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2002/11/18公開

旅の雑談その30


差しのべる手

ポール・フィッシング

古本一人旅

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差しのべる手
 日本で生活していて握手するなんて事はあまりありませんが、海外を旅していると握手する機会が多くなります。
 いきなり近付いてきて「オー、フレンド」といって握手してくるのは、ただの客引きだったり。
 差し出された手を何気なく握手したら、乞食の手でなかなか放してくれなかったり。
 いずれにせよ、手を差し出されたら知らんぷりもできないので握手すると、初対面でもあたかも百年の知古のように親しくされたりします。海外旅行で握手は立派なコミュニケーションの一つです。

 さて最初の旅を終えて帰国したときのこと。社会復帰のため就職試験に挑みました。R社という会社の面接試験になりました。ドアをノックし、
 「どうぞ、お入りください。」
 「失礼します。本日面接を受けます×××と申します。」
テーブルを挟んで面接官が2人。正面に立ち、礼をすると
 「どうぞ、お座り下さい。」と椅子の方へ面接官の手が差しのべられました。
 その時、何を思ったか、条件反射のようにその手を掴んでしまったのです。面接官は唖然としましたが、「どうぞ、お座り下さい。」と再度言いました。ハッと気がついたときは、もう頭の中は真っ白になっていました。
 その後の面接の内容は覚えていませんが、自分の常識の無さに恥ずかしくて仕方ありませんでした。
 当然不採用だと思っていたら、何故か採用されました。採用した面接官は後に配属になった所長でした。何を思って採用したのでしょうか。
 あの頃はまだバブルの名残があり人手不足だったので、常識のない人間でも雇う余裕があったのでしょう。



ポール・フィッシング

 スリランカ南部のウェリガマは伝統的なスティルト・フィッシングで有名です。
 海岸線の海中からポールが何本も突き出ており、何人もの漁師が突き出た棒に掴まりそこを足場にして釣り糸をたらす、のどかな伝統漁の写真がガイドブックに載っていました。これは一見の価値があると見に行きました。

 早朝、現場に着くと確かに海中から何本ものポールが突き出ていました。が、そのポールに漁師が掴まっている姿は見られません。少し海が荒れているからかなとも思い、しばらく様子を見ていました。すると遠くから3人の漁師らしき人が竿を持って歩いてきました。
 「これから漁が始まるのかな」と思っていると、海ではなくこちらの方に近づいてきました。「お前は日本人か。スティルト・フィッシングを見に来たのだろう。」と聞いてきました。
 「そうだけど、今日は漁はないのかい?」と聞くと、
 「それなら、今から漁を始めてやるから、カメラを用意しな。そうだな、××ルピーでいいから。」
と服を脱ぎ始めました。どうやら本当の漁だけでは食っていけないらしく、この漁も今や観光用になっていて、観光客に見せて収入を得ているようです。仕方がないので、お金を払って写真だけ撮って帰る事にしました。

 漁師たちは海が遠浅なので、脱いで小さく畳んだ服を頭に載せ、岸よりポールまで歩いて行きました。
 それらしく竿を海にたらし、もっともらしいポーズを取り「早く写真を撮れ」と合図しました。こちらがらOKの合図をするとそそくさと戻ってきました。
 「いい写真は撮れたか」と聞く彼らにお金を払い、腰に掛けている籐の籠を見せてもらうと小さな小さな魚が1匹だけ入っており、「今日の収穫はこれだけ?」と聞くと「そうだ」と答えました。そして彼らの釣り竿を見て、なるほどなと思いました。
 釣り糸の先には餌はおろか釣り針がついていませんでした。

 伝統文化が観光化するというのはこういうことを言うのでしょうね。




古本一人旅
 探して欲しいもの、大事に扱ってやって欲しいものがあります。早5年も前のことになりますが、いや最初の旅からは10年以上の月日が流れ、その後どうなったか消息のつかめない旅の共を。

 旅の共とは、そう古本です。大体が文庫本で、常時数冊はバックパックに入っていました。日本を離れ、旅という暇を持て余す生活をしていると本でも読まなくては時間をつぶせません。というか、活字に飢えてしまうのです。今など、小説の類の本など年に一冊読むか読まないかの状態ですが・・・。(昔は読書家だったのに・・・)

 色々と旅に関するウェブサイトを見ていると、最近はノートパソコンを片手に旅している人もいるようで、私の旅していた時代とは随分環境が変わってきているのだと感じています。今では旅のアイテムの中での古本の地位は下がってしまったのでしょうか。

 読み終わった本は別の旅人の読み終わった本との交換で持ち主が入れ替わります。ある時は古本屋に買い取ってもらいます。そして、帰国の際にはこれから旅を始める人に差し上げます。そう、主人が帰国してしまっても、別の新しい主人と旅を続けるのです。

 ある時から、そんな読み終わった本の最後のページに自分の名前と国名・日付を書くようになりました。
 「この本はこれからどこまで旅をするのだろうか。いつまで旅を続けるのだろうか。」そんなことを考えながら。
 旅人から旅人へと引き継がれ、いつの日か今度再び旅に出たときに自分の手に戻ってきたとしたら、そしてその本を読まれた人々の名前が継ぎ足されていたとしたら、どんなにロマンチックな事でしょう。

 旅をしていて、裏に名前の書いてある古本を手にされた方、どうか大事に扱ってやって下さい。
 お尻を拭く紙を忘れたからといって、くれぐれもトイレの肥やしにしないで下さい。



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