白州ふるさと文庫・山口素堂資料室

素堂俳諧講座(2)
素堂が自ら編んだ句集)『とくとくの句合』
 &素堂と知幾の『俳連五十韻』

とくとくの句合

 七そちちかき秋の頃わらわ病にかゝりて三途瀬川を二瀬もこえなんとせしが、立帰り病の間ある時むかし云捨てたる狂句どもを、倩おもひ出て、自の句を左右に別ち、西行法師の御裳濯川のまねして三十六番の句合となし侍れど、今の代に俊成卿とたのぶべき人なければ、判者も又素堂なりぬ。其角が句兄弟は他の句に自の句を寄せ合ての名なり。今此句合は一腹一生にして多くはみそぢ前後のふることなれば、おかしくもつたなくも見給はんかし。

かつしかの隠士 素堂

一番  歳 朝

  • 左  とくくの水まかねば来ませ初茶湯
  • 右  宿の春何もなきこそ何もあれ

      判に曰、西行法師をしたひての句合なれば、第一番に汲ほす程もなき住居哉と詠したまふ、よし野の奥の、苔清水を出されけるにや。二月堂のわかさ水もよふに応じてわき出るといへば、遠くとも来るましきにあらず。右、何もなきこそとあるは、有無の無にてはあらざるべし。此無にはあらゆる物を備へて胸中の楽しみはかりがたし。よって勝負をわかたす。

二番  柳

  • 左  西国下りの比周防長門の間の堤に大木の柳ありけるを
       胴をかくし牛の尾戦ぐ柳哉
  • 右  何となう仮名書習ふ柳かな

    左の大木の柳言外にあらは也。されども右のやなぎに立並ぶべきにあらず。

三番  椿

  • 左  筬の音目を道びく藪つばき
  • 右  谷川に翡翠と落る椿かな
  • 左、田舎のわたらひに有けしき也
  • 右、翡翠の魚を見て飛入たるいきほひに椿の静に落合たる拍子、悲類なきによって右を勝とす。

四番  紀 行

  • 左  大磯にて
       あれて中々虎が垣根のつぼ菫
  • 右  命長し其如月の前の顔

左、なだらかにいひくだして、五字余り耳にさはらず、右、西行の顔を見しられたるやうにてあかしく侍れど、死して亡びさるものは命長しといへるこゝろを持て見れば、およばず、よって持たるべし。

五番  花

  • 左  木の間ゆく被に散し桜かな
  • 右  所以ありて弥生の頃東部へ下りけるにふんぎって都の花にくだりけり

左、都のすがたながら、しゐて称するにあたらず。
右は五文字におほくの心をこめて、一句すこやかなり。
   洛陽の信徳やゝもすれば、此句をいひ出しけると也。
   判者も又信徳のこゝろをこゝろとす。

六番  花

  • 左  大和めぐりせし頃よしの山にて
       是つらよよし野の花に三日寝て
  • 右  三輪
       至れりや杉をはなとも社とも

 三輪の神はやしろなし。なきこそ神のかたちなりけれの心なるべし。
 左、論語をよみて是つらの人といへるこゝろばへにや、されども三輪の至りには及びがたし。

七番  花

  • 左  粟津が原にてばせをの塚を弔ひて 志賀の花湖の水それながら
  • 右、はせを行脚に出て久しく帰らざりしころ  いつか花に小車と見む茶の羽織

    左、粟津が原はむかひに志賀の花、折とらば手ぶさに氣かるの心をとり、前の湖水をそれなからといへるにて、手向になすぞ加茂川の水とよめるこゝろをもとるなるべし。
    右は司馬温公の花外の小車ひさしく来らずと、堯夫をまたれしこゝろと見えたれども、花のあたりの太山木におなじ。

