2002年6月22日、大阪市立弁天町市民学習センターで第8回会員総会がおこなわれました。総会の前に開かれた“対談〜日中環境協力を語る”で、明日香壽川さん(東北大学東北アジア研究センター助教授)と高見邦雄GEN事務局長が、中国の環境問題やそれに対する日本の協力のあり方などについて話し合いました。会報で紹介した抄録に少々補足を加えました。(文責=『緑の地球』編集部)
【明日香】
私は日本で生まれましたが、両親は中国人です。父は四川省重慶市出身で、戦前日本に留学生としてきて、戦争前に中国に帰って、戦後また日本にきました。
明日香というのは変わった名前ですねとよく言われますが、実はつくった名前です。昔は張といいました。92年に帰化と結婚を同時にしたときに妻と相談して、次の世代、新しい世代へ名前を残せたらいいなという願いをこめてつくりました。
今日は日本と中国の環境がテーマですが、私が日本で生まれた中国人として育ち、いま日本人として生きている、そんな視点から話したいと思います。
【高見】
いま中国は、変化が速いですね。欧米や日本が4、5世代かけてきたことを、1世代でやろうとしている。そこから出てきたひずみを感じて、GENの活動を思い立ったのですが、明日香さんが中国の環境問題に関心をもたれたのはどういうことからですか。
【明日香】
私は日本の技術、特に公害対策の経験なり技術を中国にうまく移転していく仕組みがつくれないかというところから、中国の環境問題に入りました。とはいえ、中国の環境問題は歴史的に根が深く、4000年の中国文明があるから現在の環境問題があるとも言えます。そういうことを知って、ときには絶望的になったり、ときにはなんとかできるのではないかと思ったり、そういう繰り返しです。
いまは確かに開発のスピードが速い、さらに、非常に脆弱な生態系のうえにそれをすすめているのが中国の特徴であり、持続的発展という意味では、非常にむずかしいところです。
【高見】
環境問題もたくさんありますが、特に深刻だと感じておられるのは?
【明日香】
日本から見た中国の環境問題は大気汚染、越境酸性雨というイメージですが、実際に中国に行って感じるのは水、それにつながる砂漠、同時に木が少ないという問題でしょう。もちろん、大気も問題です。私は地球温暖化問題も専門のひとつですが、温暖化の根本的な問題は石炭利用であり、中国の石炭利用は温暖化問題の今後を左右する大きな問題です。
また、中国では炭鉱事故が多く、データによると年間約1万人が亡くなっています。炭鉱労働者は出稼ぎの農民、農村で農業ができなくなった人たちです。農業ができなくなった原因は、土壌流出など自然破壊の問題や、温暖化という、人間の行動で自然が変化してしまったこともあると思います。
中国はいま石炭の使用を減らしていますが、その結果石油や天然ガスをつかうことになります。それが世界にどう影響を与えるか。ご存知のように、食糧問題では中国が将来外国からたくさん食糧を輸入して世界が困るという話があります。実際、中国の環境問題も含めた食糧問題が世界に大きな影響を与える可能性は大きいと思います。そういう意味でも、みんなで中国の問題を考えるべきです。
【高見】
いま日本では、中国は環境問題を全然真面目にやらないのに、日本が協力する必要はないという人が増えていますが、私は違うと思います。92年に緑化協力をはじめたころは、北京や大同で青年団の人たちに中国はこれから環境問題が大変だよと言うと、猛反発がかえってきました。それは先に豊かになった日本人の勝手な議論だ、中国は膨大な人口を食べさせることが最大の問題で、それには経済発展が第一だ、環境破壊が付随しても、あまんじて受け入れる、そんな主張でした。
ところがいま中国の環境への意識は大きく変わってきていると思います。
【明日香】
たとえば今年の春に、朱鎔基が中国のこれからという話を全国人民代表大会でした時に、30分ぐらいで8回、「生態系の保護」という言葉がでてきたそうです。ゴミや騒音など、身近な環境問題が目に見えるようになってきて、一般市民もなんとかしなくてはという人が多い。
