電話(1)

 

 

 

ここミュンヘン郊外のリハビリセンターに隣接する宿舎。

 

ドイツ遠方、もしくは海外から有名なスポーツ選手の常宿となっているリハビリを受けている者が厳しい審査を受けて

 

入所できるこの場所。そこに手塚はひとりで暮らしている。同室するものはいない。

 

もっとも同室する者でもいれば、もっと早くパソコンの回線を繋ぎ、電話回線も専用に使えるようになっていただろう。

 

手塚が入る前は誰も使われていなかったこの部屋だったため、回線を接続するために一週間は必要だった。

 

日本のようにあっという間に使えるようにはなっていない。

 

手塚の持ち込みのパソコンの機種、その他、入所に必要な手続きがノンビリと処理されたため、回線そのものは

 

2日で使用可能になったものの、使用許可が下りなかったのだ。

 

それが、跡部に連絡をすることが遅れた理由。

 

それを知らない跡部はドイツへ経って一週間も経つのに全く連絡のない手塚に苛立ちを覚えずにはいられなかった。

 

(これでやっと跡部に電話ができるな。・・・・アイツ・・・怒るだろうか?すぐに電話をしろ!って煩く言ってたからな。)

 

苦笑しつつも電話を楽しみにしている自分に自嘲する。

 

ああ、自分がこんなにも寂しがりやだったのだと。

 

 

 

 

 

「今日も電話もメールもなしか・・・・」

 

そう呟くのはベッドへ入る前の跡部の恒例になったボヤキ・・・

 

身体を合わせ気持ちが一つになったのだと信じていた彼にとって、こんなにも手塚の声が聞けないことが

 

辛いなんて思いもよらなかった。

 

「アイツにとって俺はどれだけの存在なんだ?電話もしねぇ〜〜で!くそっ!」

 

会えないだけでも耐えられないのに声でさえ聞けないこの状況に苛立ちを通り過ぎ哀しさが心に沁みてくる。

 

そして、本当に手塚は自分のことが好きなのか?という疑問まで浮かび上がってくる。

 

手塚が好きでもない相手に身体を許すなんてことはしない、なんていうことは今の跡部の頭の中に微塵も浮かんでこない。

 

ただ、ドイツへ旅立って一週間以上にもなるのに連絡してこない事実に怒り、哀しみだけが押し寄せてくる。

 

「手塚・・・・電話くらいしてきやがれってんだっ!」

 

口が悪くとも迫力のない言葉はすぐに闇に沈んでいく・・・

 

「くそっ!眠れねぇ!」

 

ベッドへ入っても考えるのは手塚のことばかり。

 

結局、頭が冴え目も冴えた今、ベッドの中で、のたうち回っていても仕方がないと思った跡部はシャワー室へと向かう。

 

(この俺様が誰かの電話を待つだなんて今までじゃ考えられねぇな。本気で好きになったのが男である手塚だなんて!ったく!どうかしてんじゃねぇ?)

 

なんてひとりごちてみても、それは虚勢で自分を誤魔化しているだけ。

 

本当は会いたくて、声が聞きたくて、好きで好きでいつも側にいて欲しい・・・

 

そう思っているのに声にすることができない。たとえ周りに誰もいなくても、そう素直に言葉にすることさえできない。

 

まだ始まったばかりのこの恋愛に対して恋愛ゲームに慣れている跡部でさえ、本気の恋を前にしては

 

「恋をする純粋な中学生」に戻るのだった。

 

シャワーを無駄に長く浴びる跡部の耳に、この時、部屋でけたたましく鳴り響く電話の音を知るよしもない。

 

 

 

 

やっと回線が繫がり電話の許可が下りたのに電話の呼び出し音が途切れることはなかった。

 

何回も何回もコールし続けているのに一向にその呼び出し音は止まない。

 

「今、日本は確か23時だと思うが?」

 

土曜日の深夜なら跡部は在宅しているだろうと狙ってこの時間に電話をした手塚の期待を裏切るように鳴り続くコール音。

 

まさか、自分が日本にいなくなった途端に自分以外の男、もしくは女とデートだろうか?