八番  櫻

  • 左  福原
       菜畑や爰が左近のさくらかよ
  • 右  豊国にて
       垂れか見む櫻のころの野人参

    左、いかめしく築立られし新都の迹も、今菜ばたけとなりて、感慨すくなからず、 右も又朝鮮までしたがへたまふ名残に、薬種にも野菜にもならぬ、野人参の生出たると也、なそらへて持たるべし。

九番  雲 雀

  • 左  朝虹やあがる雲雀のちから草
  • 右  夕風に見うしなふまで雲雀かな

    左、高くあがるこゝろは明かなり。右は何の手もなくてよろし。殊に見うしなふまてはと、文字の余りたる処に、意味あるにや、右尤為勝。

十番

  • 左  落花
       餘花ありとも楠死して太平記
  • 右  惜春
       春もはや山吹しろく苣にかし

    左、餘花は夏の題にて侍れども、一句を味ふれは、落花のこゝろ明らか也。右も春ををしむこゝろ浅からず。よき持なるべし。

十一番  初 夏

  • 左  垣根やぶる其わか竹をかきね哉
  • 右  村雨につくらぬ拓殖の若葉かな

    右、拓殖はおかしく作る物のやうになり来るを、おのづからなる若葉にむら雨のけしきさへそひてうるはしき姿也。
    左も八雲の神詠をかりて一ふしなきにあらずや。これ又持にさたすべくや。 

十二番  かつを

  • 左  鎌倉一見の頃
       目には青葉山ほととぎすはつ鰹
  • 右  夜鰹やまたじとおもへば蓼の露

    左、目には青葉といひて耳に郭公、口に鰹とをのつから聞ゆるにや、かまくら中の景色これにすきす。
    右も来ぬ夜のあまたの、といふ古歌をとりて、時鳥の対には尤の事なから、左と同日の論にあらす。

十三番  蓮

  • 左  蓮
       我はちす梅に鴉のやどり哉
  • 右  髭宗祇池に蓮あるたぐひかな

    右、むかしの人は髭を貴びて、池に蓮なきは、よき男の髭なきがごとしと歌によめる。ことに宗祇の髭は香を留んがためときけば、蓮のたぐひにや。
    左、君子の蓮を愛するは梅にうぐいすの宿るにおなじ、我蓮を愛するは不相應と聞ゆ。無勝劣。

十四番  蓮

  • 左  蓮
       一葉浮て母に告ぬる蓮かな
  • 右  開かんとするとき筆に似たり
       己つぼみおのれ画いて蓮かな

    左、蓮、沾徳が幽蘭集孝の部に出せり。山谷詩に蓮を見て母の慈をおもふとは實の事をいへり。一葉の浮みたる所をつけたるも猶孝のこゝろなるべし。
    右、あまたの中にもやうにはさもあるべし。左のおよばず。

十五番  蛍

  • 左  宇治
    喜撰法師ほたるの歌も詠れけり
  • 右  瀬田
    水や空うなぎの穴もほし蛍左、都の辰巳を詠る外に、其泉と文字かはりて、蛍の歌あり。よめる歌おほからぬよし、貫之さたせられ侍れども、為兼卿宇治山田の喜撰にして玉葉へ入たまふ。此論にかゝはらず、右のほたるをまされりとす。

十六番

  • 左  河骨
       河ほねやつゐに開かぬ花ざかり
  • 右  沢潟
       おもだかや弓矢立たる水のはな

    左右ほまれなくそしりもなし。

十七番

  • 左  箱根
       峠凉し沖の小島のみゆ泊
  • 右  富士

    山姫や鹿子白無垢土用ぼし左、実朝卿のはこね路をけさ越くればと詠じたまふを、峠のしゆく泊りにとりなされて、一興あり。所は山路ながら沖の小島のと侍れば、泊の字を用ひてもくるしかるまじきにや。
    右、夏の不二さもあるべし。ふじといはずとも其心明らか也。勝劣なし。

