ハナズオウ 


  
                                      ハナズオウ                                                                           


ハナズオウ                                                        4月の花

 四季のある国の春はどこも美しい。しかし、一つの国で時差が4時間も5時間もある大陸国家では、どの部分を切り取って春爛漫といえるのか、そこには南北に細長い日本とは違った春がある。アラスカやハワイを除いたアメリカ合衆国では、時差の違いと同じ、4種類の春があるように思われる。ロサンゼルスやサンフランシスコのある西海岸(Pacific Time Zone)、ニューヨークやボストンのある東海岸(Eastern Time Zone)、そして、ロッキー山脈とアパラチア山脈に囲まれたMID WEST(中西部:Mountain Time Zone)とMID EAST(中東部:Central Time Zone)の4つの地域である。このうち、日本の春に似ているのは、東海岸と中東部のようである。しかし、いずれも、多彩な日本の春には及ぶべくもない。どちらかといえばモノトーンの世界である。新緑の中で色を添えるのは、中東部ではピンク色のハナズオウ、東海岸では白や黄色のアメリカハナミズキ、住宅地や街路ではリンゴ系の白い花である。ピンク色のハナズオウが林間に輝いて見せるあでやかさは日本の桃や桜に似る。黄色いアメリカハナミズキは日本でのサンシュユに似る。リンゴ系の白い花は日本でのコブシに似る。しかし、いずれもそれだけである。日本の春の多彩さには比ぶべくもない。路傍の名もなき雑草もまた、その数が想像を超えて少ない。欧米は芝文化である。土が露出するのを毛嫌いするが如く、グランドカバー(地被植物:カバープラント)と呼ばれる植物で覆ってしまう。現地では日本特産と表記されているフッキソウやヨーロッパ原産のツルニチニチソウが各家庭の庭を覆っている。そして、アメリカ全土を隈なく覆っているかに見えるのが芝である。芝はこまめに刈り込まれる。背丈の高い雑草が花を咲かせ、実を稔らせることはほとんど不可能である。アメリカやヨーロッパ、はては、オーストラリアやニュージランドでも、路傍の雑草が少ないのはそのためと思われる。

 これからは、独断と偏見に満ちた私見である。これらの国はキリスト教という一神教の世界である。異端を極端に嫌う。エホバ・・・という信者に向ける他のキリスト教徒の視線の冷たさに慄然とした経験がある。八百万の神の民である日本人の信者でさえそうであるから他の国では・・・と想像してしまう。しかし、日本のキリスト教徒は、日本独自のキリスト教文化を築いているように思われる。イスラム世界を除いて、日本は世界で最もキリスト教が普及しない国の一つであるが、そんな日本独自のキリスト教文化と無縁ではないのであろう。イスラム教も一神教である。そして、イスラム教徒は口を開けば「イスラム教は平和な宗教である」と言う。しかし、一つの国の国民の8~90%が一つの宗教の教徒であるということには、“平和的”とは言えない歴史がある。コプトと呼ばれるエジプト系キリスト教徒であるスーダンの友人を、当然の如くイスラム教徒扱いをしていたら、「チッ、チッ」と人差し指を唇に直角に立てて言う。「兄弟よ(彼によれば、友人より親密だからお前を兄弟と呼ぶと言う。これ自体がアラブ的であるが)、イスラム軍が侵入してきて真っ先にやったことは、『金を出せ、さもなくばイスラム教に改宗せよ』とやったのさ。だから、貧乏人はみんなイスラムに改宗した。俺は、金持ちの子孫だからキリスト教徒さ」と言うのである。歴史的事実はこれと少し違うようであるが、過酷な租税に耐えかねてイスラムに改宗していったのは事実のようである。武力を用いて改宗を強要したのはイスラムの他には、八紘一宇の思想をアジアに強要しようとした“日本教”がある。徴用して戦地に赴かせた朝鮮人や台湾人に「天皇陛下万歳」と叫ばせて死なせた。その象徴が“靖国”である。死ぬば皆平等:“善人をもて往生をとぐ,いはんや悪人をや(歎異抄)”の死生観を持つ精神文化は、日本の伝統として世界に誇りうるA)。しかし、「罪を憎んで人を憎まずは孔子の教えでしょう」(小泉語録)と靖国参拝を当然視する粗雑さには、“小泉教”の熱心な信者でさえも、首をかしげたくなる。戦後教育を受けた今の政治家に、旧制高等学校の教養教育を受けた前尾繁三郎、大平正芳、中曽根康弘諸氏のような政治哲学を要求するのはないものねだりに等しいのであろう。戦後教育が何であったかを“問わず語り”している。その戦後の“民主教育”を受けたはずの方々が、お粗末としかいいようのない政策判断で国家を滅ぼした、昭和天皇の言葉を借りれば“足利尊氏如きものども(2・26決起将校への言葉)”になぜこれほど執着するのか分らない、というのが庶民の率直な感想であろう。自民党政治では靖国参拝が大臣になるための踏み絵にさえなっている感がある。戦後の日本人の自堕落さは日本教の喪失にある、と彼等は考えているようである。しかし、視野狭窄の極みで国家を滅ぼしたのは日本教の熱心な信者、ひょっとして教祖達であったことは事実である。それも戦前の教育を受けた“軍人政治家達”である。教育の違いを超えて、視野狭窄は遺伝子的に受け継がれているように見える。首相公選制でも導入されたらどうなるか、某国の政治的実験を見るまでもなく、想像するだに恐ろしい。

