目が覚める。
私は低血圧だからはっきりいって朝起きるのが苦手。
「んん…」
目が開かないままのびをした。
とりあえず起きなきゃ。お兄ちゃんに朝ご飯作ってあげないと。
私は高坂千景(こうさか ちかげ)って言って高校1年の女の子。胸が無いのが悩みの種。
その所為でスカートをはいても時々男の子に間違われるぐらい。
後輩の女の子の受けもよろしく、知らない後輩に
「そのお姿女装されているんですか?すごく似合ってます。素敵です」
なんて言われた時は思いっきり落ち込んだりしたんだけど。
まあそれはおいておいて。
父親がつい1週間ほど前に急に転勤の辞令がでて、単身赴任する予定だったのだけど
私は高等部になったばかりだし、お兄ちゃんは近くで就職が決まったばかりだから
「千景も高校生になった事だし、一人じゃないから大丈夫だよね?」
と子供2人を置いて夫婦で転勤先に行ってしまった。
ま、いいんだけどね。
なので今はお兄ちゃんと私の二人暮らし。
食事とか洗濯とか一応お兄ちゃんと交代でやっている。
今日は私が朝食当番の日なのだ。
「ん?」
何か下っ腹が痛い。
生理かな?
布団を上げてお尻の辺りを見た。
「ありゃりゃ…」
来ちゃったよ。
シーツに血がついてる。でも量がいつもより少ないな…って、
あ・れ?
前に生理が来たのって確か1週間前のはず。
…生理不順?
ストレスためるような事あったかなぁ。
でも…あれれ?
ここ私の部屋じゃない。でも、見覚えのある部屋だけど…どこだっけ?
……ああ、お兄ちゃんの部屋だ。
ん?
ちょっとまって?
私、昨日はちゃんと自分の部屋で寝たはず。
なのに、何で私ここで寝てたの?
「はっ」
もう一度布団をめくる。
さっきまで血の方に気がいっていたから気がつかなかったけど下半身すっぽんぽんだ。
「ええ───────!?」
何で何で何で?
私は回りを見渡した。
お兄ちゃん?お兄ちゃんどこよ?
本来ならこのベッドで寝てるはずの部屋の住人を捜す。
ん?
下からいい匂いがする…。
って事はキッチンか。
ベッドから降りた。
床に私のショーツとパジャマのズボンが無造作に転がっている。
それらを拾い、ショーツを履こうとして一瞬止まる。
あっと、ナプキン。
ズボンとショーツを持ってすごく間抜けな格好で自分の部屋に戻る。
引き出しからナプキンとクローゼットの引き出しから生理用ショーツを取り出すと、
急いで履いてその上にズボンを…
違う!着替えなきゃ。
私は制服に着替えてお兄ちゃんの部屋から私の血で汚れてしまったシーツを回収すると
階段を降りた。
汚れ物を洗濯機に放り込んだ後、キッチンを覗くと
お兄ちゃんは鼻歌交じりに目玉焼きなどを焼いていた。
テーブルにはすでにサラダも盛りつけてある。
どうして?
今日はお兄ちゃんの当番の日じゃないのに。
「あ……」
お兄ちゃんは私を確認するとこちらを向いてにっこり笑った。
「おはよう。千景」
私もつられてにっこり挨拶。
「おはよう。お兄ちゃん…じゃない!」
「ん?」
私はお兄ちゃんの側まで行った。
「朝、起きたらお兄ちゃんの部屋で寝てた。私夢遊病のケがあるのかな?」
「違うよ。僕が寝かせたの」
………………へ?
「じゃ、じゃあ、パジャマの下履いて無くて下着も履いてなかったんだけど。
ひょっとしてそれも?」
「うん」
????
「あっ。それから私、
今日生理が来たみたいでお兄ちゃんのベッドのシーツ汚しちゃったんだけど……」
「んー?」
お兄ちゃんはちょっとだけ考え込んだ後、意味深な笑いをした。
「ああ、あれか。あれは仕方ないね。気にしなくてもいいよ。洗濯すれば綺麗になるから。
それに記念になるかもしれないから。そのままとっとくというのもいいかもしれないね」
「???記念?どゆ事?ねえ、笑ってないで教えてよ」
笑ってるお兄ちゃんを揺さぶると
「あれは千景の初めての血だよ」
と教えてくれた。
「なんだ生理じゃなかった…ってええええええええ?」
お兄ちゃんは耳を手で塞ぐ。
「耳元で騒いじゃだめだよ」
私はお兄ちゃんにつかみかかった。
「何で?何で?何で?」
「何が?」
「何で私知らない間にお兄ちゃんとエッチしちゃってるの?」
「千景は僕が好きって言ったじゃない?」
「言ったよ言ったけどさ」
…うん。確かに。
お兄ちゃんは私とは血が繋がっていなくて
3年前に私のお父さんと彼のお母さんが再婚した連れ子同士。
初めて会ったのは中学に上がって間もない頃で
大学生になったばかりの彼に一目惚れをしたのだ。
でも、お兄ちゃんはそんな妹の気持ちを知ってか知らずか
週に2、3回は部屋に女の人を連れ込んでる。しかも、毎回違う人。
社会人になった今は少しは落ち着いてきたけどそれでも週末は帰ってこない事が多い。
そんな女の人に不自由していない彼に、私が告白したってきっと叶わない。
だからずっと言わないって思ってたんだけど…。
両親が転勤でいなくなった日。
これからは兄妹二人で頑張りましょうってちょっとハメを外して、
冷蔵庫にあったチューハイで乾杯♪なんてやって、いい具合に酔っぱらっちゃった私は、
その時お兄ちゃんと目があってすごくどきどきして玉砕覚悟で
「お兄ちゃんが好き…」って告白した。
お兄ちゃんはものすごく驚いた顔をして私の顔を凝視していたから
だんだんいたたまれなくなって
「あ、でもお兄ちゃん付き合っている人いるもんね。気にしないで」って付け足したら、
意外な事にお兄ちゃんは「僕もだよ…」って言い出した。
いつも連れてくる女性は何なの?
