治療するための大事な第一歩なのです。