「カレワラ物語」フィンランドの国民叙事詩 キルスティ・マキネン著・荒牧和子訳 春風社発行
今度オケでやる前プロのシベリウスの「トゥオネラの島の娘」「トゥオネラのレンミンカイネン」は「4つの伝説曲」という中から2曲抜粋したものだが、その元になった物語はフィンランドの叙事詩であるということで、その叙事詩を分かりやすくまとめた本を指揮者が練習の始めの方で紹介くださったのだった。
フィンランドの叙事詩を元にしてるというわけだが、神話や叙事詩は伝承としてのバリエーションが多く、人名も入り組んでいるので非常に分かりにくいものが多い。 原典に忠実であろうとすればするほどまとめたものは資料的で非常に読みにくいのだが、この本は著者がバリエも考慮しつつ一本にまとめたらしいので、あらすじを大きく知りたい人間、紹介本としてはすごくいい本だと思う。子ども向きかというとどうだろう?という感じではあるが。
作者が研究を元に創作力を加えてまとめた物語らしい。 私自身はあらすじをネットで読んで本を読むのはあとにしようなんつって済ませてしまっていたのだが、先回のパート練習の際に買った方が「読み終わったからお貸ししますよ〜」などとおっしゃるので、せっかくなのでお借りして翌朝に読了。
字も大きいし、文章も平易で本当に読みやすかった。
物語には主に3人の男が登場する。
◆ヴァイナモイネン・・大気の乙女が海の風で孕んで生んだとされる。生まれるまでに数百年もの長い時を経たので生れ落ちた時には既に老人。魔法を使える魔術師でもあるが、いくら知恵と権力があっても外見が年寄なので女性にはもてない;
でも本人は若くて美しい嫁が欲しい。
ユングで言うところの「老賢者」の要素を主に持つと思いながら読んだ。賢者なんだから色は棄てろよ、と思わなくもないのだが;
「アーサー王物語」に出てくる魔術師マーリンなんかも思い出したり・・。
マーリンも女性の魔術師のせいで最後自滅するのだよな、たしか。
造物主に近い存在であり、最後に世代交代するまではカレワラの主力。
◆イルマリネン・・人のいい鍛冶屋。
ポポヨラの老魔女に美しい娘を嫁にやるとだまされて、「うちでの小槌」的魔法の道具「サンポ」を生み出すが、道具は取られるは嫁はこないわ・・で最初は気の毒だった。
鍛冶を扱う神というのはギリシャ神話でも古事記でもどこでも必ず出てくる要素だけども、大抵外見には恵まれない。
武器である鉄を扱う「力」の象徴でもあるのか。
しかしこの人はちゃんと身支度を整えると色男。
こうして後で要素が混ざるのがまた面白い。
いったん手ひどく振られた美しいポポヨラの乙女にも身支度をきちんと整えて出直した後では心をつかめて結婚できる。
その際の母である老魔女・ロウヒの難題をやっつけていく物語は、古事記にあるスサノオのふっかける難題を彼の娘・セリヒメの協力を得てなんとかこなしていくオオナムチの話にも似てる。
◆レンミンカイネン・・・短慮だけど女性にモテモテの好戦的な男。
男性性の中でもさらに男性らしい部分を集めたような男だな、と思いつつ読んだ。ほんとーにどうしようもないが、こういう男がモテるのがまた世の中というもの。ホメロスのオデュッセウスも似たようなもんだ。
実母にいかに諭されようとも無謀な真似ばかりして命を落とすが、これまたダメな子どもほど可愛いのか、母の愛と知恵と尽力で再生する。しかも再生した後も懲りずに似たような無謀を繰り返すあたりもしょうもない・・・w
元型でいうならアニムスであると同時にトリックスターにもあたる存在なのかもしれないな。この軽薄の無謀がなければ物語は始まらない。
ここに出てくるレミンカイネンの母は女性性(アニマ)の中でも慈愛を集めたような存在。
一方この対極にあるのが、ポポヨラの老魔女ロウヒだろう。
ユングで言うところのグレートマザーの二つの側面を分けた二人と言えると思う。一方は無謀なアニムスを諌め諭し救い許す。
一方は陥れ死に誘い込み飲み込む。どちらも女性性のもつ二つの側面を表している。
シベリウスの4つの伝説曲はこのレミンカイネンが主役の話から生まれている。
美しい嫁を手に入れるために美女のいる島に赴きモテまくった挙句、しかし目当ての美女には振り返って貰えず、無理矢理連れ去る。これが1の話。
3では1で手に入れた美女と仲良くやっていたものの一度裏切られて、自分も好きなことをしてやるさとポポヨラに出向き、そこの美しい娘をモノにしようとその乙女の母である老魔女ロウヒの難題を果たすべく黄泉の国である「トゥオネラ」に出向く。が、難題を果たせず命を落としながらも母の愛と知恵によって再生する。
大きく言えば、色男である英雄の冒険、その死と再生譚。
もう一つ番外編的に「クッレルヴォ」という英雄の話が出てくるが、これもまたシベリウスの初期の合唱交響曲になっている。
こちらもまた古事記ならスサノオ的な男だなー。破壊的で好戦的。近親姦が出てくるあたりはニーベルングのジークフリートの物語なんかにも似ている。
カレワラの物語は最後、無垢の乙女が相手なしに身ごもって生まれた男の子がヴァイナモイナンと世代交代するところで終わる。
王政を神格化するための手段なのだろうか、キリストの誕生も思わせる物語で、厩ではないが馬の息で暖められながら生まれるなんてくだりもあったり、世代交代を恐れた権力者に殺されかけるあたりなどもあったりする。
やっぱりこういう神話、叙事詩は全世界に共通する部分と独自の価値観とあって非常に興味深いな。
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