平成疑問かなづかひ−假名遣標準化計劃

便覽凡例

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(一) 編輯方針

この便覽は實務上で正假名遣を誤りなく實施する指針として、

  1. 假名遣の疑義が生じる語および漢字音
  2. 假名遣の理解および記憶に資する語

を輯録し、簡明的確な解釋を施した。

(二) 見出し語の採集基準

  1. 古來の假名遣教科書にある語。福田恆存『私の國語教室』および山田孝雄『假名遣ちかみち』所收の語はすべて採り、その箇所〔恆3-5〕〔近11〕のやうに注記した。
  2. 前項に漏れた語。明らかな複合語はなるべく避け、また現代日常で用ゐられる語を優先させた。主として『日本國語大辭典(第二版)』『學研漢和大字典(初版)』『岩波古語辭典』『大日本地名辭書』の記述を參考にした。
  3. 通常の辭典類で調べにくい語。すなはち地名・人名・新語・俗語など、專門にわたるものであっても、歴史的假名遣の探索につとめた。
  4. 規則的な漢字音は、たとへ假名遣にかかはらなくても、常用のものをすべて輯録した。
  5. 假名遣の理解および記憶に資する語は、語そのものが難解であっても積極的にあつめた。

(三) 文字表記

  1. 文字表記は國語の正格に遵ひ、縱書き正漢字正假名遣の漢字かなまじり文を用ゐた。小書き假名「ゃ、ゅ、ょ、っ」を採用したが、これを勸めるものではない。
  2. 漢字音で「ィ、ゥ」の小書き假名を使った箇所もあるが、これは「-ng」音由來の字音である事を示す。單純に説明のための便宜であり、このやうに表記する習慣は他に存在しない。必ず「イ、ウ」に讀み替へてほしい。
  3. 漢字音は片假名を使った。音訓が混ったものは「テフつがひ」「ゆひナフ」のやうに一語の内であっても書き分けた。
  4. 近世以降の外來語、現代假名遣および發音を示す時は、片假名および長音符號「ー」を用ゐた。
  5. ローマ字は漢字音の性質を理解するための補助的なものであり、實際の發音を正確に反映したとは限らない。

(四) 排列

本文見出し語は、正假名遣による國語辭典式五十音順でならべた。すでに出版した『平成疑問假名遣(平成十七年版)』では「親切な古語辭典式」と稱し、積極的に空見出しをたてたが、このhtml版では割愛した。

(五) 各項目

「あいにく」「イ」「ジ」の三例を擧げ、本文の構成を解説する。ただし繁をさけるため實際の記述を一部省略してゐる。

1.「あいにく」

あいにく【生憎】〔恆5〕 [源]古語あやにく。「あや」は感動詞(岩)。相憎(あひにく)ではない。→()える。生憎(あやにく)柳絮(リウジョ)ハ綿ヨリモ白シ(杜甫)。


種類内容解説
見出し語の假名表記あいにく 
その漢字表記【生憎】 
その現代假名遣い表記アイニク同じであるため省略。
語の種類など〔恆5〕『私の國語教室』3章5に收録。
語の解釋など[源]古語あやにく。「あや」は感動詞(岩)。相憎(あひにく)ではない[源]は語の由來を、(岩)は『岩波古語辭典』からの引用。 
()える。「生()える」の見出し參照。
語を使った例文生憎(あやにく)柳絮(リウジョ)ハ綿ヨリモ白シ(杜甫)。 

語の種類などは以下のとほりである。

〔恆5〕福田恆存『私の國語教室』の第三章五項に該當の語がある事を示す。
〔近11*〕山田孝雄『假名遣ちかみち』の第一一ページに該當の語がある事を示す。「*」は、山田忠雄の補記がある事を示す。
〔動物〕〔植物〕共に近年では假名書きが多いものを示す。
〔佛教〕佛教關聯の語彙であり、サンスクリット語由來・呉音讀み・唐音由來のものなど。
〔地名1000〕〔姓名〕共に近代以前から續く國内の固有名詞。「1000」などは『大日本地名辭書』の第1000ページに該當の記述がある事を示す。
〔外來〕近代以降の外來語。また地名人名など主として片假名書きのもの。
〔表音〕「行列揃へてアレワイサノサ」のやうな擬音語で假名遣が適用されがたい語。または「丁丁タゥタゥ」のやうに上代から續く擬音語であり、假名遣をよく保存する語。
〔聯綿〕猶豫ユウヨ」「從容ショゥヨゥ」「逍遥セウエウ」のやうに、子音や母音を揃へた漢語。
〔同源〕たとへば「あきらか」と訓ずる漢字には「晃、煌、章、晶、昌、杲、晧、皓、皋」など樣々あり、しかも字音假名遣も共通性がある。このやうに、何らかのつながりが感じられる漢字を摘録した。

また補助的な記號は以下のとほりである。

(/) 漢音ならびに呉音。「生(セィ/シャゥ)」の如し
[源] 語源を示す。たとへば「あいにく(生憎)」が「あやにく」に由來するなど。
その語からわかること。例へば「從容ショゥヨゥ」といふ語はヨゥといふ韻を踏むため、「ショゥ」「ヨゥ」である事が導かれる。
= 同源である。たとへば「章=晶=昌」なら、それぞれショゥの共通性をもつ。
參照項目を示す。
例文を示す。

2.「イ」

コウ
クヮゥ(kuang/huang)43uhh廣(広)曠(昿)44uh鑛(鉱)礦(砿)
コウ(kou/hou)\51h
▼工を音符とする形聲文字は、大きく二系統に分れる。
 ・工虹功攻紅汞訌鴻貢箜(コゥ/ク)
  空控倥(コゥ/クゥ)
 ・江項扛杠矼缸肛槓腔(カゥ/コゥ)漢音優先

種類 内容 解説 
發音 コウ  
漢字音の假名表記 クヮゥ 實際には「クヮウ」または「クワウ」。
漢字音の理解を助けるためのローマ字 kuang/huang 概念的なローマ字。子音にk・hの二流あり。
漢字音が所屬する韻部(廣韻) 43u 43は「唐蕩宕韻」、uは「合口」の意。
漢字 h hは「huang」が源流の意。「\」は形聲文字別の境界線。
漢音呉音の別 」・「」・「慣」・「唐」 」は漢音、「」は呉音。他は慣用音、唐音。
必要に應じて注意點などを示した ▼工を音符とする形聲文字……  

3.「ジ」

(zi)07z\07z\07r\07r
(di)06\07
▼寺侍恃時蒔(ジ)、持痔峙(ヂ)、(形聲音符は())
 待(タイ)、等(トゥ)、特(トク)、も同じ形聲文字

種類 内容 解説 
發音  
漢字音の假名表記  
漢字音の理解を助けるためのローマ字 di  
漢字音が所屬する韻部(廣韻) 07z 07は「之止志韻」。「z」は子音が「齒音」。
漢字 同じ形聲文字が他の假名遣にまたがるものは太字。「ヂ」は呉音。

廣韻の所屬韻部は、四聲相配の通し番號とした。付加記號は次のとほりである。

記號 内容  
u 合口  
d 泥母・孃母以外の舌音子音 タ行またはダ行。
n 泥母・孃母 漢音ダ行、呉音ナ行。
z 齒音 サ行またはザ行。
r 日母 漢音ザ行、呉音ナ行。
h 曉母・匣母 日本ではカ行だが、本來はハ行的。
+   『廣韻』で異る韻にも所屬してゐるもの。