
私ごときがマエストロの音楽について語るのは畏れ多いのですが、最近ファンになった方や、これからマエストロの録音に接しようとする方にとって、僅かでも参考に(← なるかな・・・?)していただければ幸いです。
マエストロ・ジュリーニの音楽の特徴を問われたら、私は次の3点を挙げたいと思います。
@ 自分で納得した作品しか指揮しない
マエストロほどの経験と技術があれば、どんな曲でも破綻無く指揮することは可能だと思います。しか
し、マエストロは、その作品が「自分の血や肉になった」と感じた場合にしか指揮をしようとしませんでし
た。そのため、長いキャリアの割にレパートリーはそれほど多くはありませんでした。
ただ、見方を変えれば、それだけ音楽と自分自身に正直だったとも言えるのだと思います。そこが
マエストロ・ジュリーニの魅力の一つでもあります。
A ゆったりしたテンポ設定
特に1980年代以降、マエストロはゆったりしたテンポ設定を好むようになりました。
もちろん偉大なマエストロといえども人間ですから、年齢的な問題(筋力や瞬発力等、体力的な衰え)も
あったとは思います。しかし、御自身の発言等から察するに、第1の理由は作品の世界に広がりを持たせ
るためだったと思われます。
テンポが遅くなった分、音に込められる情報量(意味や表現)は増え、時には「重さ」を感じさせるまでに
なりました。この点は、聴く人の好みによって好き嫌いが分かれることと思います。それでも、あれだけの
緊張感を持続させることができるのは、さすがにマエストロ・ジュリーニならではと言えるのではないでしょ
うか。
B レガートやテヌートの多用
マエストロがオーケストラに対して出す指示でよくあったのが、「もっと歌って!」というものでした。
メロディー・パートのみならず、オーケストラ全体をたっぷりと歌わせるようにするため、レガートやテヌート
での表現が多く聴かれました。この点はやはり、イタリア人らしい感覚だったのでしょうか。
あのテンポと合わせて考えると、オーケストラやコーラスには、おそらく相当な負担がかかったことと思い
ますが、その分、大河の流れにも例えられるスケールの大きい演奏を聴かせてもらうことができました。
[ 録音時期別の特徴 (私見) ]
○ 録音前期 EMI時代
フィルハーモニア管弦楽団やシカゴ交響楽団との録音が多くありました。この時期の録音では、後年とは
異なり、颯爽としたテンポで突き進む表現も聴かれました。ただ、メロディー・ラインを中心にしなやかな歌が
聴き取れる点は、ずっと共通していると言えます。
*この時期の録音では、私個人は、ロッシーニの序曲集やドヴォルザークの交響曲(7〜9番)等を好ん
で聴いています。
○ 録音中期 DG時代
ロサンゼルス・フィルの音楽監督に就任した時期とも重なります。この頃からゆったりとしたテンポが顕著
になってきます。ベルリン・フィルやウィーン・フィルとの録音も行なわれるようになりました。重量感と緊張感
が絶妙のバランスで両立し、メロディーがしなやかさを持って流れて行く演奏が多く聴かれました。
*この時期の録音では、私個人は、ブラームスの交響曲(ロス・フィルとの1番・2番)やブルックナーの交
響曲(7〜9番)等を好んで聴いています。
○ 録音後期 SONY時代
マエストロの好きな曲を、一流のオーケストラと思ったままに演奏した、そんな感があります。テンポはま
すますゆっくりになり、レガート奏法での歌・歌・歌!ここまで個性的な演奏スタイルだと、当然好き・嫌いが
出てくると思います。私も正直、20代後半〜30代前半位までは「・・・???」という感想を持ったことが何
度もありました。
しかし、最近ではこの時期の録音も心に沁みるようになりました。特に、シューベルトやドヴォルザークの
交響曲では、聴き終えた後に静かな感動が長く続くことが多くあります。
全く個人的な感覚で言わせていただくと、これからマエストロの録音をいろいろと聴いてみようと思われて
いる新しいファンの方は、この時期のマエストロの演奏は最後の方に取っておいた方がいいのかもしれま
せん。(・・・・というようなことを言い出す私は、歳を取ったのでしょうね。・・・泣。)