それから、NGOができつつあります。10年前は、中国で非政府組織はありえないといわれていましたが、7、8年くらい前から、小規模ながらも、環境問題に特化したNGOができるようになってきました。
あるNGOの創設の時に聞きましたが、中国のNGOは政府のOKがいるので、反政府というのは表に出せない。だから政府と対立しない環境教育や啓蒙でがんばると。そうした環境NGOが、自分たちでお金を集めてテレビの環境番組をつくるなど、日本よりすすんでいるところもあります。
多くの日本の人が思っているほど、中国では環境意識が低くはないと思います。
また、私は去年の夏、公害被害者ホットラインというところを訪ねました。フリーダイヤルで公害の相談を受け付けています。たとえば、ある地域でかなりの人が病気で困っている、工場の排水らしいんだけどよくわからない、なんとかしてくれないか、というような苦情を聞いて、公害問題の専門家なり弁護士なりが調べに行って、なんとかしてみせるというような、そんなシステムですね。
とにかく、日本の人が思っている以上に、中国で環境意識がひろがるスピードは速まっていると思います。
【高見】
レスター・ブラウンの「誰が中国を養うのか」のインパクトはすごかった。反発が多かったのですが、食糧と農業の問題を政策的にも考えないといけないという反応もありました。
さらに衝撃的だったのが、98年の長江・松花江の水害です。それまでも長江は毎年のように氾濫し、そのたびに100年に1度の大雨と言われた。ところが98年、おそらくはじめて、「これは人災である」と。上流で木を伐って土壌流出がひどくなった。中流では遊水池が埋まって浅くなったから干拓して農地や工場用地に変えた。そしたらこんなことになるのは当たり前だ、という議論があそこで起こった気がします。
【明日香】
レスター・ブラウンが日本に来たとき、私は、講演会を企画したことがあります。そのとき、あの本に対して中国が非常に反発あるいは反感を示したけれどどう思いますかと聞きました。するとブラウンが答えたのは、あの本を出したときに中国政府から招待されて、北京で上層部と話し合った。1959〜60年の、何千万人という餓死者がでた大躍進のころの経験をもつ人たちがいま中国のトップにいる。彼らにとって中国が食糧問題で大変なことになるというのはタブーで、私はそれを破ってしまった。それで反感を買ったのではないか、と。
その後、彼らは議論を重ねたし、中国もブラウンによっていろいろと考えさせられたでしょう。反発あるいは反感という意味では、「誰がアメリカを養うのか」という、アメリカの方が世界中から食物を輸入しているじゃないかという本がその後中国で出ました。人間どうしても本当のことを言われると素直にうなずけないところがあるようです。
もうひとつ言えば、中国の場合、言霊といいますか、言ったことが本当になっちゃう、という考え方があると思います。中国は歴史的に、いろいろ苦しい目にあってきた。一家全員が飢え死にするといったことが歴史的にはめずらしくなかった。わずか40年前に何千万人が飢え死にし、文化大革命で何百万人が死んだ。
そういう経験を経ると、とにかくいま自分たちが生きているという現実が最重要で、ほかに考えがおよばない、考えたくない、考える余裕がない、考えても仕様がない、そういうところがあると思います。将来に関する悪い予想を言ってもしょうがないし、言ったら、逆にその予想が現実になってしまうということです。
長江の話ですが、歴史的に洪水は中国では日常茶飯事で、1900年とか1800年代には何万〜何十万人が10年ごとに亡くなっていた。そういう意味では98年の洪水は、歴史的に見れば、残念ながらよくある話といえるでしょう。
ですが、中国政府も真剣に対策をたてました。そのひとつが、上流での森林伐採禁止ですが、それが別の問題をおこしています。
