公募入選をめざす方へ ささやかな参考として


まだ公募も出しています

 お友達作家に刺激されて、無謀にも「江戸川乱歩賞」にも出してしまいました。
 まあ、玉砕でしたが、3次予選まで残れて、とりあえずマンゾクであります。

いまだにこんな雑誌があると


 買ってしまうのです。2005.4




目次

 1 三流小説家をめざす
 2 新人賞選評
 3 某ミステリ作家からのアドバイス
 4 私が参考にした小説作法関連本
 5 私の創作方法
 6 オノマトぺって何?
 7 タイトル
 8 作品チェック 初心者用
 9 作品ストック
 10 過去の応募歴と戦績
 11 新人賞を取っても
 12 書き出しサンプル 最初の1枚
   ブラックテイル
   偽造カルテ
   天地人
   花の園
   素顔のままで




三年以上買い続けた公募ガイド

1 三流小説家をめざす

公募の予選をコンスタントに通過できる人は相当な実力のある方で、自信をもっていいと思います。あとはいかに、斬新なテーマに出会えるかということ。それから「運」ではないでしょうか。
 全てではありませんが、多くの人は「作品」で選ぶのではなく、ビッグネーム、売れている作家ならば「はずれ」は少ないだろと本を選ぶことが現実としてあるのではないでしょうか?食べ物や異性の好みと一緒で、好みもあるはずで、ある人が良くでも、ある人には全く評価されないということもあるでしょう。だから、いいんだと私は思います・
 編集者も「読む」ことにおいて、商業出版して売れるかどうか、元がとれるかどうか、念頭にあることも否めないのではないでしょう。
 どんどん書けたら賞に応募しましょう。

新人賞選評

新人賞選評 
 

かつて、各種小説新人賞の選評を読むのが、以下、私の作品の選評です。皆さんの創作活動の参考としてください。

『   』内    1996年  月刊小説CLUB6月号から引用
   富島健夫氏 選評
『当選作の「ブラックテイル」は、その野心的な題材がまず読む者の注意を惹く。
 また意欲に満ちた書き出しから筆を進める手法も、なかなかのものだ。市長横関やブラックテイル役の堂島の人間性にいまひとつ明確な個性も情感もないこと、
 最後の辻褄合わせ的な結末の安易さなど多くの欠点はあるものの、今回の入選に推しておかしくないという結論を得た』

 小林久三氏
『「ブラックテイル」が入選作に決定したけれど、素材の面白さで読ませるもので、小説としての熟成度は必ずしも高いとはいえない。にもかかわらず高い評価を得たのは、題材と設定がユニークで、テーマがきわめて現代的であることにあったといえる。しかも舞台が、作者が熟知している都市の市役所。地上屋を、黒いしっぽーブラックテイルとした発想も劇画的だが面白く、地方行政の影の部分での暗躍ぶるには、奇妙なリアリティがあってなぜか読ませる。手を入れることを条件に入選作としたが、作者の今後の精進に期待したい』
 
 志茂田景樹氏
『ブラックテイル」は、おおげさなタイトルだったので、強烈な驚きをあたえてくれるサスペンスを期待したが、よくある地上屋の世界を描いている。ぼくは、それだったら、市長を主人公に市長の視点で徹底して、その野心とたくらみを書くべきだったと思う。こういう小説では、魅力ある悪役的主人公のほうが生きてくる。堂島にしても個性が弱すぎる。だが、それなりにまとまっているので入選作とするに反対しなかった。』

 

2−1

同じ時期に公募に出していた「子母澤類」さんは、受賞こそ逃しましたが、編集部から声がかかり、小説クラブ誌でデビューしました。その後は大活躍されています。

2−2

最終候補の常連? 伊井圭さんは、クラブ新人賞は逸したものの第3回創元短編推理賞を受賞。実力のある人はどこかで認められます。
 
 

某ミステリ作家からのアドバイス

 ○○先生も富島健夫先生のお友達だったということから、私のような者にも手紙の返事をくれました。名はあえて伏せておきます。出すと、この手紙の著作権はとか、なんとか、なってしまったら、困りますから。 どこの書店にいってほとんどこの方の本はあります。
 また、最近脚光を浴びている、リサイクルのBookを
 でも、これだけ書いてくれると、原稿料はいくらなどと計算してしまいます。ちなみに、私は当時4百字3000円でした。ちょっとの間だけ。


