読書録 世界

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題名
初版発行日

感想

・印象的な内容(一部要約したものあり)

1

「強国」論

デビッド・S・ランデス

竹中平蔵訳

三笠書房
初版2000年1月15日

 ハーバード大学名誉教授(歴史学・経済学)のデビッド・S・ランデスが書いた「The Wealth and Poverty of Nations」の日本語訳。慶応大学の竹中平蔵先生が訳している。また、表紙の帯に堺屋太一からの推薦の言葉が書いてある。

 大航海時代以降の世界史を強者を中心に描いてある。そこには、弱者への同情などは存在しない。そのあたり、競争社会を理想としているように思える竹中平蔵や堺屋太一と考えが合うのだろう。落ちぶれた国というのは、みじめなものであり、誰かが助けてくれるなどという甘い考えは通用しない。ただ、他国にいいように利用されるだけである。

 最近出された本には珍しく、日本と日本人のことを高く評価している。サミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」では、日本は中国に遠く及ばないような書き方がされていたが、この「「強国」論」ではまるで反対のことが書いてある。富について書いた本だと、日本の評価は高くなるようだ。

  • 大ざっぱにいえば、世界の国々は次の三つに分けることができる。「体重を増やさないことに多額の金を費やす国」「生きるために食べる国」「次の食事がどこで手に入るかさえもわからない国」の三つである。(24頁)
  • (大航海時代に繁栄してその後没落したスペインに関して)外国人に頼るということは、その国の技術と企業経営が硬直化しているという証である。(113頁)
  • (スペインとポルトガルの衰退に関して)異説を認められない狭量さは、犠牲者よりも迫害者のほうを傷つける。(124頁)
  • (明治維新について)たとえ西洋の圧力がなかったとしても、日本は変わったであろう。(294頁)
  • 日本人は自分たちが優秀であることを知っている。知っていたから、他人の優秀さを認めることができた。(312頁)
  • (明治の日本の近代化に関連して)他の国々でも、若い人間を外国へ送って新しいやり方を学んでこさせようとした。だが、日本人がちゃんと祖国に戻ってきたのに対し、彼らは国を捨ててしまった。(321頁)
  • (環境汚染に関する南北間の意識について)貧しい者たちは怖いもの知らずだが、金持ちは恐怖に怯えている。金持ちのほうが失うものが多いからだ。(483頁)

 

2

文明の衝突

サミュエル・ハンチントン

 日本を独自の文明を持つ国として特別扱いしてくれているのは嬉しい。しかし、米中が対立したときの日本の行動予測は悲しい。強いものにしっぽを振る国のように思われている。
 文明の衝突の代表的地域として、バルカン半島について詳細に記述してある。イスラム教、キリスト教、ギリシャ正教の三つが衝突する地域として。1999年のコソボ紛争も本書の記述と一致する衝突となっている。

3

文明の衝突と21世紀の日本

サミュエル・ハンチントン

鈴木主税訳

集英社新書
初版2000年1月23日

 本書は、1998年日本語訳が出版されたサミュエル・ハンチントンの「文明の衝突」の抜粋と、その後行われた公演の内容、発表された論文をまとめたもの。「文明の衝突」には、あまりに多くの事が含まれていたが、本書は、日本との関係を中心にまとめてあるので言ってることが分かりやすかった。

 世界を文明を基準に分けた場合、近代的だから優れているとか、軍事力を持っている、などということよりも、どれだけその文明に属する国々、人々が多いか、ということが文明の強さを表す尺度になる。

 なにかあったとき、どれだけ味方になってくれる国があるか、ということが大事なようだ。この視点から判断すると、日本文明に属する唯一の国、日本は世界の中で孤立している立場の弱い国、ということになる。よって、日本は一部の期間を除き、常にどこかの大国と手を結ぶことにより繁栄してきた、という結論に達する。今は超大国アメリカと手を結び、中国が超大国となれば中国と手を結ぶ、という情けない国、日本という実像が出来上がる。このページの一番上にあるデビッド・S・ランデスの「強国論」とは正反対の考えである。

