
※本稿はある雑誌の映画紹介用に書いたものだが、依頼された趣旨から大きく逸脱してしまい、やむなく自己ボツにしたものである。その後、別のウェブサイトに転用しようとしたものの、こちらも然り。いや、確かにこの内容じゃあ…。
コミックの実写映画化ほどリスクの大きい作業はない。熱狂的な原作マニアのサジェスチョンが遠慮なく介入してくるし、現実社会を基底としたリアリティを前提に置けば置くほど、ヒーローの特異性は作品の梏桎となり、ともすれば何物にも徹しきれない「いびつなフィルム」が残る結果となる。
アメリカン・コミック界に君臨する壮大なサーガ『X−メン』も、「ミュータントと人間の共存」という深遠なテーマを孕みながら、登場するキャラクターたちの異様なポテンシャルに足がすくみ、映画化が先延ばしにされてきた。だが『マトリックス』のように「設定の足場よりビジュアルのケレン味を固める」タイプの作品が台頭し、『ユージュアル・サスペクツ』でロジカルな技巧派ぶりを披露したブライアン・シンガーが本作の監督に抜擢されたことで、『X−メン』はそのフォルムを大胆に“映画”へと置換することができたのである。しかし、本作を純然たるヒロイック・ムービーとして評価するには、土を舐めるそのざらついた違和感が邪魔をする。映画『X−メン』は「差別」に対するアンチテーゼとアイロニーを秘めた反面、テーマの骨子が大きな歪みを帯びているのだ。
映画版『X−メン』は、ストーリー上の展開として、2つの既存作品におけるセットアップ・シチュエーションを引用している。アルフレッド・ヒッチコックの『逃走迷路』(1942)と、トッド・ブラウニングの『フリークス』(1932)だ。
前者はクライマックス、自由の女神像の上で追撃のチェイスが行なわれる「アクションの再現」においてそれが用いられ、後者はストーリー上の展開を踏襲することで、テーマの言及性をより深く掘り出している。
前者の、自由の女神像をバックステージとしたアクションは、全人類ミュータント化計画の最終舞台をマンハッタンにした必然性から派生するものだが、そこには多義的なメタファーが含まれている。自由の国アメリカの“シンボル”であり、自由の国アメリカを目指す移民や、外来者を受け入れる「窓口」として、コノテーション(共示)機能を持つ自由の女神像。そこを決戦場とすることは、すなわち局外者であるX−メンが、人類との共存を得るか否かの「裁定の場」としての機能をも派生させる。
『ゴッドファーザーPARTII』『タイタニック』果ては『海の上のピアニスト』など、いささか持ち回されたコードが、ヒッチコックのもたらした作劇効果との共鳴作用によって深遠な暗喩と化す。『X−メン』がそれまでのヒーロー映画と一線を画すとするなら、なによりその奥深さにあるといえるのだ。
だが問題は後者である。『フリークス』はサーカス団の美女・クレオパトラがフリークスたちの存在や外観を揶揄し、嘲笑したことによって、彼らの“掟”と称する私刑によって奇形化されるという、極めてブラックなアイロニーを持つが、『Xーメン』も、ミュータントの和平共存というリベラルな主張を否定するケリー上院議員が、自ら疎まれしミュータントとなり、悲劇的な最後を迎えるシチュエーションをもって『フリークス』と同種のアイロニーを有している。
ところがそれによって、作品が包含するテーマに大きな綻びが生じる。すなわち、ミュータントに対して悪感情を抱く者が、自ら禍々しき外形のミュータントと化す。それを“因果応報”とするなら、暗に奇形=ネガティヴ・ファクターであることを認めているに他ならないのだ。またこういう側面も思い当たるだろう。プロフェッサーXもマグニートーも根底には同じ血の流れるミュータントであり、古くより知己を得た好敵手として、ノーサイドで互いにチェスに興じる関係である。このシチュエーションは立場の違い=善と悪ではなく、「憎むべきは人間との敵対であり、ミュータント同志を相殺することではない」という彼らのアイデンティティを強く打ち出すものだ。にも関わらず、配下にいるミュータントたちの外形が大きく異なること、つまりX−メンが人間タイプであるのに対し、セイバートゥーズやトード、ミスティークといったブラザーフッドを構成するミュータントたちの禍々しき容姿が、おのずと「悪」を表象してしまっているのである。
『フリークス』には少なくとも「差別に対する糾弾」や「局外者との協和」といった主張はなく、フリークスの外形を奇異なものとして捉えた「見せ物映画」の要素が大きい。だが『X−メン』は少なくともミュータントという“SF的奇形”の設定を外殻として、その根底には「差別」や「排他」への対しての怒りを秘めたサーガだったはず。
ハリウッド製イベントムービーの“合理性”によって生じる主題のアンチノミー。最後まで映画化されなかったそのダークサイドを、そこに垣間見た気がする。
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X−メン ●ストーリー● 監督:ブライアン・シンガー 音楽:マイケル・ケイメン |
(未発表原稿 2000年 執筆)
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