『お手紙をいただきながら、すぐにお返事が書けず申し訳ありません。
 冴島さんのお手紙読んでいますと新人のころを思い出します。
 現在このようなことを書いてお送りしていますが、じつは私は出版界からなんの声もかからない年月がありました。
 ただいえることは、私が受けた賞は当時のわりには目立ちました。受賞(作品が発表)されると雑誌社から、書くようにと注文がありました。ところが、書いて持っていった短編はことごとくボツになりました。なかには手直しすれば面白いものになるといわれたのがあって、編集者の指示を得て直し、それが文芸誌に載りました。
 私が業界でなんとかなったのは、本を何冊か出してからでした。たまに文芸誌に短編が掲載される程度では通用しない世界ということがわかりました。
 冴島さんは「小説クラブ」に何篇か発表されていますが、他誌が注目するには、大手出版社などが発行している雑誌の新人賞です。

この業界では常に新人を欲しがっています。しかしコネでは作家にはなれません。どの作家も新人作品を出版社に紹介するのを嫌います。その作品が本になればいいのですが、そうでないと自分が恥をかくからです。
 最大効率よく文壇でデビューするには、やはり注目を浴びる賞を受けることでしょう。受賞しても、他社から注目されるというものでもありません。二冊、三冊と重ねていくうえで、この人はほんものだと思われれば出版社は敏感ですから注文してきます。
 エンターテインメントはとにかく面白いものを書くことでしょう。文芸雑誌に載っているプロの作品を参考にしないことです。プロの作品というのは(雑誌掲載の)「名が通っているから読者が安心して買ってくれる」からなのです。
 有名出版社は賞をつくって、新人発掘に余念がないのですから、面白い長編で一発当てることです。
 上京の機会がありましたら、拙宅へお立ち寄りください。作家と話をすることは刺激になると思います。折角の才能がおありなのですから、希望を持ってがんばってください。ご健筆を念じております。』

4 参考にした小説作法関連本

私が公募小説に入選するまでに、参考として読んだ本を紹介します。

 これらを読んだからって、入選するわけではありません。痩せる本、はげが治る本、煙草がやめられる本、これだけで英語が話せる などなど。   読んでから自分で努力しないと。

○ 深くておいしい小説の書き方 
   三田誠広 (朝日ソノラマ
 (小説を書く人は変態だそうで、その点自分は作者として素質があったかもしれません。でも、その変態さが不十分なので、だめかもしれません。年頃の娘がいますが、何も感じません。娘の友達が来ると「かわいいな」と思います。これは普通の
情感ですよね。
 前半部分は難しい文学論ですが、徐々に面白く、引き込まれていきました。早稲田大学文学部の小説演習の講義をまとめた本だそうです)

○ベストセラーの書き方
ディーン・R・クーンツ著 大出 健 訳 (朝日文庫)

○ 新人賞の獲り方おしえます  久美沙織(徳間書店)
 
(これはジュニア小説志望者向きの参考書というところでしょうか) 

○ 本気で新人賞        (修文社)

○ 小説の書き方       井上光春(新潮選書)

○ 小説家になる        中条省平(メタローグ)

○ 創作の現場から       渡辺淳一(集英社)

○ 推理小説作法       土屋隆夫(創元ライブラリ)
 (これは結構楽しく読めました)

○ 小説作法          丹羽文雄(角川文庫)
 (私には難しすぎました)
 
○ 文章を書くこころ      外山滋比古(PHP文庫)

