滝川市留守家庭児童を持つ親の会

「子育て支援」は自らの手で――滝川学童クラブの5年間

滝川留守家庭児童を持つ親の会・副代表 平田剛士

 共働き夫婦やシングルマザー・シングルファーザーたちにとって、自分の勤務中に子どもが安心して過ごせているかどうかは大きな心配ごとです。「鍵っ子」という言葉が流行したのは1970年代ですが、小学校に上がるか上がらないかの子どもを一人きりか、せいぜい2〜3人のきょうだいだけで長い時間留守番させなければならない親たちの不安は、2006年のいまも全く変わっていません。

3月31日と4月1日で環境激変

 私たちの暮らす北海道滝川市には、公設保育所が6カ所あります。乳児保育(生後43日から)・障害児保育・延長保育(午後7時まで)・一時保育といったオプションもそれなりに充実し、多くの働く親たちが活用しています。例えば我が家(夫=自営業、妻=公務員)にはいま小学6年になる娘と小学3年の息子がいますが、姉を預け始めて弟が修了(卒園)するまでの丸9年間、親もまた毎日保育所に送り迎えに通いました。

 そんな保育所にはいくら感謝してもしきれないほどです。でも子どもたちがいよいよ小学校に上がろうかというとき、保護者たちは一様に大きな不安にとらわれるのです。
「これまで朝8時から夕方6時(延長保育なら午後7時)まで給食・オヤツつきで面倒を見てもらえていたのに、明日からいきなり1人きりで家で留守番させなきゃダメだなんて……!」

 滝川市には、小学生(=学童)が過ごせる「学童保育」が存在しないからです。保育所の修了は3月31日ですが、翌4月1日から小学校入学式(4月7日前後)までの間がまず問題です。また、新1年生は学校生活に慣れるまで入学後も1週間ほど、給食なしで午前中のうちに帰宅させられるので、この期間も心配。さらに夏休み・冬休み・春休みの間はどうすればいいんだろう。休日開催の運動会・学芸会の代休日(平日)や、開校記念日(平日)だってある……。

 親戚などに子どもたちの世話を頼めればいいのですが、もちろんそんな“恵まれた”家庭ばかりではありません。ヘルパーもそう簡単には見つからない。保育所でほかのママ・パパたちや保育士さんに聞いてみると、子どもが保育所から小学校に上がると同時に、共働き夫婦の片方(たいていは妻)がやむを得ず退職してしまうケースも少なからずあることが分かりました。4月は勤労者にも多忙な時期で、簡単には休めません。とりわけ立場が弱いパートタイマーなどの仕事では、休みを取ろうとすると雇い主に「じゃあ辞めてください」と簡単に言われてしまうのです。

 そんなバカなことがあるか、と同じ立場におかれた保護者なら誰でも思うでしょう。実際、1996年にはある市立保育所の保護者会が滝川市長に宛てて学童保育設置を求める要望書を出しています。でも学童保育が実現することはありませんでした。


「親の会」結成へ

 保育所に子どもを通わせている家庭というのは、何しろ保護者全員が就業しているので、それが必要なことだと頭では理解していても、時間のやりくりや気力・体力の面で、なかなか市民運動などには携わりにくいものです。子どもが6歳を迎える年の3月31日と4月1日とで子育て環境が激変してしまうこの状況を何とか変えようと、数人の保育所保護者たちが「留守家庭児童を持つ親の会」をつくったのは、ようやく2001年のことでした。代表を引き受けた吉田耕一郎さんは、地元にある國學院短期大学の幼児・児童教育学科で教える助教授(現在は光塩学園女子短期大学=札幌に転籍)。自身共働きで、二人の息子たちは滝川市内の保育所育ちという彼の、保育の専門家としてのリーダーシップと自己犠牲が、ほかの保護者仲間たちにもやる気を起こさせました。

 「親の会」の目標は、自分たちの街にも公設の学童保育を開設させよう、というシンプルなものでした。滝川市の人口は1985年をピークに減少し続けて、2005年度は4万5000人ほどです。特に子どもの減り方が激しく、0歳−14歳人口はこの20年で半分ほどに減り、現存の各小学校にもいくつも空き教室が生まれています。「親の会」はそんな空き教室を利用して学童保育を開けるのではないかと考え、市役所の担当課に提案を始めました。

 でもすぐに壁にぶつかります。いま「担当課」と書きましたが、滝川市役所には(当然ながら)学童保育の担当課はありません。保育所を管轄する福祉部や、小学校を管轄する教育委員会と折衝してみましたが、時間を予約して訪ねれば管理職が話は聞いてくれるものの、「空き教室利用なら教育委員会を通さないと」(福祉部)、「学童保育は福祉部(の所管)でしょう」(教育委員会)などとタライ回しにされるのです。まさにお役所的対応でした。

