労働判例研究
濱口桂一郎
誠昇会北本共済病院事件
(さいたま地判平16.9.24 労判883号38頁)
[事実]
1 当事者
X:本件原告、Aの父母。
Y:本件被告、Aが勤務していた病院。ベッド数99床。女性看護師30数名、男性看護師5名。
A:Yに勤務していた男性看護師。平成11年高校を卒業し、看護助手としてYに就職、平成13年4月准看護士となり、看護士資格を目指して看護学校に通学していた。外来部門で准看護士として勤務しつつ、Bの下で物品整備の仕事を手伝い。男性看護師5名の最後輩。
B:本件被告、Yに勤務する男性看護師。Aの先輩。平成5年よりYに勤務し、平成7年准看護士となったが、看護士資格は有さず。外来部門の准看護士として勤務しつつ、平成13年5月より物品部門の責任者として管理課長となるも、部下はなく、Aを含む看護学生に手伝わせていた。男性看護師5名の最先輩。
2 事実関係
○Yの男性看護師には男性のみの独自なつきあいがあり、体育会系の先輩後輩関係と同じく、最先輩のBが権力を握り、後輩を服従させる関係であった。
○BはAに対し以下のようないじめを行った。
・勤務時間終了後も遊びにつき合わせ、自分の仕事が終了するまで帰宅を許さず、病院が禁止していた残業や休日勤務の強制した(学校の試験前に朝まで飲み会につき合わせたりしている)。
・買い物や、肩もみ、家の掃除、車の洗車、長男の世話などの家事に使用。風俗店の送迎、パチンコ店の順番待ち、馬券購入などの私用に使った。ウーロン茶を1缶3、000円で買い取らせた。看護学校の女性を紹介するよう命じた。
・恋人Cとデート中であることを知りつつ、用事もないのに病院に呼び出した。
・職員旅行(平成13年12月15日)の際、飲食代約9万円を負担させたほか、本人に好意を持っている事務職の女性と2人きりにさせ、性的行為をさせ、それを撮影しようと企てた。本人はこの際急性アルコール中毒となり入院(両親は、先輩の企てを避けようとした行為であると主張)。本件は上司に報告されず。
・仕事中に、何かあると「死ねよ」と発言したり、「殺す」とメールしたりした。
・カラオケ店で、コロッケを口で受け止めるよう投げつけられた。
○Yの外来会議(平成14年1月18日)で、Aの様子がおかしいことが話題となったが、Bはその席でAを非難。
○Aは、こうしたいじめのつらさを、友人に訴えるようになり、Cに対しては「もし、俺が死んだら、されていたことを全部話してくれよな。」と言っていた。
○平成14年1月24日、Aが自宅で自殺。
○Bは平成14年11月まで心身症で休職。
[判旨] 一部認容 一部棄却
T Bのいじめ行為と不法行為責任
1 Bは、自ら又は他の男性看護師を通じて、Aに対し、冷やかし・からかい、嘲笑・悪口、他人の前で恥辱・屈辱を与える、叩くなどの暴力行為等の違法な本件いじめを行ったものと認められるから、民法709条に基づき、本件いじめによってAが被った損害を賠償する不法行為責任がある。
2 BらのAに対する言動が、Bらが主張するような悪ふざけや職場の先輩のちょっと度を超した言動であったと認めることは到底できない。
U Yの安全配慮義務と債務不履行責任
1 Yは、Aに対し、雇用契約に基づき、信義則上、労務を提供する過程において、Aの生命及び身体を危険から保護するように安全配慮義務を尽くす債務を負担していたと解される。具体的には、職場の上司及び同僚からのいじめ行為を防止して、Aの生命及び身体を危険から保護する安全配慮義務を負担していたと認められる。
2 Bらの後輩に対する職場でのいじめは従前から続いていたこと、Aに対するいじめは3年近くに及んでいること、本件職員旅行の出来事や外来会議でのやり取りは雇い主であるYも認識が可能であったことなど、上記認定の事実関係の下において、Yは、BらのAに対する本件いじめを認識することが可能であったにもかかわらず、これを認識していじめを防止する措置をとらなかった安全配慮義務違反の債務不履行があったと認めることができる。
3 したがって、Yは、民法415条に基づき、上記安全配慮義務違反の債務不履行によってAが被った損害を賠償する責任がある。