いま中国は海外からたくさん木材を輸入しています。1番の木材輸入国は日本ですが、2番目か3番目が中国です。中国の環境が、日本もそうですが、まさに世界の環境に影響してしまうという典型的な例だと思います。
【高見】
シベリアの木材資源に中国が相当進出しているといいますね。
【明日香】
そうですね。それに、シベリアの場合は2割か3割ぐらいが不法伐採だという話があります。温暖化の面から見ると、森林がCO2を吸収する、その森林がなくなるのは大きな問題なんですが、逆に不法伐採はとまらないしどんどん増えているといいます。
【高見】
一方で、中国では99年に全国生態環境建設計画がでて、いまどこでも植林熱がすごい。苗木の値段が非常に高くなるなど、大きな転換がはじまりました。
それ以上に中国が環境問題に熱心だと言えるのは、人口抑制がすごい。農村に行くと、中国政府の政策としてこれほど人気のないものはありません。政府に対する恨みまである。それをおしてでも人口を抑制しようというのは、ある意味では中国政府がとっている最大の環境政策だと思いますが、そこにも目を向ける必要があるのではないでしょうか。
【明日香】
人口政策の話は簡単ではありません。数年前、NHKスペシャルで中国の農村の話を見ました。あるカップルが、1人目が女の子だったので男の子がどうしてもほしい。だから、見つからないように、水もない、医者もいない山奥に隠れて、夫だけがつきそって子どもを産むという話でした。中国の新聞ですが、2人目を産もうとしている妊婦がいる家を、村長さんたちがブルドーザーでまるごと壊したという話も読みました。
世界は中国の人口政策に感謝すべきだと言う人がいます。私も同感だし、中国の人も、大部分の人が中国の産児制限は世界の環境保全に貢献していると思っています。しかし日本では、そういう認識はほとんどないですね。
それでも、いま中国では人が余っていて、失業が大問題になっています。今後どうするのか、中国の人口問題、失業問題は心が苦しくなるような問題です。
【高見】
大同の農村では、子どもは3〜4人が普通です。2人目から罰金がかかりますが、とれるものならとってみろと。家を継ぐのは男の子という観念の問題もありますが、実際問題としてあの広い畑を、人と家畜だけで耕す。天秤棒で何kmも水を担ぐ。男手がないとやっていけません。いくら政策でしばりあげても、どうにもならない。ある程度余裕がでてこないと無理でしょう。
これからは、沿海との格差の是正も考えないといけない。日本の中国に対する経済協力も、ほとんどが都市のインフラ整備だったのを、大きく変えないといけないと感じます。
【明日香】
環境問題の話をするとどうしても貧困問題にたどり着きます。貧乏だと環境に対する配慮ができない。たとえば、お金がないと高い石油や天然ガスを買えず、安い石炭を買うしかない。石炭を燃やせばCO2や有害物質がでて、その煙を吸うと身体が悪くなって、それでまた仕事ができなくなって、という悪循環があります。
石炭に関してもっと言えば、日本の場合大気汚染というと外の空気の汚染ですが、中国や多くの途上国の場合、屋内の空気の汚染も大きな問題なんです。家の中で石炭や薪や牛糞を調理に使います。そうすると煙が立ちこめる。それを吸うのは女性とその回りにいる子ども、特に赤ちゃんが多い。そうやって煙を吸うと、バケツ1杯分のタバコを毎日吸うのと同程度の有害物質を吸っていることになると聞いたことがあります。
いま中国で電気がない生活をしている人は6000万人かそれ以上いるそうですが、その人たちはまさにそういう生活をしているんですね。
貧困の問題をどうするのか。基本的には中国国内でもっとがんばれると思いますが、やはり日本が何をすればいいかを考えて、ODAもふくめていい方向にもっていければと個人的には思います。では、なにがいい方向でしょうか。
いまの日中関係を反映してか、日本の対中ODAは減る方向にありますが、環境ODAの割合は増えています。なんと、対中ODAのなかの環境分野の割合は8〜9割です。ただし環境といっても、地下鉄やモノレール、水力発電所など、みなさんがイメージする環境対策には必ずしも直接つながらないようなものが、金額的には少なからぬ部分を占めているのも事実だと思います。
