『 Warming Heart 』
(ここは何処だ?)
(俺は何故こんな所にいるんだ?)
暗い。辺りは漆黒の闇だった。その中に、少年が1人佇んでいる。
少年は混乱する頭で考えた。しかし、答えは到底見つからなかった。
夢・・・にしては現実味を帯びすぎていた。
不意に、少年の目に光が差し込んだ。遠くの方に光が見えた。とても暖かな光だ
った。
少年はその光の方へ歩き出した。
すぐそこにあるのかもしれない。
或いは、果てしなく遠くなのかもしれない。
少年は歩いた。どんなに遠くても歩こうと思った。
その光から、なつかしい声が少年を呼んでいた気がしたから。
「浩之ちゃん! 浩之ちゃーん!!」
とある病院の一室。少女が泣き叫んでいる。
ベッドの上には少女と同年代の少年がいた。
その少年は、生命維持装置で生かされていた。
「浩之ちゃん!! 起きてよ!!」
「あかり・・・もう帰りなさい。あとは母さんが残るから。明日も学校なんでしょ」
「私・・・やっと浩之ちゃんに好きって言えたのに・・・海や、花火や、お祭りにも一緒に行こうねって言ったのに・・・」
「あかり・・・」
「それなのに・・・こんなのって・・・うっ・・・」
「あかり・・・今日はもう帰りなさい。きっと浩之ちゃんも目を覚ますから・・・」
「・・・・・・」
それは突然に起きた出来事だった。
道路で車に跳ねられそうになっていた幼児を助け、自分が身代わりに。
幸い、幼児は軽い怪我だったが、少年は頭を強く打ち、そのまま病院へ搬送。
医師によって緊急手術が行われた。
命だけはとりとめたが、脳死状態に。
病院には、連絡を受けて駆けつけた少年の幼馴染と、その母がいた。
「・・・・うん、分かった・・・」
少女は納得したようだった。
「私、今日は帰るよ。」
「もう暗いから、気をつけてね。」
少女は病室から出ていった。
少年は歩き続けていた。
光は近づいてはいなかった。しかし少年は歩き続けた。
「あかりに・・・あかりに会いたい・・・」
少女は自宅に戻っていた。
疲れていたのか、すぐに眠りについた。
「ここは・・・何処?」
少女は暗闇の中にいた。
「浩之ちゃん?」
声は遠くまで響いた。しかし、何も反応は返ってこなかった。
少女は振り返った。すぐそこに、光の扉があった。
少女はその扉へ向かって1歩足を踏み出した。
しかし、その足は止まり、少女はまた振り返った。
ここに最愛の人がいるような気がした。
根拠は無かったが、それは確信に近かった。
「ひろゆきちゃーーーーん!!」
少女は力の限り叫んだ。しかし、結果は同じだった。
少女は右手の拳を開いた。
そこには、光があった。その光は、少女の『心』だった。とても暖かな輝きを放
っていた。
光は、宙に浮き上がり、辺りをつつんだ。
少女は目を閉じた。
「はぁ、はぁ・・・」
少年は歩いていた。が、ついにその場に座り込んだ。
「はぁ、はぁ・・・あかり・・・もう会えないのかよぉ?」
少年は握った拳を地面に叩きつけようとした。
しかし、ふと思いとどまって、その拳を開いた。
とても暖かい光・・・少年の『心』があった。
光は辺りをつつんだ。
どれくらいの時がたったのだろう。
膨大な時間が経過したのか、あるいは刹那の時だったのかは、分からなかった。
少女は再び目を開いた。そこには・・・
「・・・浩之・・・ちゃん・・・」
目の前には、少女の幼馴染が立っていた。
「ひっ・・・浩之ちゃーーーん!!!!」
少女は少年に抱きついた。
少年も、彼女を暖かく包んだ。
「あかり・・・やっと会えたな」
「浩之ちゃん! 浩之ちゃん!!!」
少女の目からは涙がとめどなく流れた。
「浩之ちゃん・・・どうやってここに?」
落ち着きを取り戻した少女が話しかける。
「暖かい光があったからな」
「どれくらいかかった?」
「よく・・・分からない。お前に会いたいって思ってたら、お前が目の前にいた」
「浩之ちゃん・・・」
「浩之ちゃん、そろそろ戻ろうか?」
「ああ・・・そうだな。よし! 戻るか!」
「うん!・・・手、つないでもいい?」
少女は少しはにかんで言った。
少年は微笑んで手を差し出した。
トゥルルルルルルルル・・・・・
トゥルルルルルルルル・・・・・
「う・・・」
少女は電話のベルで目を覚ました。
もう真夜中になっていた。
「はい・・・神岸です」
「あかり! すぐ病院に来て!! 浩之ちゃんが!!」
バタン!
病室の扉が勢いよく開いた。
中にいた人々は驚いていたようだった。
「浩之ちゃんは!?」
病室には数名の看護婦と医師、それと少女の母がいた。
「浩之ちゃんがどうしたの!?」
「あかり・・・ちょっと落ち着きなさい」
母親に諌められて、少女は落ち着きを取り戻した。
「浩之ちゃんね、もう大丈夫だって」
「・・・・・・」
「もう心配いらないって。」
「本当に信じられません。まさかあの状態から回復するとは・・・」
「・・・・・」
少女は、何かを喋ろうとした。しかし、声にはならなかった。
代わりに、目から涙がこぼれ落ちた。
「・・ひ・・・ひろゆき・・・ちゃ・・・良かっ・・・た・・・」
涙があふれた。これ以上声は出なかった。
「あかり・・・」
彼女の母親も、目に涙をためていた。
「浩之ちゃ〜ん」
「ん? 何だ?」
「今晩の夕食何が食べたい?」
「そうだな・・・じゃあ久しぶりに・・・」
「うん」
「アスパラとにんじんの肉巻き、アボガドと納豆の和えものにスティックサラダ・
・・タルタルソースもつけてな」
「うんうん」
「それに、豆腐と油揚げとわかめとネギのみそ汁に、なすの浅漬け」
「よく覚えてるねー」
「あの日は俺の人生でベスト・・・ワーストか? とにかく3位に入る日だったか
らな」
「私、部屋に誘われたとき・・・嬉しかったよ」
「じゃあ何で帰ったんだよ?」
「う・・・それは・・・その・・・準備とか・・・そ、それより!一緒に夕食の材料買いに行こうよ!」
「ごまかしやがって・・・しょーがねーなー。よし、行くか」
「うんっ!」
FIN
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