V いじめと自殺との事実的因果関係の存在
BらのAに対するいじめは執拗・長期間にわたり、平成13年後半からはその態様も悪質になっていたこと、平成13年12月頃から、Bらは、Aに対し、「死ねよ。」と死を直接連想させる言葉を浴びせていること、Aも、Cに対し、自分が死んだときのことを話題にしていること、さらに、他にAが本件自殺を図るような原因は何ら見当たらないことに照らせば、Aは、Bらのいじめを原因に自殺した、すなわち、本件いじめと本件自殺との間には事実的因果関係がある、と認めるのが相当である。
W 損害賠償義務の範囲
1 原則
いじめによる結果が必然的に自殺に結びつくものでないことも経験則上明らかである。従って、いじめを原因とする自殺による死亡は、特別損害として予見可能性のある場合に、損害賠償義務者は、死亡との結果について損害賠償義務を負うと解すべきである。
2 Bの損害賠償義務の範囲
(1) BらのAに対するいじめは、長期間にわたり、執拗に行われていたこと、Aに対して「死ねよ。」との言葉が浴びせられていたこと、Bは、Aの勤務状態・心身の状況を認識していたことなどに照らせば、Bは、Aが自殺を図るかも知れないことを予見することは可能であったと認めるのが相当である。
(2) Bは、Aが本件自殺によって死亡したことについて、損害賠償義務を負うと認められる。
(3) ・・・他方、いじめに対する対処方法は自殺が唯一の解決方法ではなく、自殺を選択したのはAの内心的要因による意思的行動である面も否定できないこと、Bも、「死ね。」との発言はあるが、実際にAの自殺を予見していたとは認められないことなど諸般の事情を考慮すれば、Aに対する本件いじめ及びそれによってAが自殺したこと(に)よってAが被った精神的苦痛を慰謝する金額は、1000万円をもって相当と認める。
3 Yの損害賠償義務の範囲
(1) 上記認定の事実関係の下において、YがBらの行った本件いじめの内容やその深刻さを具体的に認識していたとは認められないし、いじめと自殺との関係から、Yは、Aが自殺するかも知れないことについて予見可能であったとまでは認めがたい。
(2) Yは、本件いじめを防止できなかったことによってAが被った損害について賠償する責任はあるが、Aが死亡したことによる損害については賠償責任がない。
(3) Aが本件いじめによって被った精神的苦痛を慰謝する金額は、上記認定の事実経過等諸般の事情を考慮して、500万円を相当と認める。
[評釈] 判旨に一部疑問あり(結論には賛成)
1 意義
民間部門において、職場のいじめに起因する自殺について使用者の安全配慮義務違反を認めた初めての判決である。なお、公共部門については、川崎市水道局事件がリーディングケースである。
川崎市水道局(いじめ自殺)事件(横浜地判平14.6.27労判833号61頁)
川崎市水道局(いじめ自殺)事件(控訴審)(東京高判平15.3.25労判849号87頁)
川崎市水道局事件が国家賠償法に基づき市の賠償責任を認めた反面、職務遂行上の加害行為として加害者本人の損害賠償責任を認めなかったのに対し、本件はいじめの加害者の損害賠償責任を認めた初めての判決である。
2 いじめの不法行為性
いじめを不法行為として損害賠償責任を認めた裁判例としては、学校における生徒間のいじめに関するものが多いが、それ以外の社会関係におけるものもある。
・嫁いじめ
(東京地判昭37.4.3判時298号23頁)姑と内縁の夫に共同不法行為責任を認めた。
・村八分
(津地判平11.2.25判タ1004号188頁):地区住民による共同不法行為責任を認めた。
・学校
神奈川・津久井町立中学校事件(東京高判平14.1.31判時1773号3頁):複数の同級生の共同不法行為責任を認めた。
ほか多数。
・職場
兵庫セクシュアル・ハラスメント(国立A病院)事件(神戸地判平9.7.29労判726号100頁):性的嫌がらせ及びその拒否に対するいじめについて上司の不法行為責任を認めた(性的嫌がらせに80万円、いじめ行為に20万円の慰謝料)。
国際信販事件(東京地判平14.7.9労判836号105頁):会社代表取締役による嫌がらせ(原告側表現では「いじめ」)について不法行為責任を認めた(150万円の慰謝料)。
