《ヨーロッパレポート・No.2・付録“アドベンチャー”》
その“アドベンチャー”というのは、バンツの家の目の前の丘に登ってみることだった。一面草の原で、比べるものがないし、その丘に現実感がない。牛達は、のんびり気持ちよさそうに、うろうろしているし、ペーターはクララを背負って登ったではないか・・ちょっとお散歩・・と思ったら、とんでもない、かなりの勾配で、途中私は、実は泣きそうであった。登山鉄道のようにジグザグに登っていく。つかまるものはないし、とても谷を背にして登って行けないのだ。肩幅ほどに足を開くと、山側の足は谷側の足のひざ下くらいの高さになる程の勾配なのだ。(何食わぬ顔で草を食べている牛や羊は、たいしたものなのだ!)少しバランスを崩せば、どこまでも転がり落ちてしまう、という悪夢のような恐怖!(時々、夢を見る。ピラミッドのような物の、石の階段を登っているが、1段の奥行きがとても狭く、しかも高い。重心が少し後ろになると落ちるなあ、と、とても怖い。周りの人は平気で登っている。) 上まで登ると言ったのを後悔した。そこから見える景色は確かに疑わんばかりに美しい、しかし、それ所ではないというのが、正直な気持ちだった。かと言って、この坂を引き返すのは登る以上に恐ろしい。この丘を越えると又丘があったりしてー、とか、向こう側は、同じように急勾配の下りしかなかったりしてー、とか、恐ろしい想像をしながらも、とにかくバンツの後を歩き、登った。恵琉馬は、バンツに手を引いてもらいながらだが、なんと、まったく弱音を吐かず、「ヘフ、ヘフ、ヘフッヘフッヘフ!」とアヒルが乗り移ったような妙な掛け声をかけながら、私のはるか前をどんどん登っている。やるな5歳児、などと思いながら私もがんばる。(後で思えば、恵琉馬も自分に気合を入れていたのだと思う。) やっとの事で頂上にたどり着き、尾根が実は、緩やかに丸っこく平坦であることが解った時にはものすごく安堵した。200mほど先に小屋があるのが見えた。そういえばバンツのうちの玄関から見えたあの遠くの小屋である! 牧草をためておいたりする農作業のための小屋だろう。そこまでは車で登れる道が作られているので、どんなに遠回りでも、そこから降りようとバンツに言った。彼も越して日も浅く、初めて登ったそうだが、帰り道については思案していたようだ。しかし、その小屋には忠実な番犬がいて、遠くから、何者だ、来るな、と吠えながらこちらに向かって来る。我々はその小屋に伸びている“道”に用があるだけなのだけど、進路を、やや遠慮がちに、周り気味に取りながらも、変えない我々にその犬は、まだ来る気かとどんどん近づいてくる。バンツに大丈夫と思うかと聞いても、まだ友達ではないので解らないという。めったに吠えない犬にもわんっと吠えられる事が多い私は、またしても恐怖である。バンツは「All right、all right. Good work! 」と、小屋からかなり離れた所までやって来て任務を追行した犬を褒め、その距離20mという所で犬に背を向け、進路を変更。遠くからでは解らなかったが、結構大きい犬だった。「解れば良いのだ」とばかりに、満足げに立ち止まりこちらを監視している。幸いな事に、その小屋から逆側の集落までの道もあった。“道”を見つけたときはうれしかったー! たどっていけば、必ずどこかに着き、恐怖を感じるほどの坂はないだろうし、番犬に不法侵入者呼ばわりされ吠えられる事もない、という、安心感が思いのほか大きいことを知った。他の人の作った道、通った道をたどるのは、容易いのだ。
私達は、非常にほっとし、ゆっくり景色を見回しながら、その道をたどり、先述のレストランで昼食を食べる事にしたのである。

高田ひろ子
2005.08.17

このページでは、高田ひろ子からのメッセージを不定期(目標月1回)に掲載しています。

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