第6章  遠近混在のパノラマ合成

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* 2002.09.22 「レンズ繰出し量」補足説明を追加

 パノラマモードの付いたデジカメやパノラマ合成ソフトの取扱説明書には
「手持ち撮影でも合成できます」と書いてあることがありますが、一方で
「遠景と近景が混在した被写体はうまく合成できないことがあります」とも書いてあります。
 一般にパノラマ写真は遠くの風景などを広範囲に写したいというときにつくりますので
遠景近景が混在するケースは比較的少ないのですが、写真の絵作りの意図によっては
近景も画面に取り入れたパノラマも作りたいことがあります。
 この章では遠近混在のパノラマ合成の問題点からその解決方法までを解説します。
1. 遠近混在の問題点
 一般に手持ち撮影でカメラをパンさせてつなぎ撮りをする場合、顔の前にカメラを構えて体を回転させて次々に撮ってゆきます。
 このとき、遠景と近景が混在しているとどのようなことが起きるか、右のビデオを見てください。遠景の立ち木と、近景の菜の花の位置関係がカメラの方向によってズレて行くのがわかります。
 このことは目で景色を見渡しているときにも普通に起きていることですがパノラマ合成には問題となります。

画像表示に少し時間がかかります。
(アニメーションGif 276kB )
  実際に遠近混在のパノラマ写真を普通に手持ち撮影で作ってみる。
2枚に撮り分けると下の写真のように遠景と近景の位置関係が左右で違っている。
カメラをパンしたとき上の動画でも分かるように近景の方が画面内での移動量が多いので
左のショットで遠景のほぼ正面にあった近景の梅の花は右のショットでは同じ遠景に対して
左の方に位置するようになってしまう。
こうなると、近景が合うように二枚を重ねると遠景がずれる。
遠景が合うように重ねると近景がずれる。

というように合わせようのない状態となってしまう。

合成ソフト(美写楽)で結合してもこのようになる。(この場合近景があっている。)
このような絵柄ではレタッチで修正して目立たないようにすることも出来そうであるが
建物など連続的な被写体の場合はどうにもならない場合も出てくる。
2. どうしてこうなるか、どうすればよいか
  カメラマンの正面に一直線に位置する近景と遠景を手持ち撮影で回転して撮影したときにフィルム面(CCD面)にどのように写るか考えてみる。(右図→)
  カメラマンが回転軸となってカメラが移動しているので遠景・近景を斜めから見たこととなり、二つの像は重ならず別の位置に写ることによって上の例のようになってしまう。


  正面の遠景と近景が重なって像を作るためにはどうすればよいか。
  遠景からの光、近景からの光がともに通過するレンズの中心が移動しないようにここを軸にしてカメラを回転すれば像はズレないこととなる。(←左図)
3.レンズセンターを軸にして撮影してみる
前と同じ場所でレンズセンターを軸にしてカメラを回転して梅を撮り分けてみた。
遠景と近景の位置関係はほとんどズレていない。

ソフトで合成しても大きなずれはなく結合できた。
近景が若干ズレているがまだ回転軸がレンズセンターに正確に合っていないものと思われる。
4.レンズセンターとは
 これまでの説明ではレンズは虫眼鏡のような一枚のレンズとして取り扱ってきたが、実際のカメラのレンズは数枚から10枚前後のレンズが組み合わされてある程度の長さを持っている。このときのレンズ中心とはどこになるのか考えてみる。
 このような組み合わせレンズであってもカメラのレンズはある焦点距離を持った等価的な1枚の凸レンズで置き換えて考えることが出来、この等価的なレンズの中心が組合せレンズの中心ということになる。
(一般に、この点をレンズの「主点」という)

 レンズは @光軸に平行に入射した光はレンズ後側の焦点を通る Aレンズの中心を通る光は直進する Bレンズ前側の焦点を通った光はレンズを通ったあと光軸に平行に進む、という3つの性質がある。そして被写体の1点から出た光はどの経路を通ってもレンズの後側でまた1点に集まりそこに像を作り、上図のように作図することが出来る。

 組合せレンズにおいて被写体から光軸に平行な光の光路が下図の実線のように進むとするとレンズ後玉から出た光はこの組合せレンズの焦点を通る。このとき@の性質を使うと、前玉への入射光路の延長線と後玉からの射出光路の延長線が交わる位置が等価レンズの位置となり、この等価レンズが光軸と交わる点が「主点」となる。 (これがここで言う「レンズセンター」である。)





18秒ごとに図面が切り替わります。
アニメーションGif (74.2kB)
ここで、主点から焦点までの距離がこの組合せレンズの「焦点距離」となる。
また、被写体と主点を結ぶ直線の延長線と焦点を通った光の光路の交点に像が出来る。