 政治の不毛さとは別に、世界で最も過酷と思われる高温多湿の日本の夏、豪雪の日本の冬は、それに見合った自然の恵みを用意してくれているようである。“不毛”に対置するに“多毛”である。FLORA(植物相)が実に多彩である。日本の面積(37.8万平方キロ)の25倍のアメリカ合衆国、20倍のオーストラリアより、植物の種類は多いと思われる。本稿の主題であるハナズオウは、九州では3月、枯葉が落ちて裸になった小枝にまとわりつくようにびっしり生える。これを幹生花という。名前の由来は、花の色が近縁のスオウ(蘇芳)で染めた色に似ていることからついた。蘇芳は飛鳥時代に中国から伝来し、これで染められた正倉院の木工芸品は今も鮮やかな色を保っているという(3)。デジカメ印刷等で苦労された“色の道”に経験がおありの方なら、染料の中で最も退色が激しいのは赤であることをご存知であろう。知人から頂戴した平山郁夫氏の版画―「清真寺」寧夏回族自治区、昭和61年7月3日―は全体が薄い青色で塗りこめられている中で、清真寺の屋根だけが赤く染められていたが、いつの間にか退色し価値が半減してしまった。

 アメリカハナズオウ(Cercis canadensis:英名Eastern redbud)は、セイヨウハナズオウ(C. siliquastrum:英名Judas tree)の一種で、中国を原産地とする日本のハナズオウ(C. chinensis)より花が小振りだが、樹高は倍の10メートル程度に達する。英名、redbudは蕾が赤いため、Judas treeはユダがこの木で首をくくって自殺した(マタイによる福音書)という伝説に由来する。なお、これらはマメ科の樹木とするのが一般的である(1)が、ジャケツイバラ科に分科する分類もある(2)

A) 日本の仏教思想の多くは、西域・亀慈国の仏教家クマーラジーバ(サンスクリット名の漢名、鳩摩羅什:344-413)がサンスクリット語で書かれた仏典を中国語に翻訳したものに依拠しているという。「色即是空、空即是色」が有名であるが、「悪人すら救われる」という思想は彼の宗教哲学であるといわれる。親鸞(1173−1262)の歎異抄が、彼にどのくらい影響を受けたかは定かではないが、日本の思想、文化は中国文明を抜きにしては語れないことだけは確かである。

(2005年5月29日アップロード)


                         ハナズオウ と ジャケツイバラ




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野上 暁一

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