  • 15歳から24歳までの若年層が人口の20パーセント以上を占めると社会は不安定になり、暴力や紛争がエスカレートする傾向がある。(30頁)
  • アメリカが外国の指導者を非難すればするほど、非難された人物のその国での評価がしばしばうなぎ登りになる。(67頁)
  • 人は自分が誰と異なっているかを知って初めて、またしばしば自分が誰と敵対しているかを知って初めて、自分が何者であるかを知る。(94頁)
  • 日本の同盟国にたいする感覚は「最強国との強調」だった。(158頁)

 

4

世界の教科書は日本をどう教えているか

別枝篤彦

朝日文庫

 世界の国々は日本を誤解しているに違いない、と思っていたのだが、以外にも正確に記述している教科書が多かった。特に、発展途上国の日本に対する記述は、尊敬の念がこもっていて、読んでいてうれしくなる。一方、北欧あたりでは、未だ江戸時代の日本が紹介されている。

 江戸時代、唯一ヨーロッパの国で日本と交易を持ったオランダだが、日本に対しては好意的ではない。第二次大戦でインドネシアを日本に奪われたことがひびいているようだ。

 教科書制度の違いを知るにも良い本だった。教科書検定ばかりか、教科書というものが存在しない国もある。イギリスでは、先生が自分の判断で教科書となりうる教材を選定する。

5

ユダヤ人の歴史

ポール・ジョンソン

阿川尚之、池田潤、山田恵子訳

石田友雄監修

徳間書店 上下
初版
上1999年9月30日
下1999年9月30日

 1987年に出版された「A HISTORY OF THE JEWS」の日本語訳。古代から現代までのユダヤ人の通史。

 昨年秋に本書は出版されてすぐに、これは読まなければと思い購入したのだが、第1部の古代イスラエルの登場でつまづいた。ユダヤ教、キリスト教についてさほどの予備知識がなかったので、内容を理解するのに苦労した。

 この本を読んで一番良かったと思ったのは、ユダヤ人は好戦的な民族ではない、ということが分かったことだ。第2次大戦後の歴史から判断すると、ユダヤ人は非常に戦闘的な民族と映るのだが、四千年の歴史は、ダビデ等の時代を除き、常に争いごとを避けてきた民族だったことを物語っている。

第1部 古代イスラエルの登場

 創世記の時代から、紀元前600年頃のエルサレムの陥落まで。まるでなじみのない名前、地名、民族が頻繁に登場してくる。

  • ギリシア人や後のローマ人と異なり、法人格があり権利や特権を有する都市や国家、共同体といった抽象的概念を、ユダヤ人は認めなかった。(上巻100頁)
  • エルサレム最後の日々、エレミヤは非常な頑固さを見せ、勇気ある行動をとった。(上巻136頁)

第2部 ユダヤ教の成立

 ユダヤ教とキリスト教の関係について説明してある。僕は今までユダヤ人とキリスト教徒の仲が悪い理由がいまいち分からなかった。キリストもユダヤ人なのに、キリストは神でユダヤ人は嫌いという思想に至ったのは何故だろうか疑問だった。どうやら本書を読む限り、とにかくユダヤ人が嫌い、という観念が先にあったようだ。キリストを殺したからユダヤ人を憎む、という思想は後から加えられたようだ。

