室内空気中の二酸化窒素(NO2)について
 

日本学校薬剤師会情報委員会委員長 木全 勝彦
 


  本日は、今年1月29日に沖縄県の「てぃるるホール」で開催された、健康・学校環境衛生講習会の研究課題報告である「室内空気中の二酸化窒素について」を報告させていただきます。

 二酸化窒素については、物が燃焼するときに、燃料中の窒素分や空気中の窒素(空気の約78%を占める)が酸化されることで一酸化窒素(NO)と、二酸化窒素(NO2)を生成しますが、これらを総称して窒素酸化物(NOX)と呼ばれています。
二酸化窒素は分子量46の赤褐色で刺激臭のある気体で、二分子が重合してできる無色の四酸化二窒素(N2O4)との間で平衡が成立し、常温では約30パーセントが二酸化窒素として、液体や固体ではほとんど四酸化二窒素として存在します。
自動車のエンジンなどから副生されること、また、高温燃焼になるほど発生しやすくなることから、現在の大気汚染の主要原因物質とされています。おもな発生源は、工場・事業場や自動車等ですが、スト−ブ・給湯器といった私たちの身のまわりにも発生源が数多くあること、また、生物活動に由来する自然発生もあることなどから、その防止対策は難しいものがあると考えられています。
そして、室内での二酸化窒素は主として燃焼器具使用時に発生し、燃料中の窒素分が酸化されて生成するもの(フューエルNOX)と、高温燃焼で空気中の窒素が酸化して生成するもの(サーマルNOX)があります。

 最近の暖房器具は、燃焼中の不快な臭気を除くために、燃料を出来るだけ高温で完全燃焼するように作られています。燃料を完全に燃焼すれば、暖房効率が向上し、ススや悪臭も減少し、さらに、極めて有害な一酸化炭素(CO)がなくなるなどの利点は非常に多いといえます。が、高温で燃焼するために空気中に多量に含まれている、本来は安定な窒素(N2)が燃えて、二酸化窒素や一酸化窒素(NO)などの窒素酸化物(NOχ:ノックス)が生成してしまいます。特に灯油をガス化して高温で燃焼させるファンヒーターのうち、燃焼した後の排気ガスを室内に排気する(室内排気型)タイプのものや、都市ガスで本来窒素分を含まない燃料を使用するガスストーブ・炊事用のガスコンロなどを使っている部屋でも測定された二酸化窒素濃度は大きく、芯を使って燃焼させるタイプの石油ストーブについても大きく基準を超す結果となっています。
平成16年2月10日付け「学校環境衛生の基準」の改訂より、「教室等の空気」において「二酸化窒素」が検査項目として新たに盛り込まれることになりました。
これはご承知のように二酸化窒素が燃料の燃焼によって発生し、呼吸器疾患やアレルギーの発生の要因になること、また環境基本法においても環境基準が設定されていること、さらには燃焼器具を使用することで二酸化窒素が発生し室内濃度が環境基準を超す恐れがあることが分かってきたためと考えられます。

ここで、大気汚染に係る環境基準についてはs.53. 7.11告示で
1時間値の1日平均値が0.04ppmから0.06ppmまでのゾーン内又はそれ以下であること。

とされ、測定方法として、
ザルツマン試薬を用いる吸光光度法又はオゾン(平成8年10月追加)を用いる化学発光法が定められています。
しかし、今まで室内における基準は一般にはありませんでした。

今回、学校の教室においては、学校環境衛生の基準(平成16年2月10日一部改訂)で、

開放型燃焼器具を使用している教室において検査を実施することとし、その基準値を
0.06 ppm以下が望ましい
とされました。

そして、室内の二酸化窒素が基準値を超過した場合は、室外の濃度も測定し室内濃度(I)が室外濃度(O)を超える場合(I/O>1)は、教室内の換気及び暖房方法についての改善を行うこととされました。

こうしたことから開放型の暖房器具を使用している学校の教室内においては二酸化窒素を測定することになりましたが、大気中の二酸化窒素の汚染度を測定する方法・機器等は環境基準で定められていますが、室内については「学校環境衛生の基準」で定められませんでした。
今回、室内の二酸化窒素濃度測定における使用機器及び測定方法等を考えるとともにその測定結果を検討することで、これからの教室内空気の汚染を防ぐ換気及び暖房方法等の改善策を考察することとしました。

初めに、室内での測定機器等についてですが、同じ「教室等の空気」の検査項目である揮発性有機化合物におけるホルムアルデヒドでの測定の場合を鑑みると、環境省の測定方法あるいはこれと相関があると考えられる簡易法を使用してもさしつかえないと推察されることから
簡易測定機器として
   @市販の二酸化窒素測定キットを利用する方法         
   A検知管による方法
   B試験紙光電光度法による方法   
   C電気化学式定電位電解法による方法