5 私の創作方法

取材

 最近はインターネットで、かなりの部分まで調べられるので、昔のように図書館や書店で時間をつぶすということがなくなりました。誰でも同じ情報が簡単に手に入ります。いいような悪いような。これから作家をめざす人にはかえって厳しい状況になるのではないでしょうか。なんといっても、どんな小さな賞でも、そこで一番にならないといけないのですから。
 2作目の雑誌掲載原稿を書くときは、病院を舞台にしたのですが、そのときは半日、病院にいきました。入院したこともあるので馴染みはあるのですが、実際に書こうとしたとき、もう一度ディテールを見ておきたいと思ったからです。
 廊下の待合で一時間くらいいたでしょうか。それから喫煙室、産婦人科の入院病棟をさまよい、少し自分が変質者のように感じました。医師や看護士がいないのを見はからって、分娩室に侵入、写真まで撮ってきてしまいました。このときは犯罪者の気分です。
 さらに働く看護婦さんを眺め、白衣ではなくピンクがかったもので、下着のラインがわりとはっきり見える。制服フェチではないのですが、いいもんだななどと思いながら、官能小説に変更しようかって、ちらっと心かわりし、別の方向へいってしましそうなのを軌道修正しながら帰ってきました。
 従兄弟に医師がいるので、飲みに誘って、疑問点を聞く。誘っておきながら、向こうのほうが金持ちなのでおごってもらうのですが。それで小説の取材なんてことはいいません。いえません。作家として飯を食っているわけではないので、きざったらしくそんなことは言えないものです。酔ったところで、大学病院勤務だったころの秘話を聞く。
 製薬会社に勤務している同級生にメールを打ってみたり、少しづつ情報を集めて、短編小説を自分なりに、より深いものにしようとする努力はしました。
 でも一番の取材は自分の職業、従事している仕事のことが、なにより最高の取材、毎日が取材ということになるのかもしれません。いろいろな賞の受賞者は、職業を活かした小説で成功作を書いていますね。乱歩賞の受賞も弁護士さんとかお医者さん、銀行員、それぞれ自分の一番詳しい分野での小説です。そういう部分ではかなうわけないですよね。

 キャラクター造型 
 水戸黄門、助さん、格さん、うっかり八平衛、風車の弥七、どれも魅力あるキャラクターです。作家志望者の添削を頼まれた公募塾では「キャラクターシート」なるものを生徒さんに配っていました。初心者用に、はじめにキャラクターをしっかり設定する。身長や体重、血液型や趣味、その他もろもろを設定しておくのです。作品のはじめと終わりにキャラクターの「ぶれ」がないようにするためです。私はそこまではやりません。知人ですとか、芸能人の誰それとかの外枠、外見を、イメージとして借ります。そして小説のなかで、血、肉を与え、動かしていくという方法をとっています。名前のつけ方などは、電話帖をぼんやりと眺めながら決めることが多いです。

背景・モデル地
 特別な場合を除き、自分が実際に行ったことのある土地や場所を使います。そのとき撮った写真が大事な資料になります。力量がないので、そのほうが描写にリアリティが出ると信じています。

6 オノマトぺって何?

オノマトぺ

 小説を書き、小説作法の本などを読んでいると、たまに見かける「オノマトぺ」
もちろん、私も最初、いったいなんなのかわかりませんでした。
 広辞苑によりますと→オノマトペア【onomatopoeia】
〔言〕ぎおん‐ご【擬音語】
(onomatopoeia) 実際の音をまねて言葉とした語。「さらさら」「ざあざあ」「わんわん」など。擬声語。オノマトペア。
ぎせい‐ご【擬声語】擬音語に同じ。
 人・動物の声をまねた語。「きゃあきゃあ」「わんわん」の類。写声
 関連 擬態緒【擬態語】
ということであります。

 小説を書くうえで、自分なり効果を狙い、意識的に使うのは別として、オノマトぺは極力、使わないようにしたほうが良いようです。「雨がしとしと降っていた」「小川がさらさらと流れている」などの表現を安易に使わず、しとしと、さらさらを、作者なりにどう描くか、言葉に対しての繊細さが、予選を通る作品を書けるかのひとつのポイントにもなるのではないでしょうか。
広辞苑→
しとしと → 雨が静かに小止みなく降るさま
さらさら → 浅い川の水が小石などに当りながら淀みなく流れる音。お茶漬をかきこむ音。また、そのさま。
日本語はこのオノマトぺがひじょうに多い言語なのだそうです。
* 試しに英語ではどうかと、辞書を引いてみますと
* 研究社英和中辞典」→
*「さらさら」音の形容 
 (木の葉が)さらさら鳴る rustle
 (小川が)さらさら流れるmurmur「微かな音、囁き」 
 babble;
1a  小児などが (わけもわからぬ)片言を言う.
b ぺちゃくちゃしゃべる.
2  動(+副)  流れが さらさらと音を立てる  away,on .  
*「しとしと」
gently;穏やかに softly 柔らかく
 しとしとと降る雨 drizzling rain; (a) driz「霧雨、こぬか雨」
このように書かれています。