  • イエスの教義に非常な脅威を感じ、聖書の規定にしたがってイエスを死刑にするのを望んだのが、神殿の祭司たち、シャンマイ派のファイリサイ人たち、そしてサドカイ派の面々であったのは疑いがない。(途中略)イエスはローマ人の総督ピラトのもとへ国家犯罪人として送られる。(途中略)ピラトは証拠不十分のままイエスを処刑するのをためらったが、政治的理由からあえてこれを行う。したがってイエスはユダヤ法により石投げの刑で殺されたのではなく、ローマ人により十字架へはりつけにされて処刑された。(上巻216頁)
  • モーセの律法への厳格な服従を基調とするユダヤ教統合、ユダヤ教のギリシャ・ローマ世界との衝突による紀元66年から70年からの大反乱、これらがユダヤ教のキリスト派をユダヤ教本流から切り離す最終的契機となった。(上巻221頁)
  • キリスト教は、苦行や断食を通じて肉体を虐げることにより、人は魂を強めることができると考えたが、これはユダヤ人にはまったく受け入れがたい思想であった。(上巻260頁)
  • ギリシアの指導的なキリスト教神学者ヨハネ・クリソストム(354−407年)がアンティオキアで行った「ユダヤ人に反対する説教」により、ユダヤ人はキリストを殺害した者たちだという新しい観念を付け加えた。こうしてユダヤ人の共同体は、キリスト教徒の都市すべてで危険にさらされる結果となった。(上巻278頁)
  • キリスト教と同様、イスラム教はもともとユダヤ教内部の異説から発している。教義があまりにも異なる方向へ発展したため、別の宗教になったのである。(上巻280頁)

第3部 中世の暗闇

 今から考えれば信じられないが、この時代、ユダヤ人はアラブ人と比較的良好な関係にあったようだ。むしろ、十字軍によるユダヤ人虐殺など、キリスト教徒から激しく攻撃されていた。

  • アラブ人イスラム教徒はユダヤ人に対してすぐには宗教的敵意を示さなかった。イスラム教徒から見れば、ユダヤ人はムハンマドの主張を拒否したことによって罪は犯したが、ムハンマドを十字架にかけたわけではなかったからだ。(上巻296頁)
  • ユダヤの格言「人は持ち物すべて売って本を買うべきだ。『本を増やすものは知識を増やす』と賢者たちが言っているからだ」(上巻319頁)
  • (キリスト教擁護論者の考えるユダヤ人の罪)イエスと同時代のユダヤ人は、イエスの行った奇跡を目撃し、預言が実現したのを目にしたのに、イエスが貧しく身分が卑しかったがゆえに彼を承認することを拒絶した。そのとき以来、あらゆる世代のユダヤ人は聖書に書かれたのと同様な強情さを示しつづけてきた。彼らは絶えず真実を隠し、それを不正に操り、証拠を隠蔽しきたのだ。

第4部 彷徨えるユダヤ人

 1648年〜1649年、ポーランドとウクライナのユダヤ人が虐殺されるという事件が起こった。農民の蜂起をきっかけしたものだが、記録によっては10万人のユダヤ人が死んだことになっている。これをひとつのきっかけにして、ユダヤ人の中にメシア待望論が高まってきた。

  • 1492年にスペインから、1497年にポルトガルからユダヤ人が追放され、スファラド系の大離散が始まった。(上巻389頁)
  • 利口で信心深いユダヤ人と利己的で好き放題するハプスブルク家の人間が手を結べば、必然的に、互いに利用し合って私腹を肥やす関係となった。(上巻421頁)
  • 30年戦争(1618年〜)の間、ユダヤ人は住民全体にくらべて厚待遇を受けるという、史上まれに見る事態になった。(上巻424頁)
  • 一般化して言うなら、ユダヤ人は18世紀の経済制度に合理化の気運をもたらした。(上巻472頁)

第5部 近代化の嵐

 ロスチャイルド家こそユダヤ人の象徴だと思っていたが、実は、彼らはユダヤ人社会で非常に特異な存在であったようだ。

  • (ロスチャイルド家について)彼らほど資産を築き、それを思うままに活用し、それでいて人々の間で評判を保ち続けたユダヤ人はかつていなかった。(下巻14頁)
  • ドイツ文学のまさに中心に位置する亡霊のようなハイネの存在は、やがてナチを理不尽な怒りと子どもじみた破壊行為へと駆り立てる。彼らはハイネの本をすべて発禁にした。しかし、名詩選集の中からハイネの詩を消し去ることはできなかったので、小学生でも嘘だとわかる「読み人知らず」という注をつけて選集を再版せざるを得なかった。(下巻65頁)
  • (ユングとの論争の中、フロイトが引用したハイネの言葉)「人は自分の敵を許さなくてはならない。しかし、それは彼らが処刑されてからでいい」(下巻186頁)