川崎市水道局事件では、いじめを行った上司・同僚について「公権力の行使に当たる公務員が、その職務を行うについて、故意又は過失によって違法に他人に損害を与えた」ものと事実認定したが、国家賠償法に基づき公務員個人はその責を負わないとして、損害賠償責任を否定している。
しかし、兵庫セクシュアル・ハラスメント事件では、国についても「被用者が事業の執行に就き第三者に加えたる損害」として民法715条の使用者責任を認定して、公務員である上司の個人責任を否定していない。
国家賠償法上の公務員の個人責任については、認める下級審裁判例(東京地判昭6.10.11判時644号22頁)もあるが、最高裁判例は認めていない(最判昭30.4.19民集9巻5号534頁)。ただ、塩野宏『行政法U』255頁は、「公務員がその私利私欲のために不法行為をした場合に国家賠償を認めるよう国家賠償法が拡大適用されると、公務員個人免責がそのまま認められるかどうかは疑問の余地がある」と述べている。セクハラやいじめは「私利私欲」であろう。
なお本件は純粋に民間事業であり、いじめを行ったBの個人責任の認定に特に問題はない。
3 いじめ防止の安全配慮義務
安全配慮義務は、当初は「労働者が労務提供のため設置する場所、設備若しくは器具等を使用し又は使用者の指示のもとに労務を提供する過程において、労働者の生命及び身体等を危険から保護するよう配慮すべき義務」(川義事件)と、物的な側面に力点が置かれていたが、やがて過重労働による脳・心臓疾患(過労死)や長時間労働による自殺(過労自殺)についても、過剰な長時間労働によりその健康を害さないように配慮する義務に拡大してきている。これを「健康配慮義務」と呼ぶこともある。
川義事件(最判昭59.4.10民集38巻6号557頁)
システムコンサルタント事件(東京高判平11.7.28労判770号58頁)
電通事件(最判平12.3.24民集54巻3号1155号)
本件は、職場のいじめを防止することについても使用者の安全配慮義務に含まれることを明示した第2の裁判例となる。
ただ、川崎市水道局事件がこれを「生命、身体等への危険から被害職員の安全を確保して被害発生を防止し、職場における事故を防止すべき注意義務」と定義し、いじめ防止義務を自殺という事故との関係で捉えているのに対し、本件では「職場の上司及び同僚からのいじめ行為を防止して、Aの生命及び身体を危険から保護する安全配慮義務」と述べ、いじめを受けること自体を被害と認めている点が注目される。
前者が過労自殺事件との類比において、
・常軌を逸した長時間労働→精神疾患→自殺
・いじめ→精神疾患→自殺
という因果関係を前提として安全配慮義務を考えているのに対して、
後者はむしろセクシュアルハラスメント事件との類比において、
・セクシュアルハラスメント→精神的苦痛
・いじめ→精神的苦痛
というより直接的な関係を前提としているように見える。
(後述のように、自殺の予見可能性を否定しているためであろうか。)
4 予見可能性
本判決の最大の特徴は、Bについては自殺の予見可能性を認めながら、Yについては予見可能性を否定している点である。しかしながら、その論拠は「YがBらの行った本件いじめの内容やその深刻さを具体的に認識していたとは認められないし、いじめと自殺との関係から、Yは、Aが自殺するかも知れないことについて予見可能であったとまでは認めがたい」というものであって、やや説得力に欠ける。
「いじめと自殺の関係」については、川崎市水道局事件地裁判決では「精神疾患に罹患した者が自殺することはままあることであり、・・・場合によっては自殺のような重大な行動を起こす恐れがあることを予見できたというべき」とし、同事件高裁判決では「いじめ(不法行為)と一郎の心因反応ないし精神分裂病の発症・自殺との間に事実的因果関係が認められる以上、不法行為と損害(一郎の死亡)との間に相当因果関係がある(損害論)というべきである」と、予見可能性ないし相当因果関係を認めており、判断がずれている。これは、こちらが前述のように、
・いじめ→精神疾患→自殺