 何気なく使用しているオノマトぺを、もう一度辞書で確認したり、日本語以外の言語を勉強した方は、その言語ではなんというのか一度調べて見ることも、表現の奥行きを広げる意味では良い方法ではないでしょうか。

7 タイトル

 
 タイトルは作品の顔ですから、かなり気を使います。はじめにタイトルを決めてから書く場合と、あとで悩んだ末に作品中のキーワードからタイトルを決めるのと半々くらいでしょうか。
 しかし、始めからこのタイトルでいこうと思ったときのほうが、公募の成績は良かったのは事実です。
 「ブラックテイル」は                                     黒は闇、影、暗黒をイメージし、テイルはとかげのシッポを考えました。
  そしてブラックテイルに決めました。

12 書き出しサンプル

 
 最初の数行は悩みます。公募においても最初の2、3枚がうまく書けない人は、下読み選者に読み飛ばされてしまうそうです。最初は下手だけれども、途中から急に良くなるということはないからでしょう。
 以下、過去作品の書き出しサンプル、最初の1枚を参考に載せてあります。
左の画像は当時の目次です。赤川次郎さんと同じ字の大きさで。もう思い出になってしまいました。

8 作品チェック


 私も以下の観点に従い、いちおう作品はチェックします。試してみたらいかがでしょうか。

1 誤字脱字 

 ワープロでやっていると意外に多く、自分でやっているとなかなかみつけづらいものです。私はこれが苦手です。書き上げるとあまり読み返さないほうで欠点のひとつです。編集者が欲しいです。

2 文章のリズム
  文章の流れがスムーズであるか、声を出して読むことがあります。資料で調べたことなどを挿入すると、前後のパラグラフと馴染めず、そこだけ浮いてしまったりすることが、よくありました。

3 文体
 作品にふさわしい文体であるかどうか。会話文の必要性。よけいなおしゃべりを枚数かせぎにいれてはいないか。

4 描写

 心理・性格・風景描写が十分であるか、不必要であるか。と、口でいうのは簡単ですが、画家にもランクがあって、うまへたがあるように、人の描き方も作家さんとしろうとさんでは違いますよね。
  登場人物は、まだしも脇役などは記号的だと指摘されたことがよくありました。

5 現実味(リアリティ)

  嘘話(フィクション)に現実性が感じられるだろうか。

6 小説内の小道具

  作品に深みを持たせる小道具がうまく使われているかどうか。

7 場面転換

  転換に無理があるかどうか。

8 プロットの接続

  自然にを心がけましょう。私は強引だとよく言われました。

9 構成

 たくさん書けないうちは構成を変えて、書き直してみる。少し違った作品になります。

10 オリジナル性

 おなじ作品はあるだろうか?どこかで読んだことのある作品になってしまったな。
こんなことを考えるのですが、純文学の作品など読んでいると、良質の睡眠導入剤になってしまいます。ってことは、オリジナル性は低い?  つまんないし、わかんない。やっぱり、私はエンタメをめざすべきだなと思います。

9 作品ストック

 
 作品ストックは出来るだけ多く持っていてください。
私は幸運にも、本格的な公募に応募しはじめて3年で賞を取ることができました。苦節何年というものではないので、長編2本と短編5本くらいのストックしかありませんでした。
書いて書いて書きまくっていたのではなく、趣味程度に書いていて、新人賞でもとれればいいなと軽いな気持ちであったことは確かです。
 それにそのころ、パソコンもなく、ワープロで打ったもので、気にいらなければ捨てていました。受賞時、形となっている作品は極端に少なかったのです。ですから、受賞した後、こんなものも書いてあると見せられる原稿がありませんでした。
後悔先に立たずです。
 ひと月に一度、50枚の短編を1年間発表できるチャンスを与えられたのに、書けたのはその半分の6本でした。新人が連載ものとして、長編を月ごとに発表してくれる雑誌社などないと思います。ですから短編50枚から70枚程度の作品ストックを出来るだけたくさん持っていたほうが、受賞後にはアピールできます。持っていればリライトも可能ですしね。私の場合、少ないストック作品を送ったら、「掲載レベルに達していません」という、辛らつな、でもほんとのことですの仕方ない、そんな返事が返ってきました。
 どんどん書いて、ストックしておきましょう。

