Kanon Short Story
『喜劇の街』
『朝〜、朝だよ〜』
ん……。
『朝ご飯食べて学校行くよ〜』
カチッ。
俺は目覚ましを止める。
「朝か……」
着替えて、俺はいつものように一階に降りる。
「おはようございます、祐一さん」
そう挨拶する秋子さんは、今日はいなかった。
「おはよう、祐一君っ!」
…………。
「夢か。早く起きないと」
俺は部屋に引き返す。
「うぐぅ。待って……」
戻ろうとする俺をあゆが引っ張る。
「夢じゃないもん」
「そうか、それは悪かった。じゃ、学校行くから」
再び引き返そうとする俺。
「うぐぅ〜。待ってよ〜」
「なんだ、夢じゃないなら学校だ」
「……朝ご飯は?」
「いらない」
「うぐぅ」
「ということで、じゃあな」
「あっ、祐一君、待ってよ〜」
まだなにか言っているあゆを置いてそのまま俺は家を出る。
「寒いな……」
俺は思わず空を見上げる。そして歩き始める…
ふっ
不意に地面の感触が無くなる。
「なにぃっ!?」
どさっ。
「痛っ……」
俺は尻餅をついていた。
玄関を出てすぐのところに落とし穴が掘ってあったのだ。俺はそのまま転落。
こんなことをする奴は……
「あれ〜? 祐一どうしたの?」
真琴だった。丁度俺を覗き込むようにしてこっちを見る。
満面の笑みを浮かべて。
しかし、今日の俺は冷静だ。
「悪い、真琴。手を貸してくれ」
「うん」
勝ち誇って油断している真琴は俺に手を差し伸べた。
ぐいっ! 「きゃっ」
どさっ! どてんっ!
真琴は俺に引っ張られて穴に落ちる。
代わりに俺は脱出に成功する。
「こら〜っ! 祐一の卑怯者〜っ!」
「卑怯なのはどっちだよ」
「出しなさいよ〜」
まだ喚いている真琴を無視して俺は門を出た。
がらっ
学校に着き、教室の戸を開ける。
今日は余裕で来たから遅刻どころかまだ生徒も少ない。
「あ、祐一。待ってたよ〜」
「…………」
既に名雪が来ていた。
「祐一、どうしたの?」
「これは、夢か」
「祐一、失礼なこと言ってる……」
「なんで既に名雪がいるんだ……?」
「そういう日もあるんだよ」
ガラッ。
教室の戸が開いた。北川がこっちを向いて立ち尽くしている。
「……水瀬がいる。これは夢か?」
「北川君まで……」
さすがに少し可哀相だった。
「相沢君っ、お昼休みだよっ」
「香里、それはもういい」
「そう、残念」
本当に残念そうだ。
「祐一も学食だよね?」
「あ、ああ」
「さっさと行かないと席がなくなるぞ」
北川が促す。
「そうだな」
「ではしゅっぱ〜つ!」
香里が片手を高々と上げている。
「……香里、そのキャラはなんだ?」
「冗談よ。さ、早く行きましょ」
香里は普段のままだった。
「お……」
一階の廊下で俺はある人物を見つけて立ち止まる。
「どうしたの祐一?」
「悪い、先に行っててくれ」
「え? うん……」
俺は廊下から中庭に出る。
そこには二人の少女が居た。
「祐一さん」
制服姿の栞。そして。
「…………」
ぺこっ。
天野。無言で頭をたれた。
「で、なんで二人が此処にいるんだ?」
「お友達になったんですよ」
「そうなんです」
天野の言葉に栞は嬉しそうだ。
成り行きは知らないが、同じ一年なら不思議はないかもしれない。
友達ができるというのは良いことだ。
「それで、私のお勧めのこの場所に来たんです」
「でも、寒いぞ」
「あはは…そうですねぇ」
「いえ……悪くない場所です」
天野はまんざらでもないらしい。
「よし、だったら俺がいいものを買ってきてやる」
「えっ?」
俺は返事も待たず購買に走る。
もちろんアイスクリームを買うためだ。
「あれ?」
しかし、冷ケースにはなにも無かった。
売り切れ? 昨日までは売れ残っていたはずなのに?