ただし、日本のODAに関しては、日本国内で誤解があります。
まず、一人あたりやGDPあたりでは、世界一ではありません。また、日本のODAは円借款と無償が半分ずつぐらいです。
実は、ODAの中で無償部分が占める比率が、先進国の中でもっとも小さいのが日本です。そのような基本的事実を多くの日本人は知りません。
一方、ほとんどの先進国は無償が9割以上を占めています。ですが、日本の場合、半分、対中ODAだと9割ぐらいが借款です。ですから中国では、金利は低いけど最終的には返すのだから、日本の対中ODA
は、日本にとっては単なる投資じゃないかと思っている人が多い。一方、残念ながら多くの日本の人は対中ODAの大部分が無償だと誤解している。
本当は、まずこのような誤解をといて、それから日本は中国に対してどういう援助をしないといけないかに関して深く考えるべきだと思います。けれど、誤解のもとに、かつ、中国の環境悪化は、日本の環境にも越境酸性雨や黄砂で大きく影響するから、あるいはすでに影響しているから、というような単純な発想や大きな誤解で話がどんどん進んでいるのが対中ODA問題であり、対中ODAの環境シフトだと思っています。
【高見】
日本では対中ODAの評判が悪い。なかでも、「感謝が足りない」という不満が大きい。じゃあ、感謝してほしくてやってるのか、なんてことになりますし、逆効果にもなりかねない。
NGOに対する補助・助成にまで、中国側の感謝の気持ちが表現されることを考えるようになんていう要求がでてきて、やっかいなところがありますね。私たちにとって、地元の人たちといっしょにいちばんいいことを、現場で追及するのが大事だと思うんですけど。
【明日香】
中国の人とつきつめて話をしていくと、戦争の話になります。それも、日清戦争からですね。日清戦争のときに、中国が日本に賠償金をかなり払った。当時中国は非常に混乱していましたが、払ったことで混乱の度合いは増したでしょう。その後、満州事変、日中戦争とつづきます。
ですが、逆に、中国の若い人はそのあたりは考えていない人が増えてきている気もします。つまり、若い人は中国に自信をもってきていて、いまさらそんなことはいい、もう日本なんて眼中にないという感覚からそういう発言をしなくなる可能性もあるように思えます。どちらにせよ、やはり歴史に関しては、日本としてはもうすこしきちんとしたほうがいいと思うんですが、そう言うと日本では、差し障りがある場合が多いですね。
【高見】
日清戦争の賠償金は税収の3倍ほどだったそうです。それを払うために欧米に鉄道敷設権を売った。日清戦争がなかったら、中国はあそこまで切り刻まれて半植民地の状態になることはなかったんだと、彼らは言います。
戦争問題というときは、日清戦争までさかのぼるのが、普通の中国の人たちの歴史認識だと、私たちは知っておくべきです。
日中関係は確かに最近いい状態ではない。ですが、ぶつかり合うのはわるいことではないし、お互い思っていることを率直に言い合うほうがいいと思います。ただ、相手に対する無知の上になりたつ罵詈雑言は困りますけどね。
【明日香】
知ってさえいればいいとは思いませんが、コミュニケーションをするにはある程度知ることが必要です。たとえば謝罪問題。日本はもう何回も謝罪している、何回謝罪すればいいんだと言う日本の人が多いですね。では、日本はいつどのように謝罪したのか、少なくとも政府が公式的に言っているのはなにか、みなさんご存じですか。
溝口雄三さんという方が『しにか』という雑誌に書かれたのですが、日本政府が公式に謝罪と発表しているのは、95年の8月15日、当時の村山首相が閣議で決定したものを記者会見で発表したんです。日本の人はアジアに対していろいろ悪いことをしたと。それが、基本的に日本の外務省が言う「謝罪」です。
