『レジェンド』DVDが出た。
すでにフォックスジャパンからリリースされている国内版じゃない。国内版と同じヨーロッパ公開バージョン(93分)を元の状態に戻した【114分完全版】に、北米圏公開の【アメリカ版】(90分)をフィーチャーした、堂々2枚組の“ULTIMATE
EDITION”なのだ。
世間的にゃドボン扱いの『レジェンド』だけど、オレの人生「ここまで1本の映画に期待したことが、後にも先にもあるかオイ!」の一本。今やハリウッドのマネー・メイキング・ディレクターとしてブイブイ言わせてるリドリーも、80年代初頭は『デュエリスト』『エイリアン』『ブレードランナー』の3本が惨然と輝く“おたく御用達”のビジュアル派カリスマ。そんな野郎が臆面もなく「伝説」なんてタイトルを大上段に構え、しかも初期段階のプロダクション・デザインに『指輪物語』などの挿絵で知られる画家アラン・リーを迎えりゃ、そりゃあんたイヤでも“究極のファンタジー”を期待するわな。
あの当時「スターログ」に載った、その成果をみせつける一枚のスチール。それが妄想をグングン肥大化させ、『MTV』で流れたブライアン・フェリーの主題歌クリップ
"Is Your Love Strong Enough?"で、待望のビジュアル初コンタクト。
「すげえ、リドリーの意匠が泳ぎまくっとる……」。
と、本編観る前から傑作扱い。ローカルだが、こいつがオンエアされたとき、当時の高校映研連中がお互い一斉に「み、見たかよ今の!」の電話をかけあったため、どいつの家も話し中で繋がらないという珍現象さえ起こった。当時の情報饑餓、おして知るべしだ。
そんな『レジェンド』にようやく遭遇できたのは、劇場ではなくて輸入版LD。ネット個人輸入なんて概念のない時代に、今ならワーナーの廉価版DVDが7枚は買えちゃう大枚を叩き、おウチでの遭遇となった。
「おい、これでいいのかよ?」
人生最大の期待を込めていただけに、観賞後の落胆はマリアナ海溝より深い。確かにリドリー・スタイルがフレームを占めていたが、英語が梏桎になっても超明解な“児戯的ストーリー”とのギャップはこたえた。しかも全米公開から半年以上も待たされ、気分はもう『エイリアン2』やら『未来世紀ブラジル』に完全移行している時期での観賞もマイナスに働いた。一年後の日本公開にいたっては、単にフィルム観賞の既成事実を作りにいったようなものだ。しかも同時上映に『ファンタジア』。リドリーがダークネスを創造するに、もっともイメージを喚起させられたのが本作の『禿山の一夜』の悪魔だったのだから、因果といえば言えなくもない。けど、この安易な取り合わせは『レジェンド』へのツラ当てとしてかなり悪質だ。
前述した短縮カット問題は映画誌で知るところだったが、「面白くねぇからリカットよ」という見解に新展開は芽生えず、しかも折り悪いことにあの「バトル・オブ・ブラジル」を前後して読んじゃったもので、シド・シャインバーグとの壮絶なリカット争いを展開したテリー・ギリアムに対し、同じ事態に遭遇したリドリーの速謝&順応ぶりに義憤すら覚える始末。今思えばゴメンな、リドリー。
その後、国内版のビデオとLDはヨーロッパ公開版がリリースされ、本来のゴールドスミスのスコアに彩られたバージョンをじっくり楽しめるには至った。だが本作唯一の救いとなる“典麗なビジュアル”をスキなく堪能できる[ワイドスクリーン]版が、残念なことにソフト化されなかった。唯一フランスのPALビデオでワイドスクリーン版が出て、その後WOWOWがワイドマスターを数回放送したものの、国内ワイドのソフトは今年3月に発売されたDVDまで待たねばならなかったのだ。
そう、そして時代はDVDへ。2次媒体展開の付加価値として、未公開フッテージを挿入した特別編ないしはディレクターズ・カットも当たり前になった。その恩恵を受け、もはや諦めの向こう側にあった『レジェンド』完全版も、こうやって容易に視聴できる。あの頃のオレに耳打ちしてやりたいくらいだ。
