ACL再建術後再断裂について


膝前十字靱帯(ACL)について最近20年間の進歩は目覚ましいものがある。

スポーツによりACL断裂が非常に頻繁に起こることがわかり、MRIによる画像診断の進歩も相まって、ACL再建手術が多くの施設で行われるようになった。手術術式も、Openから鏡視下へ、IsometricからAnatomicへと格段の進歩を遂げた。

ところが、手術治療が一般的になり、術式が進歩したにもかかわらず、再建術後の再断裂率は変わらず、症例数はむしろ増加しているといわれている。

学会の討論でもよく見られるが、スポーツからの視点でとらえず、ただ膝のみを考えるとつい手術の術式のみに論点が終始してしまう。なぜ、手術の術式が格段の進歩を遂げているにもかかわらず、再受傷率が変わらないのかと、、、

昔に比べはるかに低侵襲手術で術後もほとんど痛みなく経過するようになり、手術を受ける選手も非常に多くなった現在、選手が手術の復帰やリハビリを以前より軽く考える傾向があるように感じる。

私が医者になった約20年前、ACL再建術はある意味スポーツ選手特有の手術であるかのように思われ、術後もスポーツ復帰に1年近く要したものだ。それが最近では何故か決まり文句のように「最短で術後半年で復帰」と言われるようになった。術式が良くなった分、中途半端なリハビリで復帰している選手も非常に多くなっているのかもしれない。

 

        


       

 

そこで当院でのACL再建術後の再断裂例を検討してみると

再断裂の率は約2%、全例再受傷であった。仕事中に高所より転落した例などの不可抗力によるものを除くと、再受傷の危険因子として以下のものが挙げられる。

@高校2年、女子

Aバスケット、(他はサッカー、柔道)

B競技レベルが高い

C術後経過が良く、早期に現場復帰

DプレースタイルでKnee in傾向あり

E術後しっかりしたアスレティックリハビリを受けていない(遠方より来院の患者)

高校2年で受傷した場合、学生最後の試合復帰までの期間が短く、筋力が十分戻っていないうちに自己判断で無理に復帰し、再受傷を起こすケースが多い。

また、非常に順調に経過している選手のなかに、突然再断裂を起こしてくるものがいる。やはり、経過が良いということをすでに完治していると勘違いして、こちらの指導を聞かず、アスレティックリハビリテーションをしっかり行わず、勝手に公式戦に復帰していたケースである。

いずれも、術後経過が良く、手術から復帰までの期間が極端に早い、17歳、女子である。プレー動作(ジャンプ着地、カッティング)でKnee in傾向が強く、それをほとんど修正する間もなく復帰していた。


我々は、ACL再建術後の再断裂予防対策として、
最も大切なことは、術後のプレースタイルの変更 であると考えている。

ACL断裂を起こす選手は、要因として競技種目や性別、遺伝的要素などもあるが、最も重要でかつ修正可能な要素は、プレースタイルである。

ACL断裂を起こした選手を、ただ再建手術だけしても、再建した膝の能力は正常膝に及ばないことから、大元の危険因子を排除しなければ、競技レベルが高ければ高いほど、遅かれ早かれ、多かれ少なかれ、再受傷することが容易に考えられる。

ACL再建術を受けた選手が、受傷前と同じ競技を同じレベルで早期復帰を希望するならば、前述の危険因子のなかで、修正可能なものはDEのみである。

投球障害肩肘のほとんど全ての原因が、その投球フォームにあるように、ACL損傷もその原因の多くがその選手のプレースタイルにあると我々は考えている。

いくら手術の精度が向上しても、手術のみでは再受傷は抑えられない。
最も大切なことは、しっかりとした医学的知識を持ったプロのトレーナーによる術後のトレーニング指導、ACL損傷を起こす危険性のあるプレースタイルの修正、教育である。

昔のようにテクニカルエラーにより靭帯が自然に緩んでくるものは論外であるが、手術成績が向上した現在において再断裂のほとんど全例が再受傷であることを考えると、どんな良い手術をしようと切れるときは切れるのである。(正常靭帯が切れるのだから)

以前に比べれば遥かに正常に近いACLを再建できるようになった今日、我々スポーツドクターのするべきことは、医者だけで討論するのではなく、理学療法士やトレーナー、現場の監督やコーチと連携をとって、選手をしっかり教育し、安全かつ最短に現場復帰に導いてあげることであると考える。

ちなみに、当院で手術し、隣接のメディカルフィットネスセンターでプロのトレーナーにアスレティックリハビリテーションを指導してもらい、プレースタイルを修正し、適切な時期にスポーツ復帰した選手で再断裂を起こした非接触型の症例はまだ無い。

          (院長ブログより抜粋)