虫師の森2
−4−

「あっ……ああっ……!」
神父様の動きにあわせベッドがきしんだ音を立てる。

堕ちるのは一瞬だった。
男である神父様が力任せに私の下履きをはぎ取り、
いきり立ったものを突き立てた瞬間に何も考えられなくなった。

良い虫を産むために作り替えられた私の身体は普通の女性よりも快楽に弱い、
とカインに言われてはいた。でも、カイン以外の人と関係を持とうだなんて考えてもいなかったし、
こんなにも自分の理性が弱いだなんて思わなかった。

だからなのだろう。相手がカインではないのに何度も高まりに突き上げられ、
その度にはしたない声を上げる。

神父様は幾度となく私の中に欲望を吐き出し、
休む間もなく何かにとりつかれたかのように私を犯し続けた。

「……あっ……ああっ……わたっ……あっ……イク……あっ……ああっ……!」
「リア……私もですよ……また……出します……」
「んあっ!……あはぁ……あうっ……ああんっ……」
のけぞり身体を小刻みに震わすと私の中で神父様が果てる。

「はぁ……はぁ……」
欲望をすべて吐き出した神父様は荒い息と共に中に入れたものをずるりと引き抜いた。
その瞬間、神父様の体液とともに私の恥ずかしい汁が股間からこぼれ落ちた。


◇ ・ ◇ ・ ◇



「あ……」
「いや、もうこんな時間ですか」
外が薄暗くなって、それに気づいた神父様は
汗を手の甲でぬぐうとベッドに腰を降ろした。

ぎしりとベッドが揺れると、おぼろ気だった意識が不意に明確になる。

私……一体何を……?

ゆっくりと思い出していく。欲望のままに神父様に抱かれてしまったこと。
それも一度だけじゃない。何度も自分から求めて……。

「ああっ」

私はカインを裏切ってしまったんだ……。

「どうしました?」
呆然とする私に神父様は私の頭を撫でた。

「こ……んな事をして許されると思っているのですか?」
「おやおや、もう正気に戻ってしまいましたか」
神父様は呆れたようにため息をつく。

「私は皆に一人の男に縛られる愚かさを教えたまでです。
あなただってあんなに喜んでいたではないですか?」
「喜んでなんて……」
「それにしても、外泊をすると言って出てくるべきでした。
そうすれば彼が帰るまでずっと味わうことが出来たというのに……
仕方がない。今日の所は帰るとします」
「今日は……ってまた来るのですか?」
「当然ですよ。あなたもこの一日だけで終わらせたくないでしょう?」
「もう二度と来ないでくださ……」
「しかし、次の機会となると何時になるか……」
神父様は私の返事を聞かずに一人考え込んだ。

「薬の注文ごときでは彼を教会に呼ぶことは出来てもあなたを呼ぶことは出来ない。
しかしまた同じ手を使ってしまうのも芸がありませんし、
彼に気づかせてしまう原因にもなりかねない。他に何か良い手は……ああ、そうです!」
顔を上げ神父様はおもむろにぽんと手を叩く。

「あなたを教会に連れて行けばいいのですよ。こんな簡単なことになぜ気づかなかったのか」

言われた意味が一瞬分からなかった。

私を教会に……連れて行く?
何を馬鹿なことを。

「私はすでに教会を離れた人間です。
それに夫もいるのにどうして戻らなくてはいけないのですか?」
「私がそれを望んでいるからです。それにあなたはもうここにはいられない……
そうではありませんか?」
「何をおっしゃって……」
「あなたは彼に不義理を働いたと思っているからですよ。
私が黙っていると言ってもあなたはそう言う子ですから」

「それを分かっていながら……」
「ええ、それでも抱きたいと思ってしまったのですから仕方がないでしょう?
彼が悪いのですよ。これでも私はあなたのことを心配していたのです。
なのにあまりにもあなたと会わせないものだから
逆に気になって意地でも会ってやろうと思ったのです。
しかし、会ってみればなるほどと頷けます。教会にいた頃とは雰囲気がまるで違う。
何も知らない純朴な娘だったあなたがこれほどにも全身から色香を漂わせて……
これで惑わないものなどいるはずがない。
確かに彼が私から……いや、男からと言ってもいいかもしれませんが。
会わせたくなくなるのも無理はない」
神父様は自分に都合の良い事を言葉を吐く。
あんまりもの身勝手さに吐き気がした。

「どうします?このまま良心の呵責におびえながら彼と暮らしますか?
それともまた、教会に戻ってきますか?」
「私は神父様に抱かれるつもりなんてまるで無かった。
神父様が私に薬を飲ませたから……」
「薬を使われたから仕方がない……と?」
「そうです。それにこのように私の自由を奪って……」
「しかし、彼が戻るまでには私が使ったという証拠はどこにも残りませんよ」
「え?」
「確かに、今、この場に来られたら薬の匂いが残っているかもしれません。
しかし、匂いも明日には消えるでしょう。私が薬を使ったという事はあなたの口からでしか分からないのです」
「な、なら」
「言うのですか?それは出来ないでしょう?
私が薬を使おうが使わまいがあなたは私と関係を持ったのです。
もちろん、このまま一緒に戻っていただけないのでしたら彼に伝えますよ。
あなたと関係を持ったと、あなたが腰を振って私を求めてきたと。
そうすれば否応なしにあなたは私の元に来ざる終えません。
どちらにせよあなたには選択権はないのです」
「そんな嘘を信じる訳ない……」
「それはどうでしょう?あなたよりも私の方が彼とは長く付き合っているんですよ。
どっちを信じるかは分かり切った事でしょう?」

そんなのって……。

ほろほろと涙を流す私に神父様はなだめるように声をかけた。

「ほら、泣くのはおよしなさい。私の元に来れば幸せになれるのですから」

「誰が幸せになれるって?」
不意に入口の扉が開き、聞き慣れた、愛しい人の声が聞こえた。

でもここにいるはずはないのに……。

「おや?」
「……カイ……ン……」
そちらに首を巡らすとローブを目深にかぶったカインが扉にもたれて立っていた。

「……おや、これは驚いた」
神父様は白々しくもカインに声をかけた。

「お早いですね。もう、戻られたのですか」
「うん、リアが心配だったから急いで戻ってきたんだ」
「戻るのは明日だと思ってましたよ」
「嫌な予感がしてね。馬を使ったんだ。そしたら案の定おかしな来客がいた……と」
カインはそう言い、こちらに近づいてきた。

「おかしなとは心外ですね」
「だってそうでしょ?どうしてあんたがいるのさ?」
「リアは私が育ててきた娘ですよ。様子を見に来てもおかしくはないでしょう?」
「へえ?」
カインはフードの下から口端を歪めた。

「様子を見にねぇ。それにしては妙だなぁ。どうしてリアがベッドに縛り付けられているの?」
「それは……っ」
「ああ、これは……彼女が私に頼んできたのですよ。寂しいから抱いて欲しい……と」
「ち、違っ」
神父様は私の言葉を遮るように返事を返す。

「頼んだ?なら、縛る必要はないでしょ?同意の上なんだから」
「それも彼女が頼んできたのです。くくって欲しいと。
そうすれば自分が頼んだとは思われないから……と」

何て事を言うんだろう。

私は慌てて言い返した。

「わた、私はそんなこと言ってないっ!」
「うん。リアがそんなこと言うわけないよね」
カインの言葉に神父様は顔を歪めた。

「ほう?それは何故です?」
「リアは僕を愛している。他の男に目移りするはずないからね」
「大した自信ですね」
「確かに感じやすい身体だから快楽には落ちやすいけど……でも、リアは色情狂じゃない。
そんなリアが僕以外の男に犯してくれなんて頼むわけないでしょ?」
自信たっぷりに言うカインに神父様は天を仰ぎ、大きくため息を吐いた。

「……長いつきあいの私よりもリアを信じるとおっしゃるのですか?」
「この状態を見ればあなたの言葉を信じる方がおかしいよ。
それに、僕の目にはお見通し。女好きの神父様。いや、人の女を寝取るのが趣味だっけ?
本当、良い趣味してるよね。僕はそれのどこがいいのか分からないけどさ」
「おやおや、さすがにそこまでばれてましたか」
「当然でしょ?僕は馬鹿じゃない。あなたが注文する薬を見ていれば分かる。
少なくとも聖人君主とは言えないよね。おそらくリアには媚薬を使ったんでしょう?
部屋に少しだけ残り香がある。これはどんな女性にも抗うことが出来ない薬だからね」
「ご名答」
ぱんぱんと神父様が感心をしたように手を叩いた。
それをより冷めた目でカインは見つめる。

「まったく。酷いことをしてくれるよね。
僕がどれだけリアを大切にしてるか分かっていながら……」
カインはベッドの側に来ると手枷を解き、私を抱き寄せた。

「これは契約違反だよ?」
「違いますよ。あなたに渡すまで手を出さない……というのが本当の契約だったはずです」
「あなたらしい言い訳だね。でも聡明な神父様なら普通、
他人の妻に手を出さないと思うんだけど?」
「魅力的な女性ならば誰であろうと他の男性の味を教えて差し上げたくてね。
幸せは皆平等に与えるものだと我が神もおっしゃっておられますし」
ローブから覗くカインの柳眉がぴくりとあがった。

「へぇ。さすがは神父様だ。良いように解釈して、望んでいない人にも強引に与えてるんだから。
まあ、他の女に手を出すのはかまわなけどさ、二度とリアには手を出さないでくれる?」
「それは約束しかねますね」
神父様の返事にカインは一層目を細めた。

「彼女の身体はまるで麻薬のようです。忘れられるはずがない。それに……」
「それに?」
「彼女が私を忘れられるとも思えませんがね。あれほど乱れたのですから」
「自信過剰も程度が過ぎると嫌われるよ」
カインがぴしゃりとはねのけと神父様はわずかばかり動揺が見た。
しかし、すぐに元の表情に戻る。

「私もその言葉を返して差し上げます。まあいいでしょう。今日はこれで失礼しますよ。
また、仕事の依頼にくるかもしれませんが……リア」
「え?」
名前を呼ばれて顔をあげた。

「私が忘れられなければいつでも教会に戻ってきなさい。
いつでも戻れるようにしておきますから」
神父様はそう言い、帰って行った。