リリース前のアナウンスでは、114分完全版とアメリカ版が選択のうえ、シームレス再生可の仕様だったはずだが、スコアが違うだけでなく起用カットもテイクも微妙に違う。演出意図にも差異があり、両方の共存は不可能。開巻1時間16分も経過してからじゃないと顔を出さないダークネス、そのもったいぶりがアメリカ版誕生の要因になったんだから、合わせはきかない。2枚組仕様はむべなるかな、だ。
んで、肝心の【114分完全版】だが……。
げ! トム・クルーズの印象が今とまったく変わらねぇ! のはさておき、もともとオリジナル『レジェンド』のスクリプトは度重なる改稿があったものの、ウィリアム・ヒョーツバーグの手に成るそれは詩的要素が強く、ダイアローグ感覚が極めて優れていた。
例えば今回復活したネルのセリフ“ The wilful heart invites despair, Like blind
men creeping in a dragon's lair ”に象徴されるように、メタフォールとしてのファンタジー性が極めて高いものだったのである。それら「現代の客層にそぐわない」としてカットされたものが全編にわたって再挿入され、キッド・ムービーと化した本作が「大人の寓話」としての格調を戻したのが興味深い。まさにこれがリドリーの意図したものだったのだろう。
無作為なカットによるブツ切り感が完全になくなったのも嬉しいじゃないの。
また物語の最期、ヨーロッパ公開版はリリィとジャックが手を繋ぎ、妖精たちと別れるロングのリバース・ショットで終わったが、完全版はリリィがジャックに指輪を返し、また会う事を約束しながら別々にその場を離れるという、余韻と含みを帯びたエンディングになっている。
そしてDVDの高いオーサリング技術によって、アーサー・ラッカムの妖精絵画のようなビジュアルにさらなる輝きが増した。ただ鮮明すぎるのも微妙で、アプライエンスのみを皮膚に連動させ、メカニカル・ギミックを一切使用しないロブ・ボーティンのクリーチャー・メイクは、さすがにアーティフィシャルの色っ気が強く滲む。それでもブリックスやメグ、そしてダークネスの造形は、今においてこれを凌駕するものが果たして存在するのだろうか?
また散布する羽毛の描写は、後に『グラディエーター』や『ハンニバル』『ブラックホーク・ダウン』等、シャッター45度開角のストロボ効果を使った弾着砂塵ノイズへと昇華する。もとより『ブレードランナー』で、雨を美のエレメントとする“見立て”感覚はチラチラしていたが、『レジェンド』はそれらの完全原型といってもいいだろう。
映像特典の『神話の創造〜メイキング・オブ・レジェンド』と題された製作ドキュメンタリーも面白かった。トム・クルーズを除くメインキャスト&スタッフが揃いぶみでビハインドを語り、5時間にも及ぶクリーチャー・メイクやパインウッドスタジオでの大火災など、報い及ばずの大事アレコレが回顧されている。なかでもメグを演じたロバート・ピカードが、今や『スタートレック・ヴォイジャー』のホロドクターとしてメジャーになってるだけに、顔出しするや「あれはお前だったのか!」のギャップが笑える。もっとも『レジェンド』製作から16年、スタトレだってここまで拡大化するとは思わなかったしなぁ。
けど映像特典で泣かせたのは、やっぱりブライアン・フェリーのクリップ "Is Your Love Strong
Enough?" だ。
これを観た瞬間「あ!」と思わず受話器を握っていたオレ。あのとき回線混乱のただ中にいた連中、いったい今頃どこで何をしているんだろうか……って、みんな消息ハッキリしてるけど。
(2002年6月17日掲載)
※ 映画『レジェンド』の顛末と詳細に興味のある方は、LEGEND
Frequently Asked Questions (FAQ)Version 5.0が楽しいですぜ。ヒョーツバーグのスクリプト初稿やリライト分、バージョン違いを仔細にわたって分析してます。