という因果関係で考えているのに対し、本件では
・いじめ→精神的苦痛(−//→自殺)
という因果関係で捉えているためと思われる。「いじめに対する対処方法は自殺が唯一の解決方法ではなく、自殺を選択したのはAの内心的要因による意思的行動である面も否定できない」という言い方はこの現れであろう。確かに本件においては、川崎市水道局事件と異なり、Aが精神科で精神分裂病、人格障害等と診断されたという事実はなく、精神疾患に罹患することなく通常の判断能力を有した状態で自殺したものと判断したことにも理由があるように見える。
しかし、過労自殺事件の下級審裁判例では、「うつ病に罹患していたか否かは必ずしも明らかでないが,自殺を惹起するような精神的疾患に罹患していたことは認められるというべき」(三洋電機事件)とか、さらには「私病が原因で自殺するとは考えがたいことなどの事実を考慮すると、太郎は・・・心身とも極度に疲労したことが原因となって、発作的に自殺したものと認められる」(協成建設事件)など、精神疾患への罹患を自殺から逆に推定したり、精神疾患への罹患という認定すらなしに自殺との因果関係を認定しているものもあり、精神疾患の診断がなくても
・長時間労働(→精神疾患)→自殺
という因果関係を肯定しているものがある。
三洋電機事件(浦和地判平13.2.2労判800号5頁)
協成建設事件(札幌地判平10.7.16労判744号29頁)
いじめの場合、いじめを受けることと精神疾患に罹患することの蓋然性については現在のところ必ずしも明らかではないが(フランスの例であるが、イルゴイエンヌ『モラルハラスメントが人も会社もダメにする』では、モラルハラスメントを受けた者のうち69%がひどいうつ状態、7%が中程度のうつ状態、24%が軽いうつ状態を経験しているとし、またモラルハラスメントの被害者517人中13人が自殺未遂を経験しているという。)、職場を変わることができないのかとの問いに対して「Bに恐怖心を抱き、逃げても追いかけてくる旨答えた」との反応から精神疾患への罹患を認定することも可能であったように思われる。
ところで、本判決は、Bについては「BらのAに対するいじめは、長期間にわたり、執拗に行われていたこと、Aに対して「死ねよ。」との言葉が浴びせられていたこと、Bは、Aの勤務状態・心身の状況を認識していたことなどに照らせば、Bは、Aが自殺を図るかも知れないことを予見することは可能であったと認めるのが相当である」と、
・いじめ→精神的苦痛→自殺
という因果関係を認定しているが、これは不法行為責任と債務不履行責任では予見可能性の範囲が異なるという考え方によるものであろうか。確かに、債務不履行責任においては、予見可能性の有無は究極的には契約の解釈の問題となり、本件でいえば労働契約の付随的義務としての安全配慮義務の射程如何となるのに対して、不法行為責任においては通常人に求められる予見義務の射程如何となることから、両者が異なることは異とするに足りないようにも見える。
しかしながら、安全配慮義務の射程を予見可能性のみで捉えると、本判決のようにオール・オア・ナッシングとなり、現実の微妙なところをかえって捉えられなくなる危険性があるように思われる。この点は学校におけるいじめ自殺事件においても同様で、中野富士見中学校事件では安全保持義務違反を認定しつつ、自殺までは予見可能でなかったとしてしているが、疑問である。
中野富士見中学校事件(東京地判平3.3.27判時1378号26頁)
中野富士見中学校事件(控訴審)(東京高判平6.5.20判時1495号42頁)
5 過失相殺
そこで、多くの裁判例は理論的には問題があるにせよ、債務不履行責任にも過失相殺を類推適用し、いわば使用者に求められる安全配慮義務の程度に応じた損害賠償を認めるというやり方をしてきたのではなかろうか。
学校のいじめ自殺事件では、上記津久井町立中学校事件が、予見可能性があったと認定した上で、7割の過失相殺をしており、またいわき市小川中学校事件が、自殺の予見可能性を要求することなく安全保持義務違反と自殺との相当因果関係を認めた上で、7割の過失相殺をしている。
いわき市小川中学校事件(福島地いわき支判平2.12.26判時1372号27頁)
