Tales of phantasia Short Story Series

  Time Distotion 〜2〜





――「もうすぐトーティス村だ」
 俺ははっきりと目視できる村の入り口を見ながら言った。

「誰か居るよ」
 リスティの言葉どおり、村の入り口にかすかに人影が見えた。
 心持ち急ぎ足になり、入り口に急ぐ。
 近づくにつれ、その人影が幼い少女であると分かってきた。
 あれは村で兄と二人暮しをしている、アミィ=バークライトだ。

「やっ、アミィちゃん」
「あ、ファートさん。おかえりなさい」
 アミィちゃんも俺の存在には気付いていたらしく軽く会釈してくれた。

「二人はまだ帰らないのかい?」
「そうなんです。お兄ちゃん達、狩りに行くって言ったまま。
 日が暮れる前に戻るって言ったのに・・・」

   言われて初めて気付いたがそろそろ夕闇の迫る時間だった。
 アミィは心配そうに森の奥のほうを見つめている。

「きっと大猟なんだろう」
「そうですねっ。えっと、それで・・・」

 アミィちゃんは、俺の隣で黙っていたリスティに目をやった。
 ほとんどが顔見知りのトーティス村、見たことのない人間は訪問者とすぐに分かるのだ。

「はじめまして。リスティと言います。この村のミゲールさんの知り合いなんです」
「あっ、そうなんですか。じゃあわたし、道場まで案内しましょうか?」
 リスティは笑顔でそう言うと、アミィちゃんも屈託のない笑顔で返す。

「ちょっとまて」
 勝手に進む話に俺は突っ込みを入れた。

「ミゲール師範の知り合いなら先に言えっ」
「だって、訊かれなかったから・・・」

 リスティは面倒そうに俺を見た。
 確かに何の用件でトーティスに来たのか訊かなかった俺にも非はあるのか。

「アミィちゃん、案内お願いねっ」
「はいっ」

 二人は俺を置いて村の中に行ってしまった。
 どうせ俺も道場に行かねばならないのに・・・。

***


 先に武具を部屋におき、一息ついてから俺は師範の元に顔を出した。
 既に修練の時間は終わっており、師範は一人だった。

「ミゲール師範、先ほど戻りました」
「苦戦したらしいな」

 俺が言うより早く、師範は笑いながらそう言った。
 リスティに聞いたのか。しかし、事実だけに言い返せなかった。
 そう言えば、リスティは何処に行ったんだろう?

「ともあれ無事で何よりだ。自分の力量を上回る敵との修練も今後の役に立つだろう」
「はい」
「さて、帰って早々悪いがファートに一つ頼みたいことがある。」

 ミゲール師範は俺に待つように言うと、奥の部屋から何かを持ってきた。
 そして、地図とカードのようなものを俺に手渡す。

「明日から数日、リスティの護衛をお願いしたい」
「あぇ?」

 俺は思わず素っ頓狂な声を上げた。
 リスティの、護衛だって?

「そうだ。
 なに、大したことではない。リスティはユークリッドの図書館に寄ったのち、
 もう一度ココに戻ってくるらしい。それまでの護衛だ」

***


――翌日。
 俺とリスティは早々にトーティスを出た。
 王都ユークリッドならばそれほどの距離ではない。
 魔物どもも出るには出るが、俺の剣、ましてやリスティの魔術があれば負けることは無いハズだ。
 実際、ユークリッド手前の山道に入るまでに俺たちは傷一つ負うことは無かった。

「ね、ファート」
「ん?」
 リスティは上目遣いで俺を見ている。
 嫌な予感がする。
 この前から上目遣いのリスティはなにかしら無理難題を言うのだ。
 ちょうど頭一つ分ほど身長違うせいもあるが、あるいは意図的にそうしているのか。

「まだ時間あるし、せっかくだから遠回りしていこう」
「却下」
 即答だった。

「なんでよ〜」
「俺はリスティの護衛だ。守る方の身にもなってくれ」
「守られる方が言ってるんだからいいじゃない?」
「ダメだ」
「それに、私のほうが強いし・・・」
「・・・・・・」
「じゃ、勝手に行こっと♪」
 本当にひとり迂回路の方を歩いていくリスティ。
 ちょっと待てぇ!

