電話(2)
すれ違いの電話から3日後、やっと二人は回線という絆を繋ぐ。
「もしもし?俺だ」
「ああ。」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
久し振りの声だというのに会話の始まりはこんなもの。
どっちも切り出す言葉を失う。
「おい、手塚!」
「ん?」
「俺は決めたぞ!」
「何をだ?」
「ドイツへ行く!」
「えっ?」
「ドイツへ行くったら行くぞ!いいな!すぐにチケットの手配をする。便がわかったらメールするからよっ!」
「おい!ちょっと跡部!お前、急にそんな大切なことを勝手に決めるんじゃない!」
「何言ってんだ?嬉しくねぇのかよ?もっと喜べよ?俺様がドイツへ行ってやるって言ってんだぜ?」
「そんな簡単に決められることじゃないだろ?よく考えてみろ!学校はどうする?部活は?親御さんにはなんて言うんだ?」
「そんなくだらねぇことをグダグダ言ってんじゃねぇよ!人の決断を濁すようなことを言いやがって!
学校は一週間くらい休んだってどおってことねぇよ。俺様の成績で文句を言う教師なんていねぇぜ?部活も安心しろ。俺は既に
引退している。」
「引退?」
「ああ、お前達はまだ全国大会があるから実感ねぇだろうが、俺達氷帝は関東大会で負けたからな。もう3年は引退だ。」
「・・・・・・・そ、そうか・・・・だ、だが・・・ご両親にはなんて・・・」
「心配するな。ドイツにも俺様の別宅がある。そこでテニスの練習でもしてくるとでも言っておくぜ!とにかく行くからな!」
「しかし・・・・・」
「おい、お前、まさか俺様に会いたくねぇってんじゃねぇだろうな?」
「そんなことを言ってるんじゃない!」
「そんなに怒鳴らなくたっていいだろ?俺がドイツへ行くと言ってもお前、ちっとも喜んでねぇだろ?」
「いや、喜んでないわけじゃないんだが・・・」
「じゃあ、何故喜ばない?」
「喜んでないわけじゃない。本当は・・・・」
「あん?」
「本当は・・・・そ、その・・・・・」
「なんだよ!はっきりしろよ!電話代が勿体ないだろ?」
「こんな時に、電話代のことなんか言うなんて、お前、意地が悪い・・・・ちっとも勿体無いなんて思ってないくせに・・・・」
「ああ、そうだよ!電話代なんかどうでもいい!せかさないとお前がすぐに言わないからだ!んで?なんだよ?」
「あ、あの・・・・・」
「おい!ハッキリしろよぉ〜〜」
「ゴニョゴニョゴニョ・・・・・・」
「ああ?」
「いや、だから・・・そ、その・・・・・」
「手塚!」
「あ、ああ・・・えっと・・・・お前が来ると・・・・その・・・リハビリが・・・できなくなる。」
「俺が邪魔なのか?」
「そうじゃなくて・・・・」
「じゃあ、なんでだ?なんでリハビリができなくなるんだ?」
「り、リハビリする時間が・・・・勿体無い・・・お前が来たとこでせいぜい一週間位しかドイツにいられないんだろ?」
「・・・・・・・・・・・・・」
「跡部?」
「て・・・・て・・・づ・・か・・・・お前、自分が何を言ってるのかわかってんのか?」
「えっ?」
「えっ?じゃねぇよ!そ、それって、俺とずっと一緒にいたいから時間が勿体無い・・・っていうわけだろ?」
「えっ?いや・・・そういう意味じゃなくて・・・/// ただ、せっかく来てくれてもあまりゆっくりできないから・・・・」
「おい!」
「いや・・・と、とにかく・・・・来る必要なない。」
「はぁ?まだそんなこと言ってんのか?俺は絶対に行くぜ!」
「ダメだ!!来るんじゃない!いいか?俺はリハビリに専念したいんだ!そういうことだ。」
「てめぇ〜〜の言うことなんか聞いてられっか!行くからな!」
「どうしてお前はそう我が儘を言うんだ?」
「我が儘だって?お前に会いたいってのが我が儘だっていうのかよ!」
「ああ、そうだ。普通、ドイツまでの距離を考えるとそう簡単に会えるものではない。俺が帰国するまでの辛抱だ。我慢しろ!」
「俺様が普通にして待っていられるかっての!お金なら問題ない!」
「お金の問題を言っているんじゃない。俺達はまだ中学生だ。簡単にお金をどうこうする資格はないことはもちろんのこと、
お前はまだ学校に通う身だ。無理する必要なないと言っているんだ。」
「・・・・・・・・・・・・・チッ!俺はお前が好きだから会いたいって言っているだけなのに、お前は俺に会いたくないんだ。
わかった。もういい!」
「おい!待て!跡部!」
結局、久し振りの電話は喧嘩をしたまま跡部の手によって切断されてしまった。
はぁ、と眼鏡を外し大きくため息を溢しながらベッドに腰を下ろし跡部の怒鳴り声を思い出す。
本当は自分だって跡部に会いたいと心の底から思っている。
だが、ドイツまでの交通費のことを考えるといくら金持ちの跡部とはいえども簡単に喜べることではない。
待てばいいのだ。待ては無理してお金を使う必要はないのだ。
子供の頃から物を無駄に使ったり乱暴に扱ったりすることを許されずに育てられてきた手塚にとっては
会いたいから・・・というだけの理由で数十万も使うことは許されるはずはなかった。
だから、我慢するのだと・・・
一方、投げ捨てるように受話器を戻した跡部は既に後悔の域にいる。
好きだからこそ!会いたいからこそ!ドイツへ行こうと思っていた。
お金なんて問題じゃない。会いたければ素直に会って抱きしめてキスをして・・・
だから、ドイツへ行くことも学校を休むことも何も問題はなかった。
なのに、喜んでくれない手塚に苛々が募るばかり。
どうして、喜んでくれないのか?どうして会いたいと言ってくれないのか・・・
本当に俺のことが好きなのか?
自分は彼に会えないことで寂しくてたまらないのに、アイツは寂しくないのか?
好きなのに何故?俺が行くって言ってるんだからそれでいいじゃないか?
怒りと哀しさに手塚と同じく大きなため息が流れる。
お互いの想いは同じでもまだまだ心遣いはすれ違うばかり。
それからほどなく過ぎたある日・・・
手塚は忍足からメールを受け取る。
「×日フランクフルト夕方着だそうやでぇ〜〜。迎えに行ってやれぇ〜〜」
たった2行だけのメールに大きくため息をつく。
果たしてこのため息がどういう意味なのか・・・・間違っても呆れた・・・という種類のものではなさそうだ。
そして、薄っすらと口の端が上がったように見えたのは気のせいなのか・・・
あとがき
(1) である前編とこの後編は本来、1つの作品として書く予定でしたが
中々書くことができず分けた上に後編が遅くなったことをお詫びいたします。
さて、この「電話」の後のお話がサイト開設に向けて書いた『7tage in Deutschland』です。
話しが続くように書きました。
ですが、処女作である「7tage〜」は、もうあまり読んで欲しくない・・・(苦笑
ですから、しばらくしたら、こちらの作品は移動したいと思っています。
この後は帰国してからの二人。
そして、アニメとは少しずつ話しが変わってくると思いますが成長する二人を
書いていければと思っています!
これからもよろしくお願い致します。 瀬里拝
2005.9.16