 滝川市内には11の児童館が設置されています。これは小学校の数(7校)より多く、近隣自治体に比べてもかなり充実していると言えます。児童館には市の嘱託職員(児童厚生員)が詰め、平日は午後1時から午後5時(日暮れの早い冬期は午後4時半)まで開館し、土曜・日曜も開館して、放課後や週末の子どもたちに遊びやスポーツの場を提供しています。教育委員会にすれば、行政の「放課後児童対策」はこれら児童館運営でじゅうぶん果たせているという意識だったのでしょう。

 しかし、児童館と学童保育とでは役割が異なります。児童館は小中学生ならだれでも自由に出たり入ったりできます。来ても来なくてもよく、子どもたちの出席をとることもありません。いっぽう学童保育には、あらかじめ登録した子どもが原則として毎日「下校」してきます。決まった時間までそこで過ごし、保護者が迎えにくるまで専従の指導員が責任を持って面倒を見ます。児童館が公園などと同じ自由利用施設なのに対し、学童保育は、保護者が留守の間に子どもたちが過ごす準家庭的な空間なのです。保育所育ちの子どもたちを持つ「親の会」の保護者たちが求めたのは、あくまで後者でした。


学童クラブ自主運営を開始

 役所との交渉はしばらく平行線をたどります。ああでもない、こうでもないと話し合いが続く間も、私たちは毎日、子どもを残して出勤しなくてはなりません。一番しわ寄せを被っているのは子どもたちでした。役所に頼ってばかりもいられず、2002年10月、窮余の策として自分たちでお金を出し合って会場を借り、指導員の先生も雇って、学童保育――「たきかわ学童クラブ」――を始めることにしました。

 初めは本当に手探りでした。会場は市内にただ1カ所、「中地区公民館」内の1室です。ふだん児童館として利用されているのと同じ場所で(公民館・児童館併設の建物なのです)、児童館が閉館する午後4時半以降が、われらが学童クラブの開設時間です。終了は、親たちが勤務を終えて迎えに来られる午後6時。利用者は10人ほど、1日わずか1時間半だけ開くささやかな学童保育でした。

 ほかの自治体を見渡すと、民間の学童保育運営は珍しいわけではありません。北海道学童保育連絡協議会(事務局=札幌)のまとめでは、北海道全体で学童保育所の数は735。このうち公設公営が半分強を占めるものの、法人委託が31%、補助運営が12%、自主運営も12カ所あります(2005年5月現在)。ただ、後発だからといって、前例に倣えば失敗せずに済むというものでもありませんでした。事情はそれぞれ大きく異なるからです。

 私たちにとって一番の苦労は、指導員さんの確保でした。保育士の資格をもつ人材を探しましたが、時給は最低賃金レベルの750円、交通費は日に200円、おまけに1日わずか1時間半だけの勤務といった条件の仕事を、だれが引き受けてくれるでしょう。同年暮れの冬休みから、たきかわ学童クラブは小学校の長期休業期間中も開設することにしました。ただし、午前8時から午後1時までの5時間限定。午後1時からは同じ場所で児童館(市の運営)が開くので子どもは居残れるものの、私たちが雇用する指導員さんにはやっぱり短時間・短期間のパート収入にしかなりません。それを拝み倒して頼み込むのです。「とりあえず自分たちで出来ることを」と始めてみたものの、われながらいびつで不安定な形態の学童保育と言わざるを得ません。当時「親の会」の会合のたびに交わされたのは「次の長期休業期間の開設はもうムリかもしれないね」といった悲観論ばかりだった気がします。


ニーズ急増、そして……

 捨てる神あれば、拾う神あり――。そんな不安いっぱいの運営でも、保護者たちは支持してくれました。口コミで伝え聞いたのですが、と「親の会」への登録申し込みが相次ぎ、利用者は増える一方でした(グラフ)。私立滝川幼稚園の支援(保育士派遣と会場提供)も受けて2003年からは2カ所、2005年からは3カ所で学童クラブを開設できるようになりました。

 ニーズの高まりを行政も認めざるを得なくなったのでしょう。今年(2006年)3月、「親の会」と市役所との折衝で、市側は初めて「市と『親の会』の協働方式による学童クラブの運営」を提案してきました。私たちが一番苦労していた指導員の確保を市が担い、その人件費の半額を助成までしてくれるというのです。2年前、「子どもは家庭で育てるもの(だから学童保育を支援できない)」と最高幹部(男性)が答えて私たちを呆れさせた同じ役所とは思えない、うれしいサプライズでした。

 各校区に1つずつ、小学校の空き教室を活用して公立の学童保育を開設する、という「親の会」の目標はまだ実現していませんが、行政との「協働」はまだ始まったばかり。だれでも安心して子育てできるわが街を思い描きながら、「親の会」の活動は有機的に続いていきます。

(2006年度「あしたのまち・くらしづくり活動賞」応募原稿)

制作・著作 滝川市留守家庭児童を持つ親の会 2004-2009