「待たないから早くおいで〜」
 やっぱりこうなるのか・・・
 俺は仕方なくリスティのあとを追った。


 山道、しかも迂回路だがそれほど厳しい道のりでもない。
 ただ、距離が長いだけ。
 それと、この迂回路には一つ観光ポイントがある。
「ほらっ! 見えてきたよ!」
 リスティが嬉しそうにはしゃぐ。
 ちょうどユークリッド平原を一望できるビューポイントがあるのだ。

「綺麗だねぇ〜」
「まぁな」
 俺は興味なげに応答した。

「私は、好きだよ。この景色が。ここに暮らす人たちが」
「・・・リスティ?」
 普段と違うリスティの雰囲気に一瞬俺はたじろいだ。
 どこか儚げな。

「なぁ、リスティ・・・」
「ん? なに?」
 振り向いたリスティはいつも通りだった。
 紅い瞳がこっちを見つめている。

「お前、ハーフエルフなのか?」
 ・・・違う。
 俺が聞こうとしたのはそんなことじゃない。

「ハーフでもクォータでもないよ。ずっとご先祖様の血が混じってるだけ。
 わたしは、隔世遺伝ってやつでエルフの特徴や魔力が強く出てるみたいだけどね」
「そうなのか」
「うん、でも魔術だけじゃなくて法術も覚えたんだよ。頑張ったから」
 リスティは笑顔でそう言った。
 吹き抜ける風が、リスティの桃色の髪を凪いだ。

「さっ、行こっ」
 また勝手にリスティは歩き出した。
 ・・・いつも通りに。
 そして、俺もそのあとをついていく。

***


――3日後。
 ユークリッドについた俺とリスティは図書館に通い詰めだった。
 正確にはリスティ一人だ。
 俺自身は図書館に用は無い。それにこれほど平和な町の中で護衛の必要があるとは思えない。
 ましてや、護衛の対象は俺より強いのだ。
 そんなワケで俺は暇を持て余していた。

『剣技のすべて』
『剣術と拳術の融合』
『法術の歴史』
『時の魔人』
『雪降る街の奇跡』

 ここ数日で読んだ書物だ。
 アルベイン流は文武両道を旨とする。したがってこれも修行の一環だ、と自分に言い聞かせた。
 トーティスにはユークリッドほど立派な図書館もないし貴重な機会には違いない。

「ファート、暇そうだね?」
 俺は本をぱらぱらめくりながらリスティに応答した。

「見てのとおりだ」
「時空戦士って知ってる?」
「ぇ?」
 俺は腰掛けていた椅子を座り直した。

「時空戦士って、知ってる?」
 リスティは同じフレーズを繰り返した。

 時空戦士。
 100年前『時の魔人』を倒すため、時を越えてやってきた戦士たち。
 ヴァルハラ戦役に勝利し、見事『時の魔人』を退けた。
 しかし彼らがどの時代から来た何者なのかは一切不明・・・。
 少なくとも、俺の時代では。

「ユークリッドの召喚師、クラース=F=レスター。彼も時空戦士よ」
「・・・はぇ?」
「驚いた?」
「うぇ、そりゃ、まぁ・・・」

 クラース=F=レスターの名を知らないものは居ない。
 召喚術の権威にして、法術の創始者とも言われている。

「そんなワケで、ね。ここにはためになる資料がたくさんあるの」
「・・・・・・」
「付きあわせてごめんね。さ、出発するよっ」

 リスティはいつの間にか荷物をまとめていた。
 そして一人でさっさと出て行ってしまう。
「・・・・・・」

「ちょっと待てっ、置いてくなっ!!」
 俺は慌ててリスティを追った。
 リスティに追いついたのは街を出たところだった。

―― そう言えば、リスティはなにを調べているんだろう?
―― 何故、時空戦士のことを詳しく知っているんだろう?


「リスティ、待てよっ!」
「早くしないと置いてくよ〜」

 リスティはトコトコ歩いていく。

 まるでなにかに取り付かれたかのように歩いていく。
 俺はただ、リスティについていくだけだった。

「な、リスティ」
「ん?」

 ようやく俺が口が開いたのは10分ほど経過してからだった。
 リスティは歩速を緩めることなく歩き続ける。

「遺跡だよ。もう一度、調査にね」
「遺跡って、あの神殿か?」
「そう」

 リスティは言葉少なだった。
 俺もリスティの雰囲気に気圧されてあまり喋ることは無かった。
 神殿・・・リスティの言う遺跡に到着したのは日が暮れかかった頃だった。

――俺たちはかなり深い階層まで来ていた。
 リスティは神殿に仕掛けられたトリックを次々に解いていく。
 この神殿がこんなに複雑なものだとは俺は知らなかった。

「リスティ、何処まで行くんだ?」
「行けるところまで」
「・・・・・・」

 彼女には彼女なりの考えがあるんだろうが・・・。
 俺にとって、彼女の行動は無謀なようにすら見えた。
 やはり、リスティにいったんユークリッド戻るよう勧めよう。
 いや、トーティスの方が近いか。
 俺は自分の中で結論を出し、リスティに声を掛けようとした。
 そのとき、前を歩いていたリスティの歩が止まった。