十八番

  • 左  木曾路を登りける頃に 夕立にやけ石凉し浅間山
  • 右  鴨の巣や富士のうへこぐ諏訪の池

    右、すはの池には富士のかげうつるといへば、其うへに巣をかけたるにや。
    左、は一句すこやか也。これ又持ならんかし。

十九番

  • 左  愛宕山一宿のころ しら雲を下界の蚊帳につる夜哉
  • 右  比叡山の絶頂にて 山すゞし京の湖水に眼三ツ

    左、あたご山は蚊帳つらず、夏しらぬ山ともいへり。白雲寺と号すれば、其よせもあるにや。石山といへば叡山たるも勿論の義なり。両眼の外に心眼をつけて見よとにや、山の高さも句ごしらへも甲乙なかるべし。

二十番

  • 左  みな月加茂川にあそびてみたらしや半流るゝ年わすれ
  • 右  千鳥聞し風の薫りや蘭奢待

    右、東山義政公鴨河へ千鳥聞に出たまふや。おなじく千本道貞といふ者も袖に蘭奢待をたきて出けるよし。義政公聞付給ひ袖香炉を御取かはし有て、今の世に大鵆小鵆とて名物たり。しかれども、
    左、半年の年わすれ、こゝろとこと葉調ひ侍れば、勝たるべし。

二十一番 薄

  • 左  薄
    三日月をたはめて宿す薄かな
  • 右  候べく候や小野のお通が花すゝき

    左、こゝろなき物に心を付る躰にや。
    右一躰ありといへども、左の薄におよばず。

二十二番

  • 左  西瓜
       西瓜ひとり野分をしらぬ朝哉
  • 右  南瓜
       南瓜やずつしりと落て暮淋し

    左、草くはふしたる野分の朝に西瓜のひとり動きなきさま見るが如し。
    右、南瓜の落てさびしさをいやしましけるにや。西瓜のあした南瓜の夕對なるかな、對たり。

二十三番

  • 左  西国 下りのころ さびしさを裸にしけり須磨の月
  • 右  明石 朝霧に歌の元気やふかれけむ

    孔子は四時の元気とあれば、人丸も歌の聖なれば、かく  いへるにや、
    左も一興はべればおとるべきにあらず。

二十四番

  • 左  玉津島
       霧雨に衣通姫の素顔見む
  • 右  いつくしま
       回廊に汐みちくれば鹿ぞ鳴

    左、西湖の雨のけしきを美人のよそをはぬ時に詩人のさたし侍れば、素顔といへるにや。
    右、いつくしまの景気は回廊に汐のみち来る時なるべし。あしべをさして田鶴鳴わたるのおもかげもそひて、玉津しまの雨けしきよりはまさるべくや。

二十五番

  • 左  甲斐が根にて
       ほぞ落の柿の音きく深山かな
  • 右  晴る夜の江戸より近し霧の不二

    左、音なきにより、かへつてさびしさまさりけるや。
    右、めづらしくは侍れども、ほぞおちの方まさるべくや。

二十六番

  • 左  むさしのゝ月見にまかりてかへるさに 袖みやげ今朝落しけり野路の月
  • 右  むさし野の薄を手折て大仏の前に耳かきをひろひし事を思い出て、宿に見るもやはり武蔵野の薄哉

    此番判なし。おもふに翁あやまって其辞をもらすか。

二十七番

  • 左  石山
       雲半山石を残して紅葉けり
  • 右  西山の茸狩にいざなはれて
       茸狩やひとつ見付し闇の星

    左、石山のいしは尋常の石にあらず。雲もこゝろして半山おほひたるにや。古き歌にもみちてとも侍れば、紅葉けりも難ずるに及ばず。
    右、ほしひとつの見付たるよのといふ歌をとりて茸狩の情をよくうつせり。左におさくおとるまじきか

二十八番 蓮の實

  • 左  蓮見
       蓮の實の泥鷺をうつ何こゝろ
  • 右  小野川洛陽に住所求とて登りける頃、予も又其心ざしなきにしもあらず。

    蓮の實やとても飛なら廣澤へ
    左右の蓮實あまれりや。足らずや。

二十九番

  • 左  みのむし
       蓑むしの角やゆつりし蝸牛
  • 右  隣家の僧(芭蕉)行脚に出て久しく帰らざりしころ。
       みのむしやおもひし程の庇より