また、職場のいじめ自殺事件のリーディングケースである川崎市水道局事件では、「本人の資質ないし心因的要因も加わって自殺への契機となったもの」と認定して7割減額している。
もっとも、電通事件最高裁判決は、過失相殺により3割減額した原審を破棄し、本人の性格や家族の対応を理由とする過失相殺を否定している。しかしながら、これはおよそすべての過失相殺を否定したものではなく、長時間労働による自殺という特定のケースにおいて、本人のうつ病親和的性格が一般社会では美徳とされるものであり、上司らもその性格を積極的に評価していたという事情を踏まえて、いわば使用者側がそれを本人の過失と主張することが禁反言の原則に反するものと捉えたものと解するべきであろう。
本件判決においても、Bの賠償額を1000万円とし、Yの賠償額を500万円としたことの背後には、Yの責任はBの責任の半分程度という事実上の判断があったと思われるが、それを、Bについてはいじめによる精神的苦痛と自殺という結果の双方に対する責任、Yについてはいじめによる精神的苦痛に対する責任のみを認めたことの結果であるかのように整理したのではなかろうか。
この(YがBの半額という)結果自体は妥当なものと思われるが、それを予見可能性の相違によって説明するのは適切とは思われない。これでは、人を自殺にいたらしめた責任は差し引き500万円分ということになってしまう。
本件においてYとの関係においてA側の過失として損害賠償額を相殺すべき事由としては、むしろ業務との関連性の程度に着目すべきであると思われる。BとAの関係は業務上であろうがなかろうが不法行為が成立する一般市民間の関係であるが、Yの安全配慮義務はあくまでも業務上の行為に係わる限りのものであり、業務外におけるBとAの私人間の関係にまで責任を負担すべきものではない。
本件におけるBのいじめ行為には、職場において労務を提供する過程におけるものも含まれているが、一方、勤務時間終了後も遊びにつき合わせたとか、買い物や、肩もみ、家の掃除、車の洗車、長男の世話などの家事に使用、風俗店の送迎、パチンコ店の順番待ち、馬券購入などの私用に使ったとか、カラオケ店で、コロッケを口で受け止めるよう投げつけられたといった行為が、どこまで業務との関連性があるかについては、検討の余地がある。
この点について、セクシュアルハラスメントの事案では、職場懇親会の二次会のカラオケボックスでキスをしたりスカートをめくったりブラウスのボタンを外したりしたことは職務に関連するとした大阪セクシュアルハラスメント事件がある一方、公務災害の認定に係るものであるが、公務終了後上司を自宅に招き入れてビデオを見せたところ性的暴行を受けたことには公務遂行性がないとした地公災基金東京都支部長事件がある。
大阪セクシュアル・ハラスメント(S運送会社)事件(大阪地判平10.12.21労判756号26頁)
地公災基金東京都支部長(東京都海外事務所)事件(東京地判平16.12.6労判887号43頁)
これとも関連するが、本件においてもう一つ考慮すべき要素として、BとAの職務上の関係をどう捉えるべきかという問題がある。上司と部下という関係において行われた行為と同僚同士の関係において行われた行為では、前者の方が断り切れないのが通常であり、同様の行為であっても業務性に差があると考えられるからである。
この点について、本件におけるBとAの関係は、ともに外来部門の准看護士であるという点においては同僚関係であり、物品管理関係の仕事については管理課長とその「手伝い」という上下関係に準ずるような関係であり、さらに男性看護師グループの中における体育会系的な先輩後輩関係であるという複雑なものであり、単純に割り切ることはできないが、これらを総合的に判断して、上司・部下と同僚の中間的な関係と捉え、ある程度の業務性を認めてもよいのではないかと思われる。(ただ、先輩後輩関係を上司部下関係に準ずるものと見るのは、恐らく本件の実態には即しているのであろうが、規範的観点からは抵抗感があるところである。そういう関係に唯々諾々と従っていたこと自体が過失相殺の対象となるべきではないかという感もある。)