第6部 ホロコースト 民族絶滅の危機

 ホロコーストへ至る道、そして第二次大戦中のホロコーストが詳細に述べられている。ドイツ、オーストリア、ポーランド、フランス各地での虐殺は行われていた。フランス人のなかにも、「最終解決」に協力しようとした人がいたとは知らなかった。イタリアは逆にヒトラーのユダヤ人絶滅には協力しなかったようだ。イギリスとアメリカは、ドイツのユダヤ人を積極的に受け入れることを拒んだ。

 日本と比較される戦後のドイツのユダヤ人に対する補償についてだが、ユダヤ人に対する政府からの賠償金の支払いは満足がいくものだった。しかし、個人の道義的責任については回避した。オーストリアもユダヤ人虐殺については加害者なのだが、ヒトラーの野望の被害者という態度をとった。

  • 強いアンティ・セミティズム的傾向をもっていたスターリンがいったん権力を掌握すると、ユダヤ人に対する圧力はますます強くなり、1920年代終わりまでにあらゆる形態のユダヤ人独特の活動は停止させられるか骨抜きにされた。(下巻243頁)
  • 世論調査によると、米国のアンティ・セミティズムは1930年代と通して確実に強くなり、1944年に頂点に達した。(下巻269頁)
  • ドイツは世界でいちばん教育水準の高い国であった。(途中略)この高度な文明国が、なぜユダヤ人に対しあのような暴挙に出たのだろうか。国を挙げ組織的になされた空前絶後の残虐行為は、まったく理解に苦しむ。(下巻270頁)
  • 彼ら(ユダヤ人)は長くつらい体験から、出版物による暴力がしばしば流血をともなう暴力の前触れであるのを知っている。(下巻279頁)
  • ヒトラーは彼自身の信念からだけでなく、合理的な政治上の計算からも、ユダヤ人を選んだ。(下巻292頁)
  • ドイツ政府は、片方の親がユダヤ教信者である者、あるいはユダヤ人と結婚した者をユダヤ人とみなした。(下巻297頁)
  • ヒトラーは何回も、戦争は「ユダヤ人問題」の「最終解決」を早めるものだと、述べていた。(下巻300頁)
  • 600万近くのユダヤ人が殺された。その土地の宗教、キリスト教、非宗教的思想、迷信、知的思考、風俗習慣、学術、その他あらゆる要素を含んだ2000年にわたる反ユダヤの憎しみが、ヒトラーの手によって圧倒的な勢いをもつ怪物に転化された。(下巻339頁)

第7部 新生イスラエル

 ユダヤ人がホロコーストに対して組織的に反抗しなかったのは、自分たちが選ばれた民だという自覚があったからのようだ。選民ゆえに、懲罰を神の意志によるものだと解釈し、逆らうことをしなかった。このように述べてあるが、とても信じられない。ユダヤ人全てにとって、宗教とは命よりも大事なのだろう。

 この本をここまで読んでくると、第二次大戦によりユダヤ人の意識が変わったことがはっきり伺える。西へ東へ移動する民から、約束の地へ定住する民へ変わった。今までは、戦火を逃れていたが、自ら戦いを挑むようになった。しかし、決してユダヤ人が好戦的な民族ではないことは、本書を読めば分かる。

  • アイヒマン事件は、イスラエルの素早さ、公正明大さ、それに決意の堅さを示した。(下巻417頁)
  • 永遠に「よそ者であり、寄留者」であるユダヤ人が最終的に見つけた安住の地こそ、すべての人々がよそ者としてやってきた国、米国であった。(下巻433頁)
  • ホロコーストが二度と起きないようにする保証はこの国(イスラエル)しかない。(下巻455頁)

エピローグ

  • ユダヤ人は、家がなくはかない存在である人間すべての象徴である。(下巻461頁)

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