「リスティ?」
「・・・・・・!」

 不意に空気が変わった。
 今までも人の手の入ってない場所特有の雰囲気は感じられたが、今度は違う。
 嫌悪感すら覚える寒さ。もっと言えば悪寒だ。
 俺はリスティの前に出た。
 俺の役目はなにか。
 そう、リスティの護衛だ。

「リスティ、進むぞ?」
「うん」

 リスティの短い返事が薄暗い遺跡にこだました。
 俺は慎重に歩を進めた。
 リスティはすぐ後ろに居るはずだが、気配をほとんど感じない。
 熟練した戦士は、極度の緊張下においても気配を消すと言うが、
 リスティのそれはまさにその領域に達しているように思えた。
 ・・・いや、俺自身が緊張ゆえに気配を感じ取れなくなっていたのかもしれない。

 狭くなりつつあった通路が不意に広がった。
「広間・・・?」

   俺の声が響いた。その音で、だいたいの広さを把握する。
 奥に何か居る。
 振り返るとリスティが小さくうなずいた。リスティも気付いたのだろう。

『グルルルルぅ・・・』

 低い呼吸の音が響いた。魔物だ。
 闇の中、うっすらと姿かたちが見える。

「あれは・・・ドラコケンタウロス・・・!?」
 俺はかつて書物で読んだ魔物を思い出した。
 ドラコケンタウロス。
 この辺りに居るような魔物は動物が凶暴化したようなモノが多いが、
 こいつはむしろ「魔の者」に近い。
 言うまでも無く、格が違う。

「違うよ」
 気を引き締めようとした俺の背後からそんな声がした。
 違う?
「あれは・・・ジェストーナ。“時の魔人”直属の魔物」
「じぇすとーな・・・?」

 どこかで聞いた事がある。
 ジェストーナ・・・そしてあの風貌・・・。

 思い出した。
 ヴァルハラ戦役だ。
 かつてヴァルハラ戦役の折、魔物が突如街中に現れ子供を誘拐したと言う話がある。
 その魔物の名が「ジェストーナ」だ。
 連合軍側の有力な魔術師だったエドワードという男が自らの命と引き換えに子供を助け、ジェストーナを倒したと言う。
 その結果連合軍の戦意がいっそう上がった、と言う逸話だった。

「ジェストーナって・・・なんでそんな奴がここに!」
「分からない・・・」

 リスティの表情は暗く、そして重い。
 ヴァルハラ戦役に出てくるような魔物。
 リスティの求めていたものはこの奥にあるのか、それとも目の前の魔物だったのか。
 俺には分からない。
 が、この魔物は俺たちを逃がしてくれそうな雰囲気には無かった。

「あなたの目的は・・・なに?」

 凛とした、そして落ち着いたリスティの声が闇に響く。

『フ・・・カツ・・・復活・・・』
「・・・復活?」

 奴の言葉を俺は繰り返した。
 リスティはその言葉を噛みしめるように奴を直視している。

「させない・・・」
「・・・リスティ?」
「そんなこと、させないっ!!」

 リスティは短刀を抜き去り、ジェストーナに斬りかかった!

「リスティっ! 無茶だっ!」

 ジェストーナは俺の倍以上の身体を持っている。
 その大きさを考えても、短刀での特攻は無謀以外の何者でもない。
 まして、相手が魔の者ならば・・・!
 だが、リスティは俺の想像以上に戦い慣れていた。

 しゅっ!
 リスティは右手で短刀を投げつける!
 ジェストーナもさすがに一瞬動きが止まった(ように俺には見えた)。
 そして間髪を入れずに魔法を放つ!

「稲妻よ、剣となりて敵を討たん! サンダーブレード!!」

 どがぁぁぁん!
 轟音が響く。リスティの手から放たれた魔法はまさしくブレードとなってジェストーナを撃った。
 ・・・・・・かに見えた。



続く


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●申し開き●

要するに本編で語れなかった説明その2。
魔術:「現代」においては失われている魔術。
   一応冒頭に書いたんですが、激しく分かりにくいと思われなので補足。
   『時の勇者』によって『時の魔人』が倒された歴史、
   つまりクレス達がダオスを撃退した歴史に則ってます。
   ダオス撃破後、魔術が生き残った現代。その設定の上にたっているのがこのSSでした。
   ちなみにこのあたりの解釈はテイルズなりきりダンジョンの小説版を参考にしてます。
   さらなるネタバレは第3部後の申し開きで(ぉぃ