10 過去の応募歴と戦績

小説クラブ新人賞 

三年目でGET
 賞金30万円と幾分安いのですが、受賞後1年間掲載枠を提供してくれて、原稿料もいただけたので、普通車が購入できるくらいの額になりました。ほとんどパチンコですってしまいましたが。

 ○現在、月刊小説CLUB誌は休刊中で、官能ロマン誌だけ不定期に出しているそうです。よって小説クラブ新人賞募集も22回?でお休み中だと思います。


 
小説現代新人賞   2次予選通過 


オール読物新人賞  1次選考とおらず

上記の2賞は,作家志望者にはあいかわらずの人気です。しかし、新人賞を取ってもなかなか2作目を載せてもらうには、かなり良いものを書かなければならないようです


小説すばる新人賞   予選通過

これも、受賞作の出版が約束されているので、人気の賞ですし、作家へのあしがかりには良い賞ですが、千何百分の一ですから、かなりハードルは高いです。

  
問題小説30周年懸賞小説(単発もの) 
               予選通過

N文学賞(地方文学) 
      
 一度、最終選考まで残ったのに残念。地方文学とはいえ、そこで上位になるのはやはり難しいことです。純文学はだめ

最近 ◎第1回ステーション文庫新人賞 入選
     (賞品ががっかり。よく見て出せば良かった)

11 新人賞を取っても??

 
 新人賞を取っても作家にはなれません。私がとりあえず「作家」だと思うのは、それでごはんが食べられる人だと個人的には考えています。純文学をやっておられる高尚な作家さんは別としてです。
 いろいろな新人賞を眺めていますが、即、受賞作を単行本にしてくれる賞は魅力ですね。小説現代や、オール読物新人賞は短編の賞なので、受賞後第1作が、前作を上回るものでなければ雑誌に掲載してくれないと聞いたことがあります。それだけでも、ハードルが高いのに、単行本を出版してもらうには、よほどの実力を認めてもらわなければなりません。ですから、両賞とも歴史は古く、多くの受賞者を輩出しているものの、本を出してもらって生き残っている人はかなり少ないようです。
 新人賞受賞はスタートです。それだけで、大変なことなのですが、そこからがもっと困難な道です。芸能界で名を知られる俳優や女優になるよりも厳しいような気がします。
 江戸川乱歩賞受賞などは、いきなりゴールデンタイムの主役に抜擢されるようなものでしょう。そして次の番組も主役で出ることが約束されている。私の賞はそれからいけば、深夜の誰も見ていない番組に端役で出演し、人知れず消えてしまったようなものです。田舎に帰ろうか、どうしようか迷ってるようなものです。
 それでも、出版界でも賞を取らなくても、立派にごはんを食べている作家さんもいます。公募に出していた頃、同じ予選を通って名前だけは知っている人(女性)が、あれよあれよという間に、小説が発表され、(きれいな人でした)本を出して、テレビに出たり、男性作家と結婚したりして。
 まあ、いくつか方法はあるようです。それでも実力がなければだめな世界だとは思います。
 

B L A C K T A I L (ブラックテイル)

 中高層ビルが隣立する商業地区内にその存在を誇示する筒型の建築物。空撮するとドーナツのように見える。ウィーンのオペラ座を真似、中央の五百坪の自然庭園が全ての客室から眺めることができた。
 滝を作り、その中央には大きな岩を鎮座させ、そこにあたってはねかえる水しぶきは夏は涼を演出し冬はガラス細工のような小さなツララを造る。水は庭園の中を深山の渓流のようにぬっていく。
 A 市郊外には全国的に有名な三つの温泉地があったが老舗の高級旅館「水苑」は市の中心部にあり、温泉は出なかった。生き残りをかけての大改築は横関の賭けで、妻の裕美子が十二年前、ちょうど四十歳になり、先代から全てを引き継いだのを境に大幅な経営転換を試みた。

