鳥インフルエンザと学校薬剤師

 
日本学校薬剤師会 常務理事 佐々木吉幸 
 


  現在、鳥インフルエンザは、東南アジアを中心にアフリカ、中東、ヨーロッパへと流行が拡大しており、各地でさまざまな対策が取られています。
  今日は、「鳥インフルエンザと学校薬剤師」というタイトルで4つのことについてお話します。

  まず始めに、鳥インフルエンザとはどのようなものか?
  次に、日本や世界での鳥インフルエンザの発生状況はどうなっているのか?
  3つ目に、現在、学校保健法においては鳥インフルエンザをどのように位置づけ、対策をたてているのか?
  最後に、実際に、学校薬剤師としてどのような対策を行えば良いのか?

についてお話します。

1 ヒトと鳥のインフルエンザについて

 それでは初めにインフルエンザについて、お話します。
  インフルエンザウイルスにはA,B,C型の3種類がありますが、特にヒトで流行するインフルエンザにはA型とB型があります。
しかしながら、このウイルスはヒトだけに流行するわけではありません。特にA型ウイルスは、哺乳類や鳥類に広く分布しています。中でもカモなどの水鳥が供給源と考えられています。
少し難しい話になりますが、A型インフルエンザには、HA亜型とNA亜型があります。
HA亜型は、インフルエンザウイルス表面のヘムアグルチニンによりH1からH16まで分類されます。NA亜型は、同じようにウイルス表面のノイラミニダーゼによりN1からN9までに分類されます。実は、カモはこれらの16×(かける)9の組み合わせからなる144種類全てのウイルスを保有していると言われ、その多さに驚いています。
この、144種類の亜型の中でも、今話題となっているのが世界的に流行している高病原性鳥インフルエンザH5N1亜型のウイルスなのです。
このウイルスが、例えば、カモから他の水鳥や飼育されている鳥、家畜、野生動物やヒトに感染し、その後、それぞれの動物の中で感染を起こし続け、最後にはそれぞれの動物に適応したウイルスとなるのです。
このようなことから、カモは他の水鳥や家畜、ヒトにおけるA型インフルエンザの供給源と考えられています。
したがって、従来、鳥インフルエンザはヒトに対する感受性がないため、ヒトには感染しないと考えられていましたが、現在ではウイルスの変異などによりヒトへ感染する可能性がゼロではないと考えられています。これが世界的に問題となっている鳥インフルエンザのヒトへの感染なのです。

2 鳥インフルエンザの発生状況について

 次に、世界的なヒトや鳥における鳥インフルエンザの発生状況についてお話しましょう。
  日本では、平成16年に山口県や京都府の養鶏場において鶏が突然大量に死んだり、養鶏場の周辺で、カラスが突然、死に大騒動になったことを記憶している方も多いでしょう。
また、通常は冬に流行するイメージのあるインフルエンザですが、茨城県においては、平成18年夏に鳥インフルエンザが発生し、汗だくになりながら大量の鶏を処分している様子が思い出されます。
  このように、日本においても鳥における発生が確認されていますが、幸いヒトへの感染は確認されていません。
  一方、世界では、東南アジアを中心として鳥からヒトへの感染が確認されています。
特に、現在確認されている高病原性鳥インフルエンザH5N1亜型の流行は、平成15年12月に韓国において鶏の感染が確認されたのが始まりです。
その後、翌16年1月には、ベトナムで、3例のヒトにおける感染が確認され、平成17年にかけて東南アジアを中心としたベトナム、タイ、カンボジア、インドネシア、中国などで、ヒトへの感染が報告がされています。
また、平成17年7月以降には、アジアだけではなく、中東、ヨーロッパ大陸、アフリカ大陸へと感染が拡大しています。
このように徐々に感染が拡大し、現在では、鶏の高病原性鳥インフルエンザの感染拡大を防止するため、世界の50の国・地域からの鳥の輸入が停止されている状況です。

また、ヒトにおける感染例においても、
平成19年7月11日現在、318名の感染、そのうち192名の死亡が報告されています。中でも、インドネシアでは102名、ベトナムにおいては95名と特に東南アジアで多くの感染例が確認されています。