「どうしたの、相沢君」
「いや、どうしたって……おい……」
俺は振り返って香里を見ると同時に目を疑った。
香里は両手にいっぱいのバニラアイスを持っていた。
「なに?」
いたって冷静の香里。一方の俺は凍りついたまま。
「……なんだそれは?」
そう言うのが精一杯だった。
「見ての通りよ」
「…………」
「たまには、いいかなと思って」
「香里、バニラアイス好きなんだよ〜」
いつから居たのか、名雪が言った。
「なるほど。血だったのか」
「?」
不思議そうな顔をしている名雪をよそに俺は中庭に戻った。
「あ、祐一さん」
栞と天野は仲良くバニラアイスを食べていた。
「……何故」
「相沢さん」
「なんだ?」
「たとえば、この雪が全部バニラアイスだったらと思ったことはないですか?」
天野は恐いことをさらっと言ってのけた。
「俺はない」
「「残念です……」」
天野と栞は同時に同じことを言った。
「恐いからな……」
「恐くないですよっ。そんなこと言う人嫌いですよっ」
「なんで雪が甘くなるんだよ……」
俺は想像して本気で背筋が寒くなるのを感じた。
「美味しいのにな……」
栞は残念そうにアイスを口に運ぶ。
もしかして香里が買ったものだろうか。
「栞、寒くないか?」
「ちょっと、寒いです。でも美味しいですよ」
横で天野がうなずいている。
「美味しくても…こんな寒いところで食べなくてもいいだろう?」
「いいんですよ」
栞は一瞬儚げな表情を見せた。
「だって、これは夢なんですから」
「相沢さんはいま、束の間の奇跡の中にいるのですよ」
「栞、天野、何言って…?」
「……祐一君……」
「?」
あゆの声がする。しかし、姿はない。
「祐一君っ!!」
「あゆ・・・・・・?」
目の前の景色がぼやけていく・・・・・・
「祐一君ってばっ!」
「あ、祐一君、やっと起きた……。なかなか起きないから心配したんだよ?」
あゆは猫耳帽子をかぶったまま、俺を覗き込んでいた。
ここは公園の芝生の上。
季節は春。
「あゆ、帽子とってくれ」
「うぐぅ……。どうして急にそんなこと言うの?」
「あゆの髪をいじりたくなった」
「ダメだよっ!」
あゆはぐっ、と両手で帽子を押さえつける。
その動作が子供っぽくて可笑しい。
風がそよぐ。
桜が風に舞い、鮮やかな緑に彩りを添える。
「祐一君、どんな夢見てたの?」
「ん……? 幸せな夢、かな」
「幸せな……? うぐぅ。よく分からない……」
「いまも充分幸せだけどな」
「え? 祐一君、いまなんて……?」
「ホラ、あゆ! たい焼き買いに行くぞっ!」
「あ、祐一君待ってよぉ〜」
日陰に残っていた冷たい雪もすっかり溶け、
ボクはこの街で祐一君と幸せに暮らしている。
幾つもの、そしてたった一つの奇跡の上で。
END.
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Image BGM “木々の声や日々のざわめき”
Image Charactor voice
mariko kouda / ayako kawasumi / hiroko konishi / mayumi iizuka / yui horie
the other DC cast members
またもや妙な作品を作ってしまいました。
前回が閉塞的な感じだったので今回はなるべくいろんなキャラクターを出そう、と言う趣旨。
ただ製作以降、アンソロコミック類で似たようなオチのネタを見つけてしまってややショック。
感想大歓迎。お待ちしております。希望とあれば設定や舞台背景もお教えします。
ちなみに、実は全員死んでると言うようなブラックなことは考えてません。
次回作は舞と佐佑理さんメインの予定。ただし執筆は未定。
製作開始 2000.9.25 完成 2001.01.26