    左、清少納言みの虫おにの子なりよし侍れば、角の有べきにかたつぶりにゆづりけんとにや。
    右、康頼入道の都帰りのころ、思ひしほどはもらぬ月かげと詠じたまふをおもひしほどのと云て、猶荒たるけしきに有にや。可為持。

三十番 蕣

  • 左  蕣
       有明も蕣の威に気をされぬ
  • 右  あさがほよおもはじ鶴と鴨のあし

    左、終夜かゞやきたる月も明がたになり、朝がほのしばしのさかりにけをされたるにや世上のありさまもかくの如し。
    右は壮子に鶴のあし長くとも切らばなくべし。鴨のあしみじかくともつがば鳴ん。といふこゝろをとりて朝顔のさかりすくなきをなだめたるにや。有明のかたこゝろふかきやうに侍れば勝たるべし。

三十一番  月

  • 左  独楽
       我舞て我に見せけり月夜哉
  • 右  十三夜
       唐土に富士あらば後の月見せん

    左、かくれたる所なし。
    右もろこしには後の月見のさたなし。我日本の風雅に富るこゝろいふなるべし。しかれども独楽の舞なほ見どころあり。

三十二番

  • 左  忍の岡のふもとへ家をうつしける頃
       塔高し梢の秋のあらしより
  • 右  鮭の時宿は豆腐の雨夜かな

    左、梢の茂りたるうちは塔も見え隠れなるべきを、秋のすゑよりまばらに成て、嵐のうちより塔の生出たるありさまさながら、畫出せるがごとし。
    右も蘭菊のはな時もさびたる躰しゐておとるべきにあらず。

三十三番  落葉

  • 左  落葉
       寒くとも三日月見よと落葉哉
  • 右  松陰におち葉を着よと捨子哉

左右ともにこゝろなきものにこゝろをつくる躰、勝負分たず。

三十四番

  • 左  しくれ
       天の原よし原富士の中ゆく時雨哉
  • 右  三保夕照
       網さらす松原ばかりしぐれかな

    左、文字余耳にたゝず、不二の中ゆくなどおもしろし。右もしくれといひて夕照のけしき明也。よき持たるべし。

三十五番  雪

  • 左  近江八景の内比良の暮雪をいふ。
       暮おそしつる賀の津まで比良の雪
  • 右  炭竈や猿も枯葉もまつも雪
       難兄難弟

三十六番  歳暮

  • 左  大晦日
       和布刈遠し王子の狐見にゆかむ
  • 右  鳴戸磯渦まく暦くれはや

左、めかりの神事は大晦日の夜半ばかりのよし。遙の西国に侍れば、当国のきつね見にゆかんとにや。年浪のはやき事鳴戸よりも早しといひて、世中をわたりくらぶる歌のこゝろこもりて、一巻の軸といひ感味すくなからず。右尤勝たるべし。

 

御裳濯川にはみや川の流をそへられたり。よって狂漢の句を對し十番として是をくはふ。

其 一

  • 左  梅月詩姿見
  • 右  悼少長子
       さしや鹿朶の中よりこぼれ梅

    左、梅月は誠に詩を粧ふ鏡なるべし。
    右少長子(歌舞伎俳優、中村七三郎)は名高く七三事にや。名香にたとへられたりとも誰かすぎたりといはむ。左勝たるべし。

其 二   花

  • 左  よし野山夜興。
       白雲花燭暈(ぼんぼり)
  • 右  よし野川にて
       鮎小あゆ花のしづくを乳房かよ

    左、月日の笠を暈(かさ)と申し侍れば、花のぼんぼり、さもあるべし。
    右もいさぐよくははべれども白雲におよばず。

其 三   花

  • 左  初瀬山
       無価花開帳
       仏黄金一枚
  • 右 宿からん華のくれなば貫之の

    左、六月清風を買は価なからんのこゝろなるべし。
    右貫之ははつ瀬の申子なれば、宿坊も有ぬべしの留りは古き歌にもわづか一二首ならでは見え侍らず。めづらしくははべれども開帳のかた勝ぬべし。