3 鳥インフルエンザの法律的位置づけ

 それでは次に、どのような法律的な対応がされているかについてお話します。  
厚生労働省では「感染症の予防及び感染症の患者に対する医療に関する法律(いわゆる感染症法)」において、病原体がH5N1のインフルエンザを指定感染症として指定し、H5N1に感染した患者に対し、入院等の措置を講じることができるようにしました。
これを受け、学校保健法においても同様に、H5N1インフルエンザを第一種の伝染病とみなし、学校長の判断により「治癒するまでの間、出席停止等の措置を講じることができる」としています。
また、H5N1にかかっている疑いがある場合にも、「学校長は、医療機関や地方公共団体の保健部局等と連携の上、必要と認める場合には、医師が伝染の恐れがないと認めるまでの間、出席停止の措置を講じることができ」、さらに、「学校の設置者は、臨時に学校の全部又は一部の、休業の措置を講じることができる」としています。
  その他、鳥インフルエンザの発生に備え、学校での飼育動物についての対応等について注意喚起がされています。

4 鳥インフルエンザ対策について

 それでは最後に、学校薬剤師としてどのように鳥インフルエンザ対策を行うのかについてお話しましょう。
鳥インフルエンザに対し、出席停止や休校などの法的措置がとられるようになったわけですが、これは、あくまでもH5N1インフルエンザの感染が確認、又は強く疑われる場合の法律を根拠とした対応であることに注意してください。
学校薬剤師としては、多くの児童が感染しないように日常からどんな感染対策を行うかについて、注意喚起することが重要となります。
感染経路は、H5N1に感染した病気の鳥や死んだ鳥の排泄物や体液との濃厚な接触によるものです。もちろん、加熱が不十分な肉を食べたことが原因と報告されたものもあります。
現在、鳥インフルエンザの発生が確認されている地域からの鳥肉の輸入などには厳しい制限があるため、日本では病気の鳥肉を食べたことによる感染の可能性はありません。そのため、感染対策は病気の鳥との接触を避けることにポイントを絞ってお話します。

まず、学校ではどんな場合に鳥と接触する可能性があるのか考えてみましょう。
例えば、

  • 学校で鳥の飼育をしている場合
  • 野鳥の観察をしたり、えさをあげた場合

などが考えられますが、このとき、どのようなことに注意したら良いでしょうか?
  まず、学校において、鳥を飼育している場合は、

  • 鳥小屋を清潔な状態で飼育すること
  • 鳥の世話をした後、鳥に触った場合は、手洗いやうがいをしっかりすることが重要であり、

児童生徒や保護者等に対し十分に説明し、必ず実践していただきたいと思います。
  また、鶏が鳥インフルエンザに感染した場合は、元気がなくなったり卵を産まなくなったり、肉冠や足が腫れて皮下出血を起こしたりします。日ごろから獣医師と連携し、学校で飼育している動物の健康を確認することも重要なポイントとなります。
さらに、急速に死亡する鳥類が増加したり、連続して複数の鶏が死亡するなどの「鳥の通常と異なる状態」を発見した場合には、教育委員会や地域の獣医師、家畜保健衛生所、保健所などに相談の上対応してください。

 次に野鳥などを観察をした場合、えさをあげた場合についての注意点についてお話します。

カモなどの水鳥は、もともとインフルエンザウイルスを持っていても、インフルエンザを発症することはなく、無症状のままウイルスを保菌するとされています。
つまり、症状がなくても病原体を持っている可能性がある、ということです。
このような場合には、感染の可能性があることを常に念頭において手洗い、うがいをすることを忘れないで下さい。
最後に、鳥インフルエンザに限らず、人畜共通感染症と呼ばれるヒトと動物に共通に感染する感染症が、最近数多く確認されています。
  例えば、牛の糞便などから感染する腸管出血性大腸菌感染症(O157)や、逆の例では結核のヒトがかわいがっていた犬に結核を感染してしまった事例などがあります。

 感染症は常に身近に迫っています。このことを念頭に日頃から、手洗い、うがいなどの基本的予防方法をしっかりすることにより、感染症を防ぎましょう。