一方、2000年に朱鎔基が日本に来たときに、私は謝罪をもとめにきたわけではない、しかし日本政府は文書で公式に中国に対する謝罪はまだしていないと言いました。
問題は文書にしているかどうかで、95年の談話は文書ではないし、日本の外務省は文書にする気はないと言っています。ですが、イギリスに対しては、日本は謝罪の文書を出しました。イギリスに出して、どうして中国に出さないんだと、中国の人は思っている。
だいいち、日本の記者会見での発表が、中国に対して正式に謝罪したことになるでしょうか。迷惑をかけた相手のところに出向いて謝るのが筋ではないでしょうか。かつ、中国側では人民日報に小さくのっただけで、人民日報というのは、ご存じのように、中国ではあまり信用のない新聞ですから、全然伝わっていないわけです。
そういう意味では、この問題は20世紀に解決できずに、21世紀に残された問題だと思います。ところが、こういう事情を知っている人は、たとえば、東北大学の学生に私が授業で聞いても100人に1人か2人もいないのが現実です。
【高見】
話題を変えたいんですが、その前にひとつだけ。外交とか交渉の基本は自分の弱いところは隠して相手の弱いところをつくことですよね。ところが、この前の小泉さんの靖国参拝は、その逆です。日本が中国を侵略したという誰もが知っている事実をないことにして、靖国神社に行って、なんで平和のためだなどといえるのか。
大同には炭坑労働者の遺体が廃坑に投げ込まれた万人坑があります。去年の10月、立派な案内板が整備されて、カラー印刷のパンフレットもできた。小泉効果です。中国人だっていつまでも悲しい思いはしたくないし、遺体を放置しておきたくはないだろうけど、いまのような関係だとあのまま置いておくしかない。日本側がなかったことにしようと言うなら、もっときちんとしなければいけないという、まさに小泉効果だと思うんです。
ちょっと話題を変えて、ODAのとこにいきましょうか。
【明日香】
対中環境ODAはどんどん増えています。その8割ぐらいが、モノレールや、地下鉄や、水力発電所をつくる円借款で、残りでちょこっと植林をしたり、というのが対中ODAの現状です。逆に、環境でなければ対中ODAは許されないという感じです。ですが、言うまでもなく、環境分野が増えれば、他の分野が減ることになります。それが本当にいいかどうかは疑問です。もちろん、環境ODAの中身も重要です。
ODAに限らず、日本と中国がどう協力すればいいのか。難しい問題ですが、ここでは、脱硫装置の例をあげて話をしたいと思います。
大気汚染の問題のひとつが、発電所からでる煙の中に硫黄酸化物が含まれていて、その煙を吸って喘息になる、ひどくなると死ぬこともあるというものです。日本では70年代に大問題になって、発電所に脱硫装置がつけられました。その脱硫装置の技術を、日本から中国に移転すれば解決するというのが一般的な考え方ですね。ところが、そう簡単な話ではありません。
日本の場合は大きな発電所があって、そこに脱硫装置をつければある程度SOXの排出を減らすことができた。脱硫装置は数十億円かかるものであり、日本の場合、政府がいろいろな形で補助金を出しました。その結果、いまの排出量は1960〜70年代の10分の1くらいにまでなっています。
中国の場合は、石炭をつかう小さなボイラーが非常にたくさんあります。したがって、日本より3桁か4桁ぐらい大きな数の小さなボイラーに使える脱硫装置が大量に必要なんです。そのようなものはありませんし、経験もないです。つまり、日本の経験や技術が簡単につかえるような状況ではありません。
さらに、日本の発電所の脱硫装置は湿式という方式であるため、水をたくさんつかいます。ですが、中国は水がないので乾式にしなければなりません。日本には乾式脱硫装置の技術の蓄積がない。ですから、一概に技術移転と言っても日本の技術を移転すればいいということではなく、そういう意味からも中国の環境問題は一筋縄ではいかない状況だと思います。