其 四

  • 左  はりまめぐりせしころ
       牛無遅速
  • 右  遅き日やしかまのかち路牛で行

其 五   初  夏

  • 左  土龍躓竹子
  • 右  洛陽の花終りける頃
       亦是より若葉一見と成にけり

    左、躓の字よろし。
    右は其角が句兄弟に見えたり。下の五文字異風ながら不為不可、可為持。

其 六   蓮

  • 左  磔玉風蓮曲
  • 右  浮葉巻葉立葉折葉とはちすらし

    左、露といはずして玉を磔とあるもおもしろし。
    右の蓮はもやうに出されたると見えたり。風蓮に及がたし。

其 七

  • 左  綿花蘭落子
  • 右  棚橋や夢路をたどる蕎麦の花

    左、綿の花はまことに蘭の花の面かげあり。そばの花は夢中に物を見るに似たり。なぞらへて持たるべし。

其 八

  • 左  鬼燈姫一口
  • 右  長崎にて
       珠は鬼灯砂糖はつちのごとく也

    左、珍らか也。
    右、阿房宮の詞をかりて、所がら其の多きをいふなるべし。姫が一口いさゝかまさるべきか。

其 九

  • 左  十月爐顔見
  • 右  茶の花や利休か目にはよし野山

    左、十月はといひて霜月狂言盡の貌見せ、をのつからあらは也。古風なからしもにたゝす。

其 十

  • 左  鏖  呉  西  施 乳
  • 右  名をとげて身退しや西施乳もどき

    左、鏖の字意味あるにや。陶朱公西施をつれて身しりぞかれしを、河豚もどきはよき見立也。呉越春秋のかしら書とすべし。勝負なし。 (鏖−みなごろす  西施乳−ふぐ)
    右六々の句合、并二五の追加、かつしかの素隠士みづから舞、みづから鼓うって老のおもひでとせり。ある人其古めかしきを笑ひ且今やう姿のきこえぬもいかにぞやと他の非をやめり。答いふ、もろこしにも盛唐晩唐の品々あり。我が日本にもあるひは花の過たる時あり。實の過たるもあり。また花実相応の時節もありけるにや。たとえば夏来りて綿をぬき、冬来りて衣を襲ぬるがごとし。時のいきほひいかんともすることなし。汝は汝をせよ。我はといひてやみぬ。

とくくの句合跋

 右自問自答のぬし素堂は、あづまの長明ともいはんや。山口松兵衛の時、交り貧しからずありけるを、こがらしの筑波はげしき冬の風の、煙にあふ事幾度か、また一族の不幸に纔の宝も失ひ、悔事なく老母を供して、行水の流もとのあらぬ葛鹿深川の草むしろ、柱を掘建ばせを庵の風に耳をひれふせ、  元日やおもへば淋し秋のくれ(芭蕉)
 此頃より風俗うつりかはり
 古池や蛙飛込む水の音(芭蕉)
 是を味はひ、此池の前にうしろに素堂は十蓮の句を持、畠をめぐり芋名月の十三句
 我をつれて我影帰る月夜哉(素堂)
 みの虫に筆の杖ある時、ばせを曾良をつれて、おくの細道
 におもむかれける餞別
  松しまの松陰にふたり春死ん(素堂)
 我も死なんと弥陀の額に落日を請、月影は入山の端もつらかりき。此古ごとに違はず、一生をすみ畢りぬ。
 かくれては飽人多し後の月予此句を言捨たるも、此人にはなし、とくくと昔なつかしくて跋に書ておくものなり。