が考えられました。しかし、
環境基準で「1時間値の1日平均値を測定する」とあることなどから、1時間値が計測できるBの試験紙光電光度法、Cの電気化学式定電位電解法 を利用した測定機を使用することとしました。

次に実際の測定にあたっての方法及び条件としては
まず、暖房器具の型式、排気条件等で二酸化窒素(NO2)の発生量が大きく異なるため、教室の予備調査で濃度測定のおおよその目安をつけることが重要になります。

条件としては、
1.測定場所は教室の中央付近で机上あるいは床面から1.2 m〜1.5 mの所とする

2.時間帯は暖房器具使用時の午前と午後のそれぞれ1回とするが午後に使用しない場合は午後の測定は不要とする。
                     
3.窓等の条件としては         
     児童生徒がいる場合、いない場合に関わらず、測定前に換気を十分に行った後、窓等を閉め、ストーブを点火稼働後に測定する。

4.外気の扱いでは
     基準値を超えた場合は必ず外気の測定を行い、室内外比(I/O)を求めて判定を行うこととし外気の測定では風等の影響ができるだけ無い場所で行う。

5.温度についても
     室温・外気温ともにできれば測定中2〜3回程度測定する。

6.その他として
     ルーバーなど、換気に関わりがあると思われる事項は必ずチェックしておく。

として実施しました。
こうして昨年度調査を行った6校の学校の結果からは開放型ストーブの使用で換気が不十分な場合には、二酸化窒素濃度は1日平均0.2ppm、ピーク濃度で0.3ppmと大気汚染の環境基準値(0.04〜0.06ppm以下)を大幅に超えるという結果となりました。

この検査結果より考察できることは、
1.外気の測定結果については県の大気汚染自動観測システムの結果ともよく合致していた。

2.灯油・ガスなど燃料に関係なく、燃焼により二酸化窒素が発生すること、また高温の燃焼であればより多く発生することが理解できた。

3.FF方式であっても排気口の位置等が適切でないと窓等より室内に還流する場合がありストーブの設置、排気等を再検討するとともにFF式であっても一度は検査する必要性があると思われた。

4.燃焼系の開放型暖房機の使用で二酸化窒素が大幅に基準を越えてしまう事例が多かったことから、暖房機の選定・設置・換気方法等について改めて検討する必要性を感じた。
また、二酸化窒素による児童生徒への健康影響についても調査検討すべきと考える。

5.中学校での連続測定からは、閉めきって換気が不十分なときには二酸化窒素濃度が簡単に0.3ppmに近づいて行く様子が分かりました。一部窓開けをおこなってみたがストーブをつけたままではなかなか減少せず、二酸化窒素の発生量と換気量を考えた換気方法をとる必要性を感じました。

以上の結果より、呼吸器疾患・化学物質過敏症を少なからず抱える児童生徒のためにも、燃焼系器具を使用する場合には特に規定の換気回数を遵守するよう指導助言していきたい。

おわりに
今回の調査で室内の二酸化窒素濃度は、石油・ガスなど燃料に関係なく燃焼系の開放型暖房機を使用することで簡単に大気汚染の基準を大幅に超してしまうことが分かりました。
家庭においても台所など燃焼器具を使用する機会が多いことから、本当にこれで大丈夫なのかどうか不安を覚えたくらいです。暖房機を使用した冬場の閉めきった教室の空気がいかに汚れているかがよく理解できたことで、暖房機の選定・換気・排気方法等について改めて検討・改善するとともに1年を通して換気に十分注意をしていく必要性を実感させられました。

なお、NO2による健康影響については疫学調査を含めこれから再検討する必要があるのではないかと考えます。
また、排気ガスを室外に出す強制排気式、昨年末から問題となったFF式ファンヒーターや煙突付きの石油ストーブの場合でも値は基準値以下にはなりませんでした、排気ガスの処理方法が悪く外へ出した排気が窓等から還流してきたと考えられる二酸化窒素が測定されるなど、暖房機の選定や設置方法を含めて指導していく必要性を感じました。
全体を通してみると、冬のしめきった室内の空気は燃焼器具から発生した二酸化窒素によってひどく汚染されており、その程度は交通量の多い交差点をも上回っていることがわかりました。

二酸化窒素は0.1ppm程度で喘息患者等に呼吸機能の低下をまねき、暗さへの対応がしにくくなるなど、0.2ppmを超えると慢性気管支炎患者や児童に呼吸機能の低下がみられるようになり、5ppmでは健康な成人でも呼吸機能の低下がおきるといわれています。こうしたことから室内の二酸化窒素濃度を低く保つためには、燃焼器具を使用する際に十分な換気が必ず必要といえ、特に開放型暖房器具は二酸化窒素の発生量が多いこともありできるだけ使用を控えることが望まれます。