って思ったから、その場限りの嘘なんだと思ったから。
「うっそだー。だったら何であんなにいろんな女の人と付き合ってるのよ」
「だって、千景が僕を好きって思ってくれてるだなんて思わなかったから
千景の代わりに付き合ってたの」なんて返事が返ってきた。
その言葉にカチンってきた。
私の代わり?何それ?お兄ちゃんの事、真剣に付き合ってる女の人に失礼じゃなの。
そんなのたらしの方がまだましだよ。
好きでもない女の子と付き合ってエッチまでするなんて最低!
そう思ったと同時にお兄ちゃんを思いっきりひっぱたいていた。
お兄ちゃんはびっくりした顔で私を見てた。
自分を思っていてくれたんだから本当は嬉しかったんだけど…
でも女の人をないがしろにしたその態度が許せなかった。
だから私はその勢いでお兄ちゃんに言ってやった。
「何が私の代わりよ!お兄ちゃんが好きって言う女の人に
そんな付き合い方するなんて最低だよ!そんなお兄ちゃん大っ嫌い!」
そう言ったらいきなりお兄ちゃんはしょんぼりしちゃって
「どうしたら僕の事また好きになってくれる?」
何てしおらしく言うもんだから
「付き合った女の人全員と別れるの!その時にきちんと三つ指ついて謝ってきなさい!」
…って怒鳴った気がする。
かなり酔っぱらってたなぁ…。
「僕、千景に言われてあれからみんなと綺麗に別れてきたんだよ。昨日やっと全員すんだの」
全員…って何人付き合っていたんだ?
いや、とりあえずその事はおいておいて。
「よくすんなり別れてくれたね…」
「だぁって僕、正式に付き合うのって千景が初めてだもん。
みんな好きな人ができるまででいいからって言ってきた人ばっかだもん♪」
それもなんだかなぁ。
「でも、別れたからってこんな事しなくたっていいじゃない。
ひょっとして私に言われた事で怒ってた?」
「何で?別に怒ってなんかないよぉ。
僕はね…千景が初めてで痛がるのを見るのが嫌だからしただけだよ」
へ?
「だからね。昨日千景が飲んだジュースの中に一服盛って
寝ている間に破らせて頂いた…って訳」
「一服盛った…って?へ?へ?」
最初、お兄ちゃんが何を言っているか全然わからなかったんだけど、
そのうちだんだんと理解が出来て血の気が引いた。
「お兄ちゃんひどいよ。人の一生に一度しか体験出来ない事を勝手に」
「シーツがいい記念になるでしょ?」
お兄ちゃんはあっけらかんと返事を返してきた。
「違う、違うよぉ。何かこう『ああ、お兄ちゃんと結ばれたんだな…』とかそう言うのがさ」
彼は考えてもみなかった…って表情を一瞬したけどすぐにいつもの調子に戻る。
「んー。そっかー。でももう頂いちゃった後だからねぇ」
そう言って彼はお皿にさっき焼いてた目玉焼きをのせ始めた。
「ま、千景には僕がいろんな事をいっぱい教えてあげるからさ♪」
「さ♪じゃない!」
私の文句を聞き流しながらも
彼はてきぱきとそれはもう手際よくご飯を盛りつけたりお箸を並べたり…。
「さあ、出来たよ僕の自信作の朝食」
ジャ〜ンって感じで両手を広げて
何でお赤飯炊いてるわけ?
「だって僕と千景が一緒になった記念日でしょ?」
にこにこって言葉が似合うほど無邪気に微笑んでいる。
お兄ちゃんはそうかもしれないけど、私は?
眠っててなんにも…何にも覚えていないんだよ?
「さ、一緒に食べよ?」
全然気にしていないお兄ちゃんを見ていたら余計に腹が立った。
「お兄ちゃんのバカ───────!」
一声わめいてそのまま自分の部屋に行ってカバンを持って下に降りる。
「千景〜。僕の作った朝食食べないの?せっかく朝早く起きて作ったのに」
階段を降りると恨みがましそうに扉の隅でお兄ちゃんが拗ねてる。
ええい!うるさい。
私お兄ちゃんがこんな自分勝手な人だったなんて思わなかった。
こんな人を自分は好きだと思っていたなんて…。
ああ…もう。当分口を聞いてやるものか。
「ふう…」
私…もう処女じゃないんだ。
ぼんやりと教室の窓に映る景色なんか見てため息をひとつ。
お腹が少し重くて何かが股の間に入っているような感覚はするんだけど
後は特別変わった事なんて何もない。
友達の香奈恵ちゃんはすごく嬉しそうに萌ちゃんと私に報告してたけど
私、あんな感激とか感動とか…全然味わえなかった。
「はぁぁ…」
ため息を吐きながら机に突っ伏してそのままの状態で…まだ立ち直れない。
好きな人にあげられたらいいな…って思っていたけど。でも…でもさ、これはないよ。
自分はその瞬間に喜びを感じられなかったんだよ。
恋に恋する乙女としてはその辺のところはきっちりとこなしたいイベントのひとつだったのに。
お兄ちゃんの馬鹿〜〜〜!
私の処女を返せ〜〜!