*偽造カルテ

1996.小説クラブ8月号 初出誌
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
・                  ・
・ 偽・ 造・ カ・ ル・ テ・   ・
・                  ・
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・


 都内から特急で約一時間の街。トラックの
荷台の半分にも満たない荷物。引っ越しは簡
単に済んだ。            
 辰波二郎は一番汚れていない、皺の少ない
グレーのスーツに着替え、マンションを出た
エレベーターの中で内ポケットに手をあて、
角前教授の紹介状を持ったかどうかを確かめ
た。その内容如何で病院での待遇が左右され
るといっても過言ではない。開けてみたい気
持ちを抑えた。
 生まれ故郷から数十キロ離れた街で、過去
何度か来たことはあるが土地勘はない。タク
シーを拾えばすぐのはずだが、辰波は歩くこ
とにした。梅雨明け宣言はまだだが、じっと
していても汗ばむ陽気。強い陽差しはすでに
夏のように眩しく照りつけている。空気は澄
んでうまい。犯罪者が娑婆に出る感覚はこん
なものなのか。遠くに目をやると山の緑が濃
く色づいて目を和ませてくれる。この盆地の
気候は夏暑く、冬はかなり冷え込む。辰波は
上着を脱いで肩にかけた。

天地人

1996年小説クラブ誌 8月号初出誌

・・・・・・・・・・・・・・

・ 天・ ・地・ ・人・ ・
 ・・・・・・・・・・・・・・


 夜の街、天神町。延長約四百メートルの天神通り。その両端に飲食店、スナック、クラブ、各種の風俗産業がひしめきあう地方都市歓楽スポット。一方通行の幅員六メートルの道路は追い越しが困難だった。ゴミ収集車の後について、織田信一は二日酔いのねぼけ眼をこすった。道路脇の生ごみに群れていた蠅が静寂を邪魔され、一瞬のうちに水蒸気のようにどこかへ消え去った。
 初夏の朝陽がまぶしく照りつける。鍵当番の早出の日だけは自家用車で通勤する。来客用の駐車場を使うことを許されるからだ。
 CDの音楽が終わってカーラジオのスイッチをひねる。ちょうど勤務する銀行のCMが耳に飛び込んできた。織田が聞いたのはそれが初めてだった。

素顔のままで

1997年小説クラブ3月号 初出誌

 ・・・・・・・・・・・・・・・・
  ・              ・
  ・ 素 顔 の ま ま で  ・
  ・              ・
  ・・・・・・・・・・・・・・・・
                                        

         ・プロローグ・


  夜半から降り始めた雪は明け方みぞれまじ
りの雨にかわっていた。本宮が出勤する頃に
は雲がいっせいに失せて春の淡い青空が広り、
大気は澄みきっていた。
  白馬薬品工業本社ビル五階会議室から望め
る北アルプスの連山は夜の雪で化粧直しされ、
山頂部分の白、淡い藍色の山肌、そして空の
薄い水色とが鮮やかに調和している。
  会議室には煙草の煙が澱み安物のリキッド
の臭いが充満していた。新装されたビルの中、
役員会議室だけにはレトロ趣味の会長の指示
で創業当時の旧式のダルマストーブが設置さ
れている。窓を通して差し込む朝陽が急激に
室温を上昇させ、ワイシャツが肌にまとわり
つくほど湿度は高くなっていた。  
  月に一度の早朝定例役員会、八時の時報が
鳴って、煙草を吸っていた者はもみ消し、ほ
ぼ全員が席につくところだった。
 九十歳に近い会社創立者の会長は、眼光の
鋭さだけは依然として衰えてはいないが、身
体は枯れ木の流木のように痩せ細り、自力で
歩行することはできない。早逝した前社長の
後を引き継いで、新社長に就任した孫に車椅
子を押されながら入室してきた。


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