8月もまた坂田ファン友達のイワンさんお薦めの本を読み耽りました、感謝です!>イワンさん

『文人悪食』嵐山光三郎 著 新潮文庫

名だたる文人達をその食生活に視点を置いて切り込んだエッセイ。森鴎外のまんじゅう茶漬けの話は特に強烈でした。これはしかし有名な話だったんですね、トリビアでもやったらしい。。。芥川龍之介、菊池寛、坂口安吾、などなど著書を読んだことがある人もない人も、どの話も面白く、最近ご無沙汰の「文学」も久々に読みたいような気になりました。(いや、なかなかもう読めないけど;)

『東亰異聞』小野不由美 著 新潮社

少し前に梶原にきさんが漫画化した方を読んでいたのだけども、原作を読みました。この場面があのシーン、とコミックを思い出しながら読むのはなかなかに一興でした。梶原さんの絵は非常に合っていて作画は的確だったのだなーと改めて思いました。

江戸から東亰と名を変え、時代は明治。浅草十二階ができ、西洋文化を取り込み、どんどん発展しようとする近代日本。
その夜の闇に赤姫装束の殺人鬼、人を火達磨にして突き落とす火炎魔人という妖怪変化ともつかぬものが跋扈し、文明開化に浮かれる都を恐怖に戦かせる。
ガス灯がぽちぽち付き始めても、夜の闇は濃く、殺人の現場には怪しい人魂売りや般若の面を被った蕎麦屋、木箱を背負った読売りなどが目撃される。これらの連続殺人(未遂も含む)で狙われていると思われるのは外交で手腕を発揮した華族の名家・鷹司家。
物語は推理をしつつ取材を進める新聞社の記者・平河と、平河と親交がある浅草の便利屋・瓦屋の万造を中心に進んでいく。幕間には黒衣の男が姫人形と会話を交わす。それがいっそうこの世界を謎めいたものにし、ラストのどんでん返しにつながっていくのだが。

平河は好感のもてるキャラだが、物語上は狂言回しである。物語の主役は思わぬところから最後に現れるが、表面上は相続争いの鷹司の二人の息子・常と直を中心にした人物関係が主。母親が違う二人の庶子の関係は非常に微妙で、お互い相続は気持ちの上では放棄しているのに周囲がそれを許さず争いの中心におかれるという立場。幼い時は仲が良かったという彼らの思い出で語られる、連れて行かれた海外でメイズで迷子になった話など非常に切ない。
既に故人の本妻は阿部晴明の陰陽道を組む家の出であり、西洋の文化を是とした主人との関係なども背景に複雑に絡む。全ての謎が解けた後のラストは漫画化・原作ともにやや唐突な感じが(私には)拭えないのだが、もう一人の庶子・輔(陰陽師としての力を持つ)の登場と存在がやや希薄なまま怒涛のラストに収束するためではないかと思う。
近代日本が失ったものはなんだったか。人工の明かりなど頼りないもので追い払ったつもりになっている濃いねばつくような闇や闇の世界にいきる異界への愛着のようなものを堪能させてくれる怪奇ミステリの傑作といえましょう。

『屍鬼上・下』小野不由美 著 新潮社

萩尾先生の「ポーの一族」への小野さんならではのオマージュかと思ったり。
田舎の人間関係の濃密な構築がまず凄い。
都会に出たいと漫然と思ってる若者、都会から田舎の暮らしに憧れた両親に連れられて嫌々やってきた若者、家を出ることも叶わず何の目標もやりたいこともなく家族にバカにされながら酒屋を手伝いつつ荒れる若者などなど。
同じ年代でもそれぞれの事情を抱え、それぞれの心理と関係がある。年寄りには年寄りの、嫁には嫁の、会社員・公務員・自営業の男達には男達のそれぞれ。
物語はそうした村に、一軒の変わった洋館が建ち、そこに越してきた都会からの一家がもたらした災いを、緻密な描写で描き出したもの。主な主人公は村の中心的存在である寺の僧でもあり、作家でもある静信と、静信の幼馴染でもある医者の敏夫、越してきた一家の少女である。が、村人一人ひとりの物語があり、それらが実に入り組んで織り成されていく。
怪奇であり、残酷な描写も多いし、人もたくさん死ぬのだが、不思議とグロではなく、静かな諦めに似た哀しみが全編を通奏低音のようにあるのは、作家でもある静信の書き続ける物語が平行して進むせいもあろうか。聖書カインに題材したその作品は物語の中で途中まで書かれては止まる。
ラストシーンはややお約束的な印象ももったが、オマージュ?と思えたのもそのシーンがあってこそかもしれない。

『海の底』有川浩 著 メディアワークス

ある日突如横浜の港に上陸した巨大エビ(のようなもの=レガリスと名づけられる)の集団。それらは社会的組織をもち、集団で人を襲い食い始める。その襲撃から逃れて就航していた海上自衛隊の潜水艦に逃げ込み、閉じ込められることになった子供達と、彼らを救うために命を投げ出した上官の死を目の当たりにした二人の実習生の、やむを得ず始まった共同生活。
一方、いち早く異常事態をつかみ、警備体制を敷いた明石警部。権限はないが実力はある彼の、その実力をすぐに見抜いて重用する本庁からやってきた烏丸警視正。この二人の作戦と闘い。
艦の中と港の外と二つの物語が同時進行するのだが、明石と烏丸の関係はほとんど「踊る大捜査線」。明石のキャラが「踊る〜」よりは大人な感じが好ましいし、仕事が出来て合理的な人が組織の中で、頭だけの上層部を煙に巻きつつ、なんとか実効性のある策をこうじていく様はやはり気持ちがいい。
正体が分からない異常生物の分析研究として科学者の芹澤はゴジラに出てくる科学者の名前だそう。科特隊やゴジラといった言葉が作中にはっきり出るあたりも潔く、それらへのオマージュとしての作者の意図を感じて、同じように好きな人はにやりとするだろう。
海上自衛隊の実習生二人・冬原と夏木のコンビも、役者ならあの辺にやって欲しいとか、マンガにするならこういう感じとか絵が浮かびやすく分かりやすいキャラ設定だし、閉じ込められる子供達の中に一人だけ高校三年の少年っぽい女の子が混ざっていて、といった話も上手くまとまっている。全体にいろんな元ネタが混ざり合った感じは否めないのだが、うまくテンポよく構築してあると思う。

『スクリーミング・ブルー』藤木稟 著 集英社

美しい沖縄の海に流される内蔵を抜かれ、ハイビスカスの花を口から吐き出していく美しい死体。死体には凝った絵柄まで施され。。。冒頭まもなく死体の加工シーンで始まる衝撃の物語は、連続殺人を解決するために本庁から派遣された刑事・久義と、心理捜査官・夏目の二人を主人公に進んでいくが、平行して現地で神がかりする少女・朝香の物語も進行。沖縄の神々の物語は少し前に読んだ、吉田秋生さんの「イブの眠り」を思い出したりした。

神経質な久義と、おおらかで情が深い夏目のコンビの捜査の様子もリアリティがある。連続殺人の犯人の物語としては海外モノの影響を感じたけども、ラストのカタルシスは上手い。