   享保十二丁未春    雷堂百里

  《注》雷堂百里…本名、高野勝春。江戸小田原町の魚問屋の主人。
 …(『俳文学大辞典』)


素堂・知幾(桐山正哲)俳聯五十韻

   宝永  元年  1704

 俳聯五十韻俳聯五十韻素堂・知幾(桐山正哲)
 −知幾については本文参照。
この「俳聯五十韻」は大野酒竹校訂の『素堂鬼貫全集』による。
 「素堂・知幾の漢語連俳なり。知幾の人物詳かならず、案に当時の詩人なるべし」とある。

  • 師 走 市 中 市  素堂
  • 火 難 地 震 騒  仝
  • 主 従 更 後 更  知幾
  • 煤 拂 屋 前 呶  仝 呶−カマヒスシ
  • 碁 嗜 無 餘 念  素 碁嗜−コスキハ
  • 畫 書 有 苦 芳  知
  • 月 丸 同 異 國  仝
  • 露 細 碎 湲 濤  素 湲濤−ササナミ
  • 蒲 穂 掉 狐 尾  仝
  • 萩 花 散 兎 毛  知
  • 大 風 通 路 障  仝
  • 小 霰 寢 家 敲  素
  • 招 禿 三 絃 撥  仝
  • 挽 君 二 艇 艚  知
  • 髪 筋 網 鬼 繋  仝
  • 足 袋 緒 □ 素  −アカク
  • 稚 子 待 宮 笥  仝
  • 敗 軍 折 月 宵  知 折−クシク
  • 虫 匍 非 敢 後  仝 後−ヲクレタルニ
  • 雁 字 有 何 教  素
  • 花 不 言 言 當  仝
  • 梅 無 落 落 知   −ヒロハン
  • 流 波 盡 曲 仝
  • 卍 満 屋 應 滔  素  滔−ハルコ
  • 鮒 鱠 金 砂 子  仝
  • 鰻 鮓 鐵 鍔 刀  知
  • 薩 摩 男 立 髯  仝  髯−ヒゲ 
  • 高 野 聖 商 毫  素  毫−フデ 
  • 要 要 扇 根 本  仝
  • 釘 釘 箱 板 擣  知  擣−ウツ
  • 茶 壺 千 両 物  仝
  • 酒 器 五 文 匏  素  匏−ヒサコ
  • 枕 石 字 禽 草  仝
  • 的 山 兮 失 蒿  知  蒿−ヨモキ
  • 月 堤 常 住 餅  仝
  • 露 毀 施 行 素   −カユ 
  • 薄 疲 小 町 果  仝
  • 蘭 粧 褒 敖 知  敖−アソ
  • 麒 麟 羮 鳳 炙  仝
  • 蝙 蝠 袴 〓 袍  素  〓−フクロク
  • 木 偶 人 勤 在  仝  袍−ウチ
  • 伽 羅 佛 位 高  知
  • 隱 居 時 釣 狸  仝  時−ヨリヨリ
  • 緩 歩 或 騎 利牛 素  歩−アユンて
  • 老 子 非 常 耳  仝  利牛−ウシに
  • 達 磨 破 座 尻  知
  • 念 經 朝 暮 役  仝  念經−子ンキンは
  • 論 義 古 今 交  素  論義−リンテイ
  • 差 紙 着 花 月  知
  • 捻 糸 巻 柳 素   −オカ