 

そういえば、跡部と忍足は仲が良かったな。とつまらないことが思考を過ぎる。

 

女性にも人気のある跡部のこと。来るものは拒まずということを不二が言っていたがあれは本当だったのだろうか?

 

好きだ・・・と言ってくれた言葉は嘘だったのか?

 

俺がドイツへいなくなった途端に心も離れていったのか?

 

手塚らしくもない不安が深まるのは何度呼び出しても繋がらない電話のせい。

 

やっと自分の気持ちに気づき、跡部と思いが通じ合った途端に自分のドイツ行きが決まり

 

決して幸先のいい付き合いではない。

 

だが、跡部を想う気持ちは本物、跡部が自分を想う気持も本物・・・と信じているのは自分だけ?

 

少し・・・いやかなり同様する手塚は受話器をそのまま元の場所へ戻す。

 

「はぁ〜〜」

 

自分のため息が部屋へ響き、思った以上に自分が跡部に対して依存していたのだと理解し、

 

そして、重病な心の病にかかった患者のような深く大きなため息に驚きを隠せない。

 

会いたいと思ってみても、声が聞きたいと思ってもどうすることができない。

 

日本にいれば簡単に声が聞けたのに、簡単に会えたのに・・・

 

今の自分の状況では跡部の存在を確認することができないのだと電話が繋がらない事実に始めて自分は

 

遠いドイツへやって来たのだと自覚する。

 

どうやったって縮まることはない距離、時間・・・そして気持ちまでもこの距離と時間同等に開いていくのか・・・と不安が広がる。

 

電話が繋がらない以上、とるべき手段はメールしかない。

 

(本当は声が聞きたかったのだが・・・・)

 

仕方なくパソコンを立ち上げメールを打つ準備をする。

 

 

 

 

シャワーを長く浴びてしまった跡部が、その間に手塚から電話があったことなど知る余地もない。

 

跡部の部屋にある電話は部屋の装飾に合わせ優美なデザインのもの。

 

留守電なんてついていない。

 

急な電話は携帯にかかってくる今のご時勢、部屋の電話さえ必要ないほどなのだ。

 

だが、今回はそれが仇となり・・・・

 

シャワーを浴びたことにより精神状態も安定したのか、ベッドへ入るとすぐに睡魔がやってきた。

 

そして手塚を思う気持ちを抱えたまま夢の中へと入っていく。

 

 

 

日曜日だというのに平日よりも早く起きてトレーニングする跡部が再び自室へ戻ってくるのはお昼チョット前。

 

習慣になっているパソコンのメールのチェック。

 

覗いてみるとくだらない広告メールばかり。

 

削除をするその手は単調なリズムを刻む。そのリズムがパタッ!と止まったときに目にした送信者名・・・

 

Kunimitsu Tezuka

 

「えっ?手塚からメール?」

 

『跡部へ

中々連絡ができなくてすまなかった。今、電話をしたが繋がらなかった。お前はこんな時間に何をしていたんだ?

声が聞けなくて残念だ。 また連絡する。』

 

短い文章だったが、なんとなく怒りが含まれているように思える。

 

「電話をしただと?いつ?」

 

送信時間を見ると昨夜の23時過ぎ・・・・

 

「チッ!シャワーを浴びている時間じゃねぇかよっ!なんだよ!タイミングわりぃな==!今、ドイツは何時だ?

 

・・・と・・・夜中じゃねぇの!ったく、こっちから電話もできねぇのかよ!・・・ん?ってくそっ!

 

手塚のバカヤロー!電話番号くらい書いておけっての!」

 

そう、メールには電話番号は記載されていない。

 

また待つだけの状態に陥る跡部はただただ大きなため息を漏らすばかり。

 

 

 

 

*****

コメント

 

あ〜〜電話は他からでもかけられるだろ!と突っ込まないように!(笑

ドイツでもどこでも、今やインターネットの接続は簡単で一週間も必要はありません(笑

お話しですからぁ〜〜^^

瀬里

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2005.8.5