水の問題ですが、中国は本当に深刻な状況で、半分冗談、半分本気に、北京を遷都しなくてはいけないと、そういうことが議論されています。実際地下水がどんどんなくなって、地盤沈下がかなりの規模で起きているという話も聞きます。
配管の水漏れの問題もあります。中国のトイレの配管で漏れている水の1%を節約できれば600万人に人に対して1年分の水を供給できるといいます。つまり、雨が少ないなど自然条件でもともと少ないうえに、浪費もしている。その浪費も、水道管を全部直すのは大変なインフラ整備をしないといけないので、一朝一夕に改善できる問題ではないと思います。
Q&A(会場から、途上国の対外債務キャンセルの問題、タイド・アンタイドODAの問題について意見表明あり)
【明日香】
とにかくODAについては、いろいろ問題はあると思います。
まずタイドに関して。日本の場合1990年ぐらいには(タイドが多すぎるという批判を受けて)ほとんどアンタイドにしたんです。ところがこの2、3年、タイドが増えまして、いま3割ぐらいがタイドになっています。そのタイドの中身の多くが環境円借款なんです。
それはなぜかというと、1997年に環境円借款という制度をつくって、金利をほぼゼロにした。そのかわりに、タイドにしたわけです。そういうわけで、ODAは日本の企業のためにあるわけじゃないというのが、ODAに関する批判に対して外務省の方がよく言う反論ですが、現在は、日本企業のためという色合いが逆に強くなっています。また、アンタイドの場合でも、中身をみると日本の企業が受注しやすいとか、大きな案件は日本の企業が受注しているとか、そういう話も聞きます。
債務取り消し(キャンセル)に関して。借金は返すべきだと私も思いますが、対中国に限らず一般的な日本のODAに関しては、やはり他の先進国のODAとやり方が違うんですよ。
現在、債務取り消し、特にアフリカの国が債務をもう返せないから債務をキャンセルしようという動きが先進国の中にあります。ですが、日本政府だけがキャンセルはいやだとこだわっている。それはどうしてか。
本音は、日本政府はたくさん貸しているからキャンセルされると困るからです。ですが日本政府は、とにかく借りたものは返さなきゃいけない、途上国は自立が大事だ、ということをすごく強調します。それ自体は間違いではありませんが、ちょっと言い過ぎではないかと思います。
どういうことかというと、もし、自分の子どもなり親なり親戚がお金がなくてほんとに食べられなくて死んでいくような状況だったら、何も言わずにお金や食べ物ををあげるでしょう。そういうときに、子どもが悪い、親なり親戚なりが働かなきゃいけない、仕事をしないからいけない、お金がないのが悪い、とか言って、見捨てることはないですよね。
もちろん、他の先進国のODAも問題はたくさんあります。途上国政府にも問題はあります。ですが、あえて日本に厳しく言いますと、日本は、結局は途上国にお金をあげたくないんだと思います。
その背景には、その国なり場所が日本から遠いから、自分たち日本人とは違うから、自分とは関係ないから、という強い意識があって、そういうことを言うのではないかなと思います。
でもそれは外務省だけの問題ではなくて、日本人全体の問題でもあります。
日本人は、中国にかぎらず、アフリカなり途上国の、まさにいまどんどん死んでいる人がたくさんいる状況で、そういう人たちをどういうふうに考えるか、そのうえでODAをどうするべきか、他の国はどういうふうにしていて、それと日本はどう違うのかというところからもっと議論をするべきだと思います。そして日本はこれから国際社会でどうやって行くのかを深く考えることも必要です。
しかし、なぜか日本のODAの議論になるとどうしても、日本がこれまで世界一のODAをしてきたけれどあんまり感謝されていない、だから減らすべきだという単純な話になっている。それはおかしい、すくなくとも、日本のODAは単純に世界一とか言えるものではない、と思うのでなんとか誤解だけでも解きたいと思うのですが、理解をしてもらうのはなかなかむずかしいなというのが正直なところです。