ここでは、個人的におおハマリしてる作品等を順次ご紹介していきます。
コミックが主にはなっていくと思いますが、分野、年代、もろもろにこだわらず、気の向くまま挙げていきます。さあて。何が出てくるのやら。


11月 

『夕凪の街 桜の国』こうの史代著 双葉社

こうの史代さんという漫画家さんは、時々読む双葉社のコミック誌(坂田さんがデュカスを掲載されている『すてきな主婦たち』)で見かける限り、ほんわか優しい、でもかなり個性的な作品世界の人というのが私のこれまでの印象だった。
ある日ネットの知人が、自分のブログでこの本を入手された話を書かれていて、そこには作品の詳細は書かれていなかったのだが、こうの史代さんのコミック新刊が出ているんだ〜と知った。
それでちょっと気にかかっていたらちょうど書店の棚で目に付いて、どれどれ?くらいな気持ちで手にしたのだった。
手にとって見ると、みなもと太郎先生が帯で絶賛しておられる。
後ろを見るとテーマは”ヒロシマ”らしい。
あ、もしかして重い作品なのか。
でも、このほんわか優しい絵でどういう展開なのだろう??
ふらふらっとレジに向かい購入。即日読了。
・・・これは凄い・・と思った・・。

こうのさんは広島の出身でいらっしゃるらしい。
といっても「被爆者でも被爆二世でもない」とあとがきに書かれている。
今、現代の日本人にとって原爆の記憶は遠く過去のことになりつつある。
またこういう話題を持ち出すこと自体、どこか後ろめたいような、なんとも言いがたい思いが走るのも確かだ。
だけど、この作品はそうしたもろもろの不自然な思いを自然に還してくれるような、心にすーっと染みわたる優しい切実さを持っていて、しかも気負いがない。しかし、力がある。
あまり詳しいことは書く必要がないと思う。
ともかく多くの人に読んでもらいたい本とお薦めに挙げておく。

10月 

『神様がくれた指』佐藤多佳子著 新潮文庫

坂田靖子さんがこの本の解説を書かれるという情報を貰って初めてこの作家の本を読んだが、実に面白かった!!解説が坂田靖子というだけでもこの本を買う価値は私には十分だったのだが、オオアタリもいいところ。
物語は天才的職業スリの青年・辻牧夫と、美人占い師・昼間薫の出会いから始まる。出所したばかりのスリが主役とあってチリチリとどこか耳の後ろでうずく不要な倫理観。なのにまたこの青年がピュアでストイックで好青年としかいいようがないのだよ、美形とは一切書いていないが。
私は活字本を読む時になんとはなしにこの話は誰それが描いたら合うな〜などと思い浮かべるのだが、この作品はどことなく森脇真末味さんの絵で浮かんだ。
照れたようににやりと笑う細身で長身、器用な指先!うう、艶っぽい。
もう一方の主人公・昼間は小柄な美人占い師。性を超え男でも女でもある、そして男でも女でもない存在。司法試験の勉強途中にとあることから占い師という不思議な生き方を選んでいる。常に穏やかで冷静な昼間は、出てくるだけで私自身も癒されるようだった。人の話を聞くことに徹する人は少ない。占い師というのは名カウンセリングでもあるのだな・・。
出所したばかりの帰路でヒドイ目に遭いふらふら倒れそうになっていた辻を拾って、昼間が家賃を溜めて追い出されそうになっていた古い洋館に連れ帰ってから奇妙な同居が始まるのだが、このあたり、やおい的な読み方もできる。昼間の持つ両性性と素直に交わされる好意にほんわかな透明感があって心地よい。
この二人に不思議な因縁で絡む一人の少女、そしてその後ろに潜んでいた若者達の危険なゲーム、その中心に黒々と存在するカリスマ的青年。
さらには辻を愛して止まない清楚な花・早田咲や辻のスリ仲間の面々、昼間の住む古い洋館の大家=またこのおやじが頑固だけどイイ味だすんだわ=、強くも正しい姉(女弁護士)などなどを登場させつつ、一度動き出したドラマは急旋回し、一気に駆け抜ける。 面白い!文句なしに面白い作品。
ただ本来は大筋ではないのだから気にしなくてもいいのかもしれないが、悪のカリスマ青年と、昼間がずっと気にかけた少女、この二人のその後がどうだったのか、とてもとても気になってしまった。悪い癖である;;

最後に声を大にして私は言いたいっ 坂田さんの巻末解説がまためっちゃいいんである〜!!
この分析力、洞察力、そして無駄の無い文章!
ひいきのしたおしで言うのではない、ホントにこれは名解説だと思う。
惜しむらくは、新潮文庫の担当者が帯に「解説・坂田靖子」を入れなかったこと。私なら絶対入れるけどね(笑)