むかし吉野の竜門寺にこもって神通飛行術の得とくの修行をしていた二人の青年がありました。
一人をアツミといい、もう一人をクメといいました。竜門岳にのぼって山中をかけめぐり、滝に打たれたりして
それは厳しい修行でした。アツミはこの秘術を先に修得して仙人となり雲にのぼりました。
後になったクメも更に修行に励み、やっとの事で空を飛べるようになりました。
吉野川を越える時、川のほとりで若い娘が着物を洗っていました。すそを捲り上げて、白いすねをあらわに
出していました。クメはいやしい心がムラムラとおこり、そのとたん長い間の修行した神通力は消えて、女の
前に落っこちてしまいました。クメはもとの人間となりその娘を妻として夫婦仲良く暮らしました。
そんな頃、天皇は高市に都を造ろうとなさっていました。クメも夫役に呼び出され、他の人夫達は、「あの、
クメはもと仙人、スケベ心さえ起こさなかったらこんな辛い仕事をさせられなくてよかったのに」。
この話しが役人に伝わり、行事官はたわむれに「この木材を手で運ぶよりは、仙術で山からここへ飛ばして
もらえれば早いものだがなァ」 と、いいました。
クメは7日間、断食をして再修業をしました。そしてついに8日目の朝、にわかに雲がくもり暗夜のごとく
なったかと思うと雷が鳴り渡り雨が激しく降って、あたりが見えなくなりました。やがて空は晴れ渡り、そのとき
たくさんの木材が南の山から飛んできて都を造ろうとしている場所に積み重ねられていました。
これを知った天皇は恩賞として免田三十町を久米に与えられ、クメは喜んでこの田をもらい、一生楽しく
暮らしたといいます。
その土地に建てた寺が橿原神宮のそばにある、久米寺です。寺を建ててからの久米は、薬師如来を
まつり、自分の姿までを木像にして寺に残し、一生病気にかからんという竹の箸も作ってみんなに
配ったという事です。
なんとも 愛敬のある久米仙人ですね。でもこのような仙人は大和には今もそこらに居ると、思うのですが。
たじまもり たちばな
田道間守と橘
昔、上古第十一代の垂仁天皇は、どこかに不老不死の国がある事をお聞きになり田道間守を呼んで
その国を探すように命じました。
そして十年、田道間守は海を越え谷を登り苦しみの多い旅を続けましたが見つかりません。
ところがある時、田道間守は不思議な光景にでくわしました。それは若い娘が老人を叱りつけているのです。
でも本当は若い娘が母親で、老人の方が娘の子供だというのです。
「この子だけが酸っぱくて嫌いだとこれを食べないので、こんなに年をとってしまったので、叱っているのです」
娘はそう言って一つの木を差し出しました。田道間守は踊りあがって喜び、それを不老不死の実と信じて
持ち帰ることにしました。
ところが帰ってみると、既に垂仁天皇はお亡くなりになっていたのです。
田道間守はお墓の前で泣き伏し、その木の実を両手でさしあげ「天子さま、ご覧下さいませ」と繰り返し
泣き叫びました。そして叫びつづけながら、とうとう死んでしまったと言う事です。
この不老不死の木というのが、橘なのです。
高市郡明日香村にある岡寺は「厄除け」の観音さんとして広く知られ、
厄除け祈願の人々の参詣が絶えません。
このお寺はもともと龍蓋寺(りゅうがいじ)と言い、こんな伝説があります。
今から千三百年以上も前の事、悪い竜がいて人々を困らせていました。今のように田畑も整地されていない
昔のこと、竜が暴れるたびに大雨が降り、田畑がつぶれ家も滅茶苦茶。何の蓄えも無い里人は、竜が何日も
大暴れする時など、生きた心地もしませんでした。
こんな時、後にこの寺を開いた義淵(ぎえん)和尚が必死に仏様を拝みました。そして和尚の法力に、竜は
すっかりおとなしくなったのです。和尚は悪竜を池の中に引き入れ、二度と暴れないようにと大石を乗せて、
石の上に 「阿」 という字を書いて封じ込めたのです。それからはこの地も穏やかな里になったようですが、
竜の石に蓋(ふた)をした池というので、この池を龍蓋池といい、寺の名も龍蓋寺としたそうです。
この義淵というお坊さんは、良弁や行基さまの先生でもあり、何でも出来たたいそう偉い僧でした。
そしてこの人が他にも開いたお寺はむ、龍門とか龍福とか、みんな龍の字のつくお寺ばかりです。
龍蓋池は、今は本堂の前の小さな池ですが、この中の石を動かすと雨が降るといわれ、水不足の年は、
今でも村人がこの石を動かして雨を待つようです。
壷坂寺の近くに、目の不自由な沢市という男がおりました。
その妻のお里は大変な美人でした。お里は、沢市を深く愛しておりました。
ですから、お里はなんとかして、夫沢市の眼病を治そうと壷坂寺の観音に夜毎お参りするのでした。
それを知らぬ沢市は、夜な夜なお里が家を離れるので、自分をさしおいて不倫でもしているに
違いないと邪推します。
ある夜、沢市はお里の後をつけていきます。すると不倫どころか、お里は沢市のために
壷坂まいりをしているではありませんか。なんという愚かな邪推をしてしまったのかと沢市はわび、
それが恥ずかしくて沢市は近くの谷に身を投げてしまうのです。
お里も悲しんで後を追って身を投げます。この夫婦愛に感じた観音が二人の命を助け、
沢市の目も開く・・。というものです。
ここで目薬を買って帰れば霊験あらたか、もう目の病気には安心です?