『ゾンビ』は多くのバージョン違いがあるが、大別できるのは北米圏で公開されたジョージ・A・ロメロ監督編集の「U.S.公開版」と、ヨーロッパ圏で公開されたダリオ・アルジェント監督のリカットによる「アルジェント版」だ。その経緯と詳細は当サイト[アーカイブズ]に転記している「MAKING OF THE DEAD」に詳しいので割愛するが、今回紹介する『ゾンビ』はメイド・イン・イタリーなので、当然アルジェント版ということになる。
日本でもアルジェント版はビーム・エンターテイメントよりDVDリリースされているが(現在廃盤)、画質は褒められたものではない。ちなみに今現在、パッケージ・ソフトで視聴できる『ゾンビ』で最も画質がいいのは、米アンカー・ベイ社から出ている“
DAWN OF THE DEAD U.S.THEATRICAL CUT ”、すなわち「U.S.公開版」のDVDだ(*)。それでもレターボックス収録にモノラル音声のみと、スペック的にイマイチ物足りなさを感じるのは否めない。
そこにきて「スクィーズ&5.1ch収録」というからには、こりゃ新たにレストアしたのだろうと期待も大きいワケで。なによりイタリアといえばアルジェントのお膝元。『惑星ソラリス』だってRUSCICO(ロシアン・シネマ・カウンシル)からリリースされたものが国内IVC版よりも画質はキレイだし、『怪談』は米クライテリオンより東宝ビデオ版LDのほうが優れている。ようするに、それぞれオリジナルネガないしはプリントを所有しているホームグラウンドからリリースされたものが一番画質がいいに決まっているのだ。理屈としてはね。
まぁ、そんなことを考えなら気持ち高らかにディスクを挿入したオレ、だが……。
がっ、画質悪っ!!
[再撮]という言葉が瞬時に頭をよぎった。明らかにマスターは第4ジェネレーションあたりのプリントもそのままテレシネしており、その有り様はまるで深夜の淀んだ時間に流される60年代の映画のよう。あれだけ「汚い」と批難をあびていた日本版さえも、これを前にしては高画質に等しい。とにかくこのヒドさ、[画質の悪いDVD愛好会]名誉会長のオレが“歴代ワースト画質”に認定した『人喰いアメーバの恐怖2』と双璧をなすほどなのだ。だがドーン・フリークとしては、ホンネのところ落胆もはなはだしい。
“ウリ”の5.1chも単にモノラル音源を電磁的にステレオ化したもので、ステレオ音源をディスクリートしたものではない。アルジェント版はステレオ音源が存在すると聞いていたのだが、ありゃウソ助か?
いやな予感がしたので、アスペクト比も確認してみた。するとどうだろう。19×9のスクイーズは、日本版DVD3:4の上下をマットしたレターボックスにすぎなかったのだ。もともと『ゾンビ』のレターボックス収録はU.S.公開版やディレクターズ・カット版を問わず上下マットだからなんとなく予想はついていた。けど画質悪いわ情報量は少なくなってるわで、もう踏んだり蹴ったり。
しかも笑えることに、特典が謎に満ちている。なんたってあなた、先に紹介した“ U.S.THEATRICAL CUT
”の映像フッテージをそのまんま流用しているのだから。この問題点を説明しておくと、件の特典、アルジェント版にしかないシークエンスが2ケ所ほどピックアップ収録されている。つまり「本編がアルジェント版なのに、アルジェント版のフッテージを入れてどうするのよ」ってことなのだ。
いや落胆するな。今までどのテープにもどのディスクにも、クローズド・キャプションすら収録されていなかった英語字幕が入っているじゃないか! 残された唯一の希望に沸いたのもつかの間、これがまた意訳の嵐。ダイアログを一字一句正確にテキスト化しているワケではなく、難聴者に字幕で大意が伝わればいいやみたいな大雑把さ。冠婚葬祭、卒業入学、いろんな門出で引用したくなる『ゾンビ』珠玉の名台詞。なのにこれでは使いものにならないではないか……。
まぁ、失敗は成功への貴重な投資。同じ轍を踏んで後悔する同志がいないよう「自らすすんで人柱になった」と思えば、大枚を叩いた甲斐もあったというものだ。
そしてこれを観るために買い、手元に残ったPAL再生可能デッキ。それがオザキの長い長いPALソフト観賞人生のプレリュードになるとは、本人さえ知る由もないのであった(なんだそりゃ)。ホラ、その証拠にオレの手元には、既に2、3枚のPAL版ディスクが……。そこで一句、
人生の 節目節目に ゾンビあり (季語:たぶんソンビ)
(2002年7月7日掲載)
(*)既に廃盤のものも含めるなら、米エリート社からリリースされた「ディレクターズ・カットCAV版」LDが最も画質のいい『ゾンビ』だ。撮影監督のマイケル・ゴーニックがテレシネ監修しており、発色の良さもさることながら、闇部のディテールも黒ツブレしていない。「ディレクターズ・カット」DVDはこれのマスターを使用しなかったため、画質的にはイマイチ。