 本項参考文献 : 「光学のすすめ」 オプトロニクス社 (「光学のすすめ」編集委員会) p.30、p.152
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上記の「主点」の解説についてその後、@主点は前主点と後主点の二つ存在する。Aパノラマ写真に重要なのは前主点である。とのご指摘を頂いています。どうも上記の解説は後主点を求めることになっているようです。
現在@Aが正確に解説できるように勉強中ですが、まだ完全に理解できるところまで行っていません。
理解出来次第改訂したいと思いますがそれまでは申し訳有りませんが読み飛ばしておいて頂きたく。
(2006.5.17)
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5.レンズセンターの探し方
(1)上の解説を元に探す方法
 上の解説からレンズセンター(主点)はレンズの焦点位置から焦点距離だけ前に出た位置ということになる。焦点位置というのは目で見えない点なのでもっとはっきりした位置としてフィルム面またはCCD面がある。
この位置はピントを合せたときの像の位置となるため、フィルム面を基準にした主点の位置は上の図から
 ”レンズの焦点距離+ピント合せのためにレンズを繰出した距離” だけ前にある、ということになる。(遠景にピントを合わせた場合、レンズの繰り出し量は無視出来るので 〜レンズの焦点距離 となる)
                                       (「レンズ繰出し量」補足説明参照

 フィルムカメラの場合はフィルム面は分かりやすく、中にはフィルム面の表示がしてあるカメラもある。
また、レンズの繰り出し量もピントリングを回しながらレンズの先端を見ると分かるので比較的探しやすい。

 デジカメの場合はCCDがどこに付いているか分かりにくい。
デジカメは背面に液晶ファインダーなどが付いているのと、電子回路の基板上に実装してボディーに収められているので必ずしもカメラの背面直近についているとは限らず、ボディーのかなり前方にあるものと思われる。デジカメ用のレンズは焦点距離が数mmから20数mmと短いためCCDの取り付け位置の特定を誤ると厳密な位置出しは不可能となる。

(2)ファインダーを見ながら探す方法
  次の項で説明する三脚とカメラの間に入れる治具かスライダーを使う。
@カメラをスライダーを介して三脚に取り付ける。
A近景と遠景が混在する被写体を選んでその
  方向にカメラを向ける。(近景は出来るだけ
  近い方が良い)
Bファインダーを見ながら三脚の雲台を回転させ
  てカメラを左右に振ってみる。
  (一眼レフ式のファインダーの場合は光学ファ
  インダーで見ても良いが、レンジファインダー
  式のカメラの場合は撮影レンズと光学系が異
  なるので液晶ファインダーを使う。)
レンズセンターを軸に回転したときの見え方



アニメーションGif 209kB
画像表示までに少し時間がかかります。
  本ページトップの動画のように近景と遠景の位置関係がずれるようでは三脚の回転軸と
  レンズセンターが合っていない。
Cスライダーを使って三脚上のカメラの位置を前後に動かし、カメラを振っても遠景と近景がずれない位置
  を探す。(動画参照。プリントした写真を左右に見わたしているような立体感や動きのない絵になる。)

  このとき三脚の回転軸とレンズの光軸が交わる点がレンズセンターとなる。

 6.レンズセンターを軸にカメラを回転させる方法
(1)三脚を使う場合
  たいていのカメラは三脚穴が右図のような位置に付いている事が多く、カメラを三脚の雲台上で矢印のように移動させて三脚の回転軸とレンズ中心を合わせる必要がある。
 位置を合わせて固定する方法をいくつか紹介する。

@治具を自作する。
  ホームセンターなどで売っている写真(@)のような金具をうまく組み合わせてカメラを前後左右に移動して固定できる(自分のカメラに合った)治具を作る。
 この場合三脚のネジはISOネジではない(インチ?)ので一般に売っているネジではピッチが合わない。そのため、カメラ店の三脚コーナーで売っている写真のようなネジを使うと良い。

Aマクロ撮影用のステージを流用する。
  Velbon(A)やHakuba(B)からマクロ撮影用に三脚に固定したカメラを微妙に前後左右に移動できるスライダーが発売されている。これを利用してカメラを上図のように移動する。
 Velbonは頑丈な作りで、左右は25mmほどしか移動できないが前後は65mm+α移動するのでレンズの焦点距離が長い一眼レフに適する。
 Hakubaは小型軽量で、前後左右に55mm移動するので三脚穴が端のほうについているコンパクトカメラやデジカメに適する。
 ただ、これらは横位置撮影には使えるが縦位置撮影をする場合は自作をすることになりそうである。


@
A
B
B三脚を使うだけ
  デジカメのように焦点距離の短いカメラでは、三脚に取り付けて雲台で回転するだけでも完璧ではないが遠近の被写体位置のズレは手持ちに比べて相当に軽減される。
(回転軸のズレは手持ちの場合10cmぐらいになるが、三脚に取り付けると2-3cmになる)

(2)手持ち撮影の場合
@鼻の頭を軸にしてカメラを回す。
  カメラの背面を鼻の頭に当てて、ここを軸にしてカメラを回転させる。比較的安定していて3-4枚ほどの繋ぎ撮りなら使える。(回転軸のズレ4-5cm)
A体をそらせて腰を軸に回転する。
  少し安定性が悪いが繋ぎ撮りの枚数は増やせる。
いずれの方法もファインダーを覗きながら近景が遠景からずれないように微妙に体で補整すると良い。(多少の慣れを要する。)

いろいろと難しいことを書きましたが最初からこんなことは考えずに、とにかくパノラマ写真を作ってみてください。意外にうまく行くことが多いものです。その中でどうしてもうまく行かない、もう少し合成精度を上げたい、などのときに参考にしてください。

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