スポーツ復帰について

Healing Potentialという概念


一般的に、術後のスポーツ復帰に関しては、ある時期になれば何をして良いというプロトコールに沿って行われているのが現状である。

たとえば、術後1週で可動域訓練、3週で全荷重、3ヶ月でジョギング、6ヶ月でスポーツ復帰といった具合に、決められたパス通りに説明されている。

それは、「同じ人間であるから、治癒過程も同じである」という概念に基づいている。そして「スポーツ選手といえども靭帯と骨が付く速度は一般人と変わらない」という理論に発展する。

いわば動物実験や基礎的研究でのデータをもとに考えられたメニューといえる。しかし、実際の生体内での治癒過程というのは詳しく分かっていない。


確かに、全員画一的なプロトコールに当てはめて管理すれば、術者もリハビリ担当者も楽であるし、安全であろう。しかし、切実なのは選手本人であって、一刻でも早い復帰を希望しているのも事実である。

われわれは、「同じ人間であるから、治癒過程も同じである」という考えは持っていない。

むしろ、治癒能力は個々に異なるものであり、それをいかに見極めるか。そして、その能力を最大限に引き出し、その個人にとっての最善のリハビリメニューを作成することが我々に課せられた使命と考えている。


以前のように大学でオペばかりやっていたころは、術後のリハビリにはあまり関心が無かった。というか、オペの技術的なことばかりに眼が向いてしまい、オペで大半が決まり、その後はどのようなリハビリをやってもゴールは似たようなものになると考えていた。

しかし、大学を離れ、自分でスポーツ復帰まで管理できるシステムを作り上げて、初めてリハビリの重要性、リハビリのやり方によってスポーツ復帰が大きく左右されることを知った。

関節鏡視下手術の精度が飛躍的に向上し、成績も安定してきた昨今においては、手術が終わった時点が、まさに復帰に向けたスタートと言える。


20歳の若いスポーツ選手と50歳の中年サラリーマンでは明らかに治癒能力が異なるし、合併損傷の有無や程度にも大きく左右される。我々は若くて身体能力の高い選手ほど、創傷治癒能力が高いことを経験上知っている。

前十字靭帯再建後3〜4ヶ月で筋力の左右差もほとんどなく、公式戦に復帰し、受傷前にほぼ近いパフォーマンスを発揮する選手が稀に現れる。かと思えば、術後1年経っても、なかなか筋力も戻らず、パフォーマンスの低下を余儀なくされている選手も稀に存在する。

この違いは何か。

もちろん様々な要因が関与しているが、その2例が全く同じ疾患で同じ手術を受けたとするならば、最も大きなものは、適切な時期に適切なリハビリを出来たかどうかだと思う。

そして、全く同じようにリハビリを受けたとしても、スポーツ復帰の時期が異なってくる。

その違いは、個々の治癒能力(Healing Potential)の違いと考えている。

我々は、このHealing Potentialという概念を考え、リハビリ現場に導入している。

現在我々は、何週になったからこの運動を始めるというような画一的なリハビリのアプローチはしていない。選手個人のHealing Potentialを評価し、反応を見ながら、リハビリメニューを進行させている。


我々が行っているHealing Potentialの評価のポイントは 
   @年齢
   A術前の筋力低下の程度
   B合併損傷の有無と程度
   C術後関節可動域回復までの期間
   D負荷をかけた際の関節腫脹の程度
   E筋力回復の速度
  F競技特有の動作に対する不安感の有無 
などであるが、

最も重要視しているのが、
  次のトレーニングメニューにステップアップしようとする選手本人の意欲
である。

これらが、医師、理学療法士、アスレティックトレーナーの監視下に進行すれば、その個人にとって最短、最善のスポーツ復帰へのアプローチとなると考えている。

                        (院長ブログより 抜粋)