俳聯 五十韻

  • 寒 梅 魁 出 鑓  知幾
  • 雪 竹 折 成    素堂   −ツエ
  • 茶 煮 叩 居 睡  仝
  • 餅 虧 助 困 窮  知  虧−カケも
  • 謠 聲 皆 歴 々  仝
  • 仰 旨 最 中 々  素
  • 世 界 挑 燈 月  仝
  • 天 河 寫 繪 霧  知
  • 鹿 鳴 怨 獨 寐  仝
  • 虎 慕 嘆 十 終  素
  • 敵 討 狂 言 切  仝
  • 男 振 乗 物 供  知
  • 投 銭 為 賈 喰  仝
  • 横 戟 好 平 攻  素
  • 猪 武 者 齒 反  仝  反−ソリタリ
  • 魚 商 人 足 忠  知  忠−マメナリ
  • 抜 参 無 定 宿  仝
  • 遠 便 聽 虚 空  素
  • 歌 遺 仲 丸 死  仝
  • 軍 傷 貞 任 知   −イソカシ
  • 京 看 花 與 月  仝
  • 天 靡 柳 于 虹  素  靡−ナビク
  • 疑 笛 紙 鳶 響  仝  鳶−コノ
  • 打 環 繪 馬 濃  知  濃−コマヤカなり
  • ほ し 家 内 見  仝
  • あ め 戸 間 通  素
  • 涎 白 蝸 牛 粘  仝
  • 髭 青 蟋 蟀 □  知  □ ウエキ
  • 辻 番 優 作 菊  仝
  • 國 取 幅 蒐 楓  素
  • 荷 月 往 銀 釜  仝
  • 穿 山 勢 鐵 弓  知
  • 旅 行 休 一 谷  仝
  • 順 禮 詣 三 宮  素
  • 在 々 物 成 好  仝
  • 方 々 賣 買 隆  知
  • 流 浪 西 塔 辨  仝
  • 勇 猛 坂 田 公  素
  • 瓜 出 附 瓜 意  仝
  • 竹 畫 見 竹 瞳  知
  • 金 刀 珍 客 用  仝
  • 木 几 老 人 従  素
  • 動 話 島 原 陣  仝
  • 飽 遺 江 戸 風  知
  • 荻 相 顔 色 麓  仝
  • 薛 女 口 紅 素   −ハナヤカニ
  • 鰲 甲 笄 穿 月  仝 笄穿−カウカヒスカス
  • 象 牙 軸 掛 槞  知  槞−マトに
  • 活 花 仲 立 後  素
  • 采 蕨 歩 行 知   −タノシミ

 「とくとくの句合」、素堂の時流に超然たる態度や、彼が晩年の句作上に於ける意見風尚なども窺われ参考になる。併しそれだけ又彼が俳壇の進歩に追随し得 ない傾きを見せるものでもある。  (『日本文学大辭典』)

刊本内容

  1. 享保二十年(1735) 祇空序。百里跋。自判七十二句、三十六番。和漢自句合十番。俳聯五十韻二巻。歌仙二巻 (五色墨連によって催された脇句の歌仙)
  2. 自判七十二句、三十六番。和漢自句合十番。
  3. 自判七十二句、三十六番。
  4. 素堂自筆、「稿本とくとくの句合」

所収板本

  1. 『俳諧文庫 素堂・鬼貫全集』部分所収。
  2. 『俳諧文庫 俳諧句合集』部分所収。

『素堂句集』

  1. 門人子光著。享保六年(1721)編。寛保四年(1744)補。
    『俳書集覧』所収。(『日本文学大辭典』)
  2. 門人子光著。享保六年(1721)編。寛延四年(1751)奥書。
    写本を文化元年(1804)に夏目成美が書写たもの。
    自序・素堂作品集・芭蕉との蓑虫句文・紀行二編・歳旦、歳暮吟などの漢詩二十八首・俳聯二巻・和歌十首・発句十六を収める。
       『俳書集覧』6所収。   (『俳文学大辞典』)  
  3.  吉別大魯閲。安永四年(1775)刊。
     『俳諧五子稿』所収。
     『素堂家集』…坎窩久臧編。文化九年(1812)刊。坎窩久臧曾て素堂の文辞を輯めて素堂家集と号す。写本を以て稀に世に傳わる。本書即ち是なり。余か所蔵  は抱儀の子永年の謄写に係はり、間々讀みがたき所なきにしもあらさりしも、一に原本に従ひぬ。  (『素堂・鬼貫全集』